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人をダメにするお嬢様は僕のお世話がしたいそうです  作者: 天鷹あき


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第五話

 入学式は体育館で行われた。

 教室では愛彩と共に行動していたが、高等部一年生を代表した挨拶を愛彩が担当する関係で、ほとんど別行動となった。


 愛彩は他の生徒達で囲われており、代表のスピーチが褒め称えられている。

 貴族の学校と言えど、高校生。普通の学校でもあるような、こういう学生らしいやり取りに俺は少しだけ親近感を覚えた。


「八ヶ崎さん。先程のご挨拶、とても素敵でしたわ」


「流石は八ヶ崎さん。とてもお上品で感銘を受けましたわ」


 確かにステージの上に立った愛彩は、品格が漂う凄いスピーチだった。

 完璧なお嬢様と言っても過言ではない。そのスピーチは光恵学院の高等部一年の代表というよりも、八ヶ崎家を代表しているようにも思えた。


「ところで、今朝は男子生徒と並んでいらしたのは本当なんですの?」


「あの殿方とは、どのようなご関係なのですか?」


 並んで歩いていた男子生徒ってのは、ひょっとしなくても俺のことか?

 ボーっと令嬢グループを見ていると、そのうちの一人が俺のほうを見る。


「そう、貴方ですわ! 八ヶ崎さんとは、どういったご関係で?」


 愛彩だけでなく、俺にも視線が注がれた理由はこれか。

 予想していなかった流れ弾に、俺は頭を掻いた。


 建前上、八ヶ崎家の使用人見習いということになっているが……。

 まさか、父が会社をリストラされたので昔からの父の友人である八ヶ崎家に世話になることになった、とは口が裂けても言えない。


「おはようございます。皆さん、席に着いてください」


 周りのお嬢様達が盛り上がり始めた時、前のドアから担任教師が入ってきた。

 丁度良すぎるタイミングに、俺はこっそりと胸を撫でおろす。


 そのまま朝のホームルームが始まる。

 担任教師が進級、入学を祝う挨拶が終わると、順番に自己紹介する流れとなった。


「では、出席番号順からお願いします」


 出席番号一番は――俺だ。

 クラスメイトの視線が一斉に集まるのを背中で感じた。


 ついさっきのやり取りが脳裏をよぎり、こめかみに汗が垂れる。


「……碧木唯人です。中学までは静岡の浜松に居ました。その、よろしくお願いします」


 席に着く為に引いた椅子の音だけが教室に響いた。

「え? それだけ?」と言わんばかりの空気をひしひしと感じる。


「次の方、どうかしましたか?」


 先生の一言で止まっていた時が動き出し、出席番号二番の生徒は自己紹介を再開させた。

 ……とりあえず、この場に関しては何とかやり過ごせたか?


 その後は順調に進んでいく。

 聞いたことがあるような、ないような名前や企業を耳にする。やはり、俺とは住む世界が違うな。


「甘南備(かんなび)レンです。可愛い物が大好きです。よろしくお願いします」


 十二、三番目くらいだろうか。

 甘南備レンと名乗った女子生徒は、俺と同じように簡潔な自己紹介をした。


でも、甘南備って。あの甘南備か……?


「甘南備さん、今日も美しいですわね」


「八ヶ崎さんと甘南備さんの二大財閥令嬢が同じクラスに揃うとは、凄いですわね」


 近くからボソッと聞こえる会話で確信した。


 八ヶ崎グループに次ぐ、国内最大規模の甘南備グループ。

 金融や不動産、造船なども手掛けている総合商社だ。


 その令嬢と同じクラスとは。

 恐るべし、光恵学院。


 出席番号二十番台後半まで順番が回ってきた時、見覚えのある顔が目に入った。

 その少女は、相変わらずの凛とした表情で、自己紹介を始める。


「東福寺(とうふくじ)華娜(かな)です。実家は主に楽器やオートバイの製造業を営んでいます。私は高入生(こうにゅうせい)ですが、気合いを入れて精進していく所存です。皆さん、よろしくお願いします」


 俺に気付いては――なさそうだ。

 目は合ったが、特に意識しているようには見えなかった。


 続けて何人かの自己紹介が終わった後、いよいよ愛彩の番だ。


「皆様、ご機嫌よう。八ヶ崎愛彩と申します。家業の事業は多岐に渡りますが、皆様の身近なところで言いますと、八ヶ崎銀行でしょうか」


 朝から注目の的になっているということもあり、多くの生徒の視線を奪っている。

 担任教師ですら、羨望の眼差しを向けていた。


「そして、最初に自己紹介をした碧木唯人さんの婚約者でもあります」


 教室内が一気にざわめく。クラスメイト達は愛彩と俺を交互に見る。

 先生も含めて、皆は驚いた顔をしているが、一番驚きたいのは俺だ。


 気品な佇まいは思わず見惚れてしまう程だが、俺はそれどころではない。婚約した覚えは一切ないのだから。


「建前上、唯人さんは私の使用人見習いとしてご入学頂いていますが、諸事情によって伏せておりました。ですが、これから皆様と学院での生活を共にする訳ですから、隠し事はよろしくないと思い、この場をお借りして公表させて頂きました」


 ……今、思えば、上京してすぐに補導されかけた時にも同じようなことを言っていたな。

 愛彩は、芍薬の姿のように綺麗な姿勢を保ったまま深々とお辞儀をしながら言う。


「皆様。どうぞ、よろしくお願いいたします」

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