第5話 焦げた干し肉
「――腹、減ったな」
街道を歩きながら、ターレンが唐突にそう言った。
「まだお昼には早いんじゃ」
「腹の虫に、時間なんて関係ない」
真顔でそう返され、思わず笑ってしまった。
「そういえば、この道、どこまで続いてるんですか」
「まっすぐ行けば、次の町だ。半日もかからん」
「詳しいんですね」
「何度も通った道だ」
そう言うターレンの目は、少し遠くを見ていた。理由は聞かなかった。まだ、聞ける関係ではない気がした。
ヒスイが、ターレンの足元を、ぴょこぴょこと跳ねるようについてくる。時々、道端の虫を見つけては、前脚でつつこうとして、逃げられていた。
「ヒスイは、いつもそんな感じなんですか」
「昔から、落ち着きがない」
「昔から?」
「……いや、なんでもない」
ターレンは、慌てたように話を逸らした。この時はまだ、その意味を、私は深く考えなかった。
昼過ぎ、川辺で小休止を取ることになった。ターレンが、器用に火を起こし、干し肉を炙り始める。
「食べるか」
差し出された肉は、少し焦げていた。
「――焦げてます」
「気のせいだ」
明らかに気のせいではなかったが、口にすると、意外と悪くない。香ばしさが、逆に美味しく感じられた。
ヒスイが、物欲しそうにこちらを見上げている。ターレンは、小さく切った肉を、ひょいと放ってやった。ヒスイは、器用にそれを口で受け止め、満足そうに尻尾を振った。
「仲がいいんですね、その子と」
「――さあな」
そっけない返事だったが、その手つきは、どこまでも優しかった。
食休みの後、再び歩き出す。ヒスイが、疲れたのか、ターレンの荷物の上にちょこんと乗って、丸くなった。
「重くないですか」
「軽いもんだ」
そう言うターレンの足取りは、心なしか、いつもよりゆっくりだった。空を見上げると、鳥の群れが、遠くの山の方へと飛んでいくのが見えた。
「あれは?」
「渡り鳥だ。今の時期、南へ向かう」
「私たちも、似たようなものですね。行き先も分からないまま、歩いてる」
ターレンは、何も答えなかった。それでも、その沈黙は、嫌なものではなかった。
夕暮れ時、遠くに町の灯りが見えてきた。今日中には着けそうだった。
「――もうすぐだな」
ターレンが、空を見上げながら呟いた。橙色に染まる雲を、しばらく二人で、無言のまま眺めていた。
理由も分からないまま始まったこの旅が、少しずつ、悪くないものに思えてきていた。
その気持ちが、長くは続かないことを、この時の私は、まだ知らなかった。




