↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/29

第5話 焦げた干し肉

「――腹、減ったな」


 街道を歩きながら、ターレンが唐突にそう言った。


「まだお昼には早いんじゃ」


「腹の虫に、時間なんて関係ない」


 真顔でそう返され、思わず笑ってしまった。


「そういえば、この道、どこまで続いてるんですか」


「まっすぐ行けば、次の町だ。半日もかからん」


「詳しいんですね」


「何度も通った道だ」


 そう言うターレンの目は、少し遠くを見ていた。理由は聞かなかった。まだ、聞ける関係ではない気がした。


 ヒスイが、ターレンの足元を、ぴょこぴょこと跳ねるようについてくる。時々、道端の虫を見つけては、前脚でつつこうとして、逃げられていた。


「ヒスイは、いつもそんな感じなんですか」


「昔から、落ち着きがない」


「昔から?」


「……いや、なんでもない」


 ターレンは、慌てたように話を逸らした。この時はまだ、その意味を、私は深く考えなかった。


 昼過ぎ、川辺で小休止を取ることになった。ターレンが、器用に火を起こし、干し肉を炙り始める。


「食べるか」


 差し出された肉は、少し焦げていた。


「――焦げてます」


「気のせいだ」


 明らかに気のせいではなかったが、口にすると、意外と悪くない。香ばしさが、逆に美味しく感じられた。

 ヒスイが、物欲しそうにこちらを見上げている。ターレンは、小さく切った肉を、ひょいと放ってやった。ヒスイは、器用にそれを口で受け止め、満足そうに尻尾を振った。


「仲がいいんですね、その子と」


「――さあな」


 そっけない返事だったが、その手つきは、どこまでも優しかった。


 食休みの後、再び歩き出す。ヒスイが、疲れたのか、ターレンの荷物の上にちょこんと乗って、丸くなった。


「重くないですか」


「軽いもんだ」


 そう言うターレンの足取りは、心なしか、いつもよりゆっくりだった。空を見上げると、鳥の群れが、遠くの山の方へと飛んでいくのが見えた。


「あれは?」


「渡り鳥だ。今の時期、南へ向かう」


「私たちも、似たようなものですね。行き先も分からないまま、歩いてる」


 ターレンは、何も答えなかった。それでも、その沈黙は、嫌なものではなかった。


 夕暮れ時、遠くに町の灯りが見えてきた。今日中には着けそうだった。


「――もうすぐだな」


 ターレンが、空を見上げながら呟いた。橙色に染まる雲を、しばらく二人で、無言のまま眺めていた。

 理由も分からないまま始まったこの旅が、少しずつ、悪くないものに思えてきていた。

 その気持ちが、長くは続かないことを、この時の私は、まだ知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。