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第6話 子供だから

 町に着いて、食料を買い足すことになった。


「希は、ここで待ってろ」


 ターレンが、当然のようにそう言った。


「私も行きます」


「危ないだろう。市場は人が多い。はぐれたら大変だ」


「はぐれません。子供じゃないんだから」


 言ってから、はっとした。今の自分は、誰がどう見ても、中学生の少女。

 ターレンは、困ったように笑うと、それ以上何も言わずに、一人で市場へと向かっていった。


 置いていかれた。それだけのことに、こんなにも悔しさを感じるとは、思っていなかった。

 宿の軒先で、荷物番をしながら、道行く人々を眺める。誰も、私のことを気に留めない。大人たちの話し合いに入ろうとしても、「危ないから下がってなさい」と、やんわり押しのけられる。


 宿の女将にも、道を聞こうとして「子供は迷子になるから、大人しく待ってな」と、頭を撫でられた。悪気はないのだと思う。それでも、その手つきに、小さな苛立ちが積み重なっていく。


 言いたいことがあるのに、聞いてもらえない。

 意見があるのに、最初から聞く価値がないと決めつけられる。

 その苛立ちは、覚えのあるものだった。


 ――これが、慧の感じていたことなのだろうか。


 教室で、誰にも本音を聞いてもらえないまま、机に向かい続ける日々。大人たちが「大丈夫、そのうち慣れるから」と、分かったようなことを言うたびに、慧も、こんな気持ちを味わっていたのかもしれない。


 しばらくして、宿の裏手から、子供たちの遊ぶ声が聞こえてきた。何人かが輪になって、何かの遊びをしている。混ざりたい、と一瞬思った自分に、驚いた。大人だったころの自分なら、決して抱かなかった感情だった。

 慧も、こんなふうに、誰かの輪に入りたいと思いながら、その一歩を踏み出せずにいたのだろうか。そう思うと、あの閉ざされたドアの向こうの沈黙が、少し違って見えてきた。


 荷物番をしながら、私は、ただじっと、その苛立ちの正体を見つめていた。

 分かってもらえないことは、こんなにも、寂しい。

 その寂しさを、私は、これまで、どれだけ慧に感じさせてきたのだろう。

「ちゃんと聞いてる?」と、何度も口では言っていた。それなのに、本当に耳を傾けていた時間は、どれくらいあったか。今こうして、自分が同じ立場に立たされて、初めて気づくことばかりだった。


 市場から戻ってきたターレンが、包みを渡しながら、こう言った。


「待たせて悪かったな」


「――別に」


 素っ気なく答えながらも、受け取った包みは、思ったより温かかった。中身は、焼きたてのパンだった。


 宿の窓から、遠くに見える山並みを眺める。明日には、あの山の向こうまで進むことになる。ターレンは、まだ何も教えてくれていない、道の先に何があるのかを。

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