第7話 倒れた相棒
それから数日、私はターレンとヒスイと共に旅を続けた。
森を抜け、なだらかな丘を越える。ターレンは寡黙だったが、道々、この世界のことを少しずつ教えてくれた。国がいくつかに分かれていること、この先にある町の名前。
小さな集落で一晩の宿を借りると、宿の女将と世間話をするターレンの後ろで、私はただ黙ってその声を聞いていた。
「そういえば、東の方は薬草の値が上がってるらしいよ。なんでも評判の医者が来てから、患者がどっと押し寄せて、薬を作る分の薬草が足りなくなってるんだと」
「評判の医者?」
「人だろうが獣だろうが、分け隔てなく診るとかで。あたしゃ会ったことないけどね」
ターレンは相槌を打っただけで、それ以上その話に興味を示さなかった。私も、聞き流したはずだった。それなのに、なぜか胸の奥がざわついて、しばらく寝つけなかった。理由はわからなかった。
「希、お前、家はどっちの方角なんだ。こんなところまで、何をしにきた」
「――遠くから、来たので。うまく、説明できなくて」
言葉を濁すと、ターレンは、それ以上追及しなかった。ただ、少しの間、探るような目でこちらを見ていた。聞かれるたび、私は同じように言葉を濁した。ターレンもそれ以上は踏み込んでこなかった。ただ、隣を歩くヒスイが、時々そっと私の手のひらに頭をすり寄せてくることだけが、この慣れない世界の中で、唯一の温もりだった。
異変に気づいたのは、旅を始めて五日目の朝だった。あの日、橙色の雲を眺めながら感じた、悪くない旅だという気持ち。それが、長くは続かなかった。
「ヒスイ?」
いつもなら真っ先に起き出して、朝日の中で伸びをしているヒスイが、その日は毛布の隅にうずくまったまま動かなかった。呼びかけても、耳がわずかに動くだけ。
駆け寄って触れた背中は、燃えるように熱かった。
「ターレン、様子がおかしい」
声を上げると、ターレンが飛んできた。ヒスイを抱き上げるその顔から、いつもの落ち着きが消えていた。
「……こんなことは、今までなかった」
その声には、隠しきれない焦りがにじんでいた。
「東の国だ。腕のいい医者がいるという、あの町まで急ごう」
荷物をまとめる手が、わずかに震えているのが見えた。私はただ、ヒスイの熱い体を上着でくるみ、ターレンの後を追って、夜明け前の街道を走り出した。
息が上がる。踏みしめるたびに、街道の硬さが足に響く。それでも、止まるという選択肢はなかった。
腕の中のヒスイが、時折、小さく震える。その震えが伝わるたびに、もっと速く、もっと速くと、自分を急き立てた。
東の空が、ほんのわずかに白み始めていた。




