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人をダメにするお嬢様は僕のお世話がしたいそうです  作者: 天鷹あき


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20/25

第二十話

 午後のホームルームが終わり、帰りの支度をするクラスメイト一同。

 その半数以上は急ぎ足で教室を出て行く。


 放課後の過ごし方からして育ちが違うと感心させられる。

 家業の手伝い、習い事、部活。


 この前の俺達のようにお茶会でカフェに集まる生徒も居るが、どちらかと言えば少数派だ。

 公立校に居そうな「日が暮れるまで教室で駄弁って過ごす」生徒は、少なくとも今のところは見かけていない。


 真っすぐ帰路に就くのは俺と愛彩も例外では無く、先日のお茶会以外で寄り道は一切していない。

 今日も今日とて、執事長の桜寿(おうじゅ)さんが運転する車で渋谷の松濤《しょうとう》に帰るのだ。


「ゆい――碧木様。今、お時間よろしいですか?」


 普段のお嬢様モードになったレン。

 最初、明らかに素の状態で話し掛けただろ。


 いつか演技していることがバレるのではないかと、最近では俺のほうが冷や冷やしている。


「昨日、気分転換に焼き菓子を作ったのですが、興が乗り過ぎてしまいまして。こちら、良かったら……」


 言いながら、レンは鞄から手の平サイズに袋詰めされたクッキーを取り出した。


「え、良いのか?」


 声を出さない代わりに、レンは満面の笑みで「いーよ」と口パクで返事をした。

 あざとい立ち振る舞いが少々癪に障るが、ありがたく頂戴しよう。


「俺、甘い物には目が無くてさ。助かるわ」


「碧木様。良ければ今、召し上がってみて頂けませんか?」


「今か? 帰ってから、ゆっくり味わおうと思っていたが」


「お一つだけでも」


 まあ、作った本人が言うなら。


「では、頂きます」


 封を開けてクッキーを一つ、口に放り込む。


「あ、美味い! めっちゃ美味いわ、これ」


 程よい甘さでサクッとした食感のクッキー。

 庶民の俺にとっては大変馴染み深い。


 こういうのでいいんだよ、こういうので。


「お口に合って良かったですぅ♡」


 気持ち悪い口調には触れないでおく。


「こういうの、普段からよく作ってるのか?」


「ううん、全然。なんなら初めて作った」


 やんちゃに舌先を見せるレン。

 これで初めてか。凄いな、こいつ。


「残りは是非お帰りになってから召し上がってください。では碧木様、また来週」


 そう言うと、レンは上品さを出しながら立ち去った。

 まるでカメレオンのような奴だ。


 もし、女優になったら日本アカデミー賞を受賞できるのではないか?





 静寂な帰り道の車内。

 俺はレンから貰ったクッキーのことで頭がいっぱいだった。


 いつ食べよう? やはり夕飯後か。

 食べるなら自分の部屋以外に無いよな?


 ほぼ毎日、愛彩に食後の歯磨きをしてもらっている。

 クッキーはその後のお楽しみだな。


「そう言えば、唯人さん。先程、甘南備さんと何を話していたのですか?」


 愛彩は俺がレンとやり取りしていたところを遠目に見ていたらしい。


「あぁ。レンからクッキー貰ったんだ」


 言いながら、俺は鞄からクッキーを愛彩に見せる。


「甘南備さんって、お菓子作りされるんですね」


「いやそれがな? 別に普段から作ってる訳じゃなくて、昨日初めて作ったらしいんだよ」


「……へぇ」


「ん? どうした、愛彩」


「……お行儀が良いとは言えませんが。今、試しにお味のほうを確かめてみては?」


「あぁ、味は満点だったぞ。美味かった。受け取った時に食えって言われて食べたんだ」


「なる、ほど」


 さっきから愛彩の様子がおかしい。

 思案顔のまま、黙り込んでしまう。


「……あげないぞ?」


「あ。いえ、結構です」


 念の為伝えたが、その線では無いようだ。


「それに、そのクッキーは全て、唯人さんが召し上がるべきです。そのほうが、甘南備さんは喜ばれると思いますよ」


「そんな大袈裟な――」


「因(・)み(・)に(・)」


 俺が否定しようとしたら、少し大きな声で遮られたので口を閉じた。


「唯人さん。甘味がお好みなのですか?」


 愛彩がテレビドラマの刑事ばりに鋭い眼差しで質問してくる。


「あ、あぁ。大好きだね。甘い物には目がないよ」


 そう言った途端、愛彩は大きなため息を吐いた。


「そうですよね、お好きですよね。お茶会の時にスティックシュガーを二本も入れるくらいですものね」


 よく見てたな、俺がスティックシュガーを二本入れてるところ。


「私としたことが……。完全なリサーチ不足です。……怠慢。圧倒的、怠慢です」


 愛彩は何かを自分に言い聞かせているようだが、俺は全く怠慢だとは思わない。むしろ、尊敬すらしている。


「愛が……。足りていませんでした」


 突然、両手で頬をパチンと叩く愛彩。頬がじわじわと赤くなっている。


「八ヶ崎愛彩。更に気合いを入れて精進致します」


 自己暗示? が終わったのか、鼻息を荒くしながら勢いよく顔を俺のほうへ向ける。

 なんなんだ、一体。


「唯人さん! 今後は食後に甘味を頂きましょう!」


「お、おう。ありが、とう……?」


 唐突すぎて、なんとなく嫌な予感がしなくもないが。

 まあ、甘いものが食べられるなら何でもいっか。

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