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人をダメにするお嬢様は僕のお世話がしたいそうです  作者: 天鷹あき


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第十二話

 目が覚めて、いつもの部屋の明るさではないと即座にわかった。

 若干暗い。恐らく、まだ朝の五時頃だろう。


 布の擦れる音が聞こえる。

 薄暗い部屋の中を見渡すと、愛彩がこちらを見ていた。


 着替えているのだろうか、下着姿で居る。

 薄いピンクのレース付で華やかな代物だ。


 前から思っていたが、愛彩は中々に豊満なものを持っていると思う。

 服の上からでもわかる程の大きさは、気品高い八ヶ崎愛彩の魅力を更に高めるには十分過ぎる武器だ。


 将来の旦那さんとお子さんは、この胸を手に入れることが確約されている。

 羨ましい限りだ。


「……って、何してんだ!?」


「唯人さん、おはようございます♡」


 寝起きということもありボヤっと見ていたが、目の前で起きている異常な出来事により完全に脳が覚醒してしまった。


「起こしてしまいましたね。申し訳ありません」


「申し訳ありません、じゃなくて! なんで俺の部屋で服を脱いでんだ!?」


「理由ですか? 知りたいです?」


 頬に左手を当てて照れながら言う愛彩。


「唯人さんの寝顔を見ながら朝の身支度をしようと思いまして……♡」


「頼むからやめてくれ……!」


「あら、そこまで照れなくても良いではありませんか」


 照れてねぇよ……。

 このやり取りを朝からすると、どっと疲れる。


「とにかく! 服を着てくれないか。目のやり場に困る」


「そうですか……」


 愛彩が残念そうな顔をしながらシャツに腕を通す。


「ていうか、なんで俺の部屋で着替えてるんだよ」


「それは私の日課です!」


「日課?」


「ええ。唯人さんの寝顔を眺めながら朝の身支度をするのが私の日課なのです」


「ちょっと待て。日課ってことは、今までもそうしてたのか……?」


「勿論! 昨日も、一昨日も。その前の日も! 唯人さんの寝顔を拝見致しました♡」


「は……?」


 愛彩から告げられた事実を聞いて目眩がした。

 人に、ましてや同い年の女子に寝顔を見られるなど笑止千万もいいところ。


「まあまあ。寝顔の一つくらい、減るものではありませんし」


 頭を抱えている俺に、愛彩は謎のフォローをする。


「俺の気は滅入るけどな!?」


 嘆息しつつ、愛彩をジッと見る。

 実質、俺は八ヶ崎家に居候している身だ。


 ご飯を食べさせてもらったり、歯磨きされたりするだけでなく、寝顔を見られる行為は非常に耐えがたいものであることは違いない。


 だからと言って、それらの行為を断固として拒否するのも立場的に筋が通っていない気がする。


 少なくとも世話になっている間は彼女がすることを受け入れるべきだし、この状態から脱却する為にも一秒も早く自立するべきだ。


 このままでは、俺は彼女のほう助を受けないとまともに生きていけないダメ人間になってしまうだろう。

 想像しただけで身震いする。


 よし。今日の放課後にでも、バイトの求人を調べてみるか。

 俺が深刻そうに考え事をしていたのが伝わったのか、愛彩は残念そうに口を開く。


「唯人さんの寝顔を直(・)接(・)見ながら朝の身支度をすることで一日を頑張れていたのですが……。仕方ありません。これからは、写(・)真(・)を見て英気を養うとします」


「写真? って、まさか……」


 俺が問い詰めるよりも先に、愛彩はスマホの画面に映った滑稽に口から唾液を垂らしている上、目が半開きになっている俺の顔写真を見せてくる。


「何やってんの?」


「てへっ」


「てへっ、じゃねーよ!」


 盗見に盗撮と、立派な犯罪だぞ。


 しかし、俺が声を上げたところで膨大な富と権力によって揉み消されるのだろう。


「心配なさらないでください。個人鑑賞でしか使用するつもりはありませんので」


「全く。他に俺の知らないところで、何かやってないだろうな……。せめて、起きている時にしてくれよな」


 そう俺が呟くと、愛彩は真顔のまま顔をグイっと近づけてきた。

 桃のような甘くて優しい香りが鼻の奥にまで届く。


「唯人さん。起きている時なら何しても良いのですか?」


「え」


 膝と布団が擦れる音と共に、愛彩は俺に近づき……。

 肩を掴まれ、愛彩は俺に体重を少しずつ掛け始める。


「お、おい。ちょっと」


「しっ。力を抜いて……」


 俺と愛彩の顔は、ゼロ距離寸前。

  ボタンが閉められていないシャツの隙間から、白い弾力のありそうな谷間が見え隠れしている。


 高鳴る鼓動と真っすぐで綺麗な瞳に耐えられず、目蓋を閉じてしまう。

 同時に、右頬に柔らかい感触とリップ音が静寂で蒼然な部屋の中で鮮明に感じ取れた。


 恐る恐る目を開けると、頬を若干赤らめている愛彩。

 唇を左手で色っぽく触っている。


「ここは……。大きくなってから、ですね」


 空いている右手で俺の唇を指差しながら、愛彩は妖艶に微笑む。

 大きくなってからの意味がいまいちわからない。


 最初は、いつものようにからかわれているだけかと思っていたが、彼女の照れくさそうにする表情を見て瞬時に誤りだと認識する。


 何故だろうか。それを見た俺は、あの時の金髪少女のことを思い出していた。

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