第二十一話
人は身の丈に合った生活をするべきだ思う。
俺のような一般庶民は公立校に通いながら部活動を通じて青春をし、高校で出会った女子と付き――
いや、俺に色有る高校生活は想像つかないので恋愛は却下。
バイト先の女子大生の先輩に憧れて終わるのが関の山だ。
そんな一般的な男子高校生の土曜日と言ったら、漫画を読んで過ごしたり、ゲームして過ごすなどの大衆的な娯楽で時間を潰すイメージがある。
でなければバイトで日銭稼ぎだ。
少なくとも、一部の成功者しか来られないような場所は俺にとって場違い以外の何物でもない訳で。
今居るのが、まさにそんな場所だ。
よくわからない絵画が均等な間隔に飾ってあって、一面ガラス張りの窓があって、上品な感じの音楽が流れている。
独特な柄の小皿にごぢんまりと盛り付けられたフレンチ的な料理を、俺が食べていい訳がない。
当然、前に食べた――
いや、頂いた生肉も本来なら、その味を知ることなく死ぬ運命だったはずだ。
そんな俺がこんなところに居られる理由はたった一つ。
目の前で聖女の如く微笑んでいる八ヶ崎愛彩がとことん甘やかすからである。
「唯人さん、どうかされましたか? とっても美味しいですよ」
愛彩がテーブルのテリーヌ(?)を食べるように促してくる。
フォークとナイフが料理の横にも三本ずつ並べられているが、好きなナイフとフォークを選んで良いのか?
一時間。
いや十分くらいで良いから、今からでもテーブルマナーを義務教育に組み込むべきだと思う。
愛彩の手元を見ると外側の食器が先に使われているようだったので、とりあえず俺も真似しておこう。
我ながらぎこちない動作でテリーヌとやらを口に入れる。
……美味いな。
いや、店の雰囲気からして期待通りの味ではあるのだが、それにしても美味い。
添加物や調味料などのようなコテコテしたものは一切無く、シェフが素材を引き出すことに全力を注いだのだろうと素人目ながらに感じる。
「……美味しいよ。愛彩」
「良かったです」
彼女は俺の食の感想に柔和な笑みで返しているが、こう見えてとんでもないモンスターだ。
愛彩の持つ執念が生み出す行動力は凄まじいもので、ここに来ることだって昨日の今日で決め、この前の水曜日は急用とは言え日帰りで大阪へ向かっていた。
介護士でもないのに俺の食事をほう助し、歯科衛生士でもないのに俺の歯を磨く、そんな女。
この前聞いた話によると、動機は「お世話したいから」だそうだ。
それだけで俺のことを婚約者に仕立て上げるか?
二人で風呂に入るとか言い出すか?
親同士が昔からの仲とは言え、出会って二週間も経っていない。
正直、狂っていると思う。
ここはレストランも兼ねた高級ホテルとのことで、食事を終えた俺達は建物奥の個室に入った。
心拍数が徐々に上がっていく。
愛彩は画に描いたような美人な上、モデルも顔負けなメリハリのある体型。
健全な男であれば興奮しないほうが異常だ。
「こ、こういうとこは良く来るのか?」
緊張を紛らわす為に会話を試みてみる。
「いいえ? 半年に二回くらいでしょうか」
いや、結構な頻度じゃねぇか。
「一人で?」
「一人の時もありますが、椿と二人の時もあります」
「そ、そうか……」
会話が途切れてしまった。
気まずく思う俺に反して、ニッコリと笑っている愛彩。
「……愛彩は仕事も頑張ってるもんな。どんな仕事をしてるかは知らんけど」
少し意地悪い発言だっただろうか。
気にしながら愛彩を見てみるが、微塵も気にした様子を見せず、代わりに服を脱ぎ始めた。
「ちょちょ、お、おい!?」
少しずつ露わになる白い素肌が眩しい。
「あら、どうかしましたか?」
「どうかしましたかじゃなくってな! せめて俺の居ないところで脱いでからタオルを体に――」
「あら? 私、言いませんでしたっけ? 婚約者なのだから、生まれたままの姿くらいは見せ合うべきだと」
そもそも婚約者だと言う点に反論したい。
緊張で口をパクパクさせる俺に構わず愛彩は身に付ける肌着すらも脱ぎ捨てると、タオルを一枚だけ巻いた。
細くて華奢な腕は透明で白く、黒い内装によって更に際立っている。
近寄ってくる姿は、まさに氷肌玉骨。
「唯人さんも……。ほら。お洋服を脱がないと共に入浴できませんよ」
目の前で立ち止まったお嬢様は、平然と服を脱げと言ってきた。
俺は半ば諦める形で最低限の要求を彼女に伝える。
「せめて、服を脱いでいるところは見ないでくれ」
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