第20話 光の中で
毛皮が、ゆっくりと透けていく。小さな体が、輪郭を失い、光の中で伸びていく。
まぶしさに目を閉じかけた、その時。
光が引くと、そこには、灰色の猫ではなく、一人の少女が横たわっていた。ヒスイと同じ色の、灰がかった髪。閉じたまぶたが、震えるように動く。
「――う、ん」
小さな声が漏れた。ゆっくりと開いた瞳は、澄んだ、深い緑色をしていた。
「ここ、は……」
少女は、戸惑ったように体を起こし、自分の両手を見つめた。人の手だった。それが、何よりも信じられないというように、何度も指を開いたり閉じたりしている。
「戻った……本当に、戻ったの」
涙が、その頬を伝った。私は、震える少女の背中に、そっと手を回した。この子を、ずっと大切に思ってきた。その記憶は、何一つ欠けることなく、胸の中にあった。
「よかった」
それだけしか、言葉が出てこなかった。
*
診療所の寝台の上で、ライオンが、大きく息を吐いた。
薬を飲ませたランは、獣の体に手を当てたまま、じっとその変化を見守っていた。
熱い体温が、少しずつ落ち着いていく。荒かった呼吸が、静かなリズムを取り戻していく。
「――良くなって、いる」
呟いた声が、震えていた。長い間、何をしても効かなかった治療が、初めて効いた瞬間だった。
ライオンが、ゆっくりとまぶたを開けた。金色の瞳が、ランを見つめる。
その目を見た瞬間、ランの中で、何かが揺らいだ。
言葉にならない懐かしさ。まるで、ずっと昔からこの目を知っているような。
「お前は……」
言葉にならない問いが、喉の奥に引っかかった。ライオンは、ただ静かに、ランの手に額をすり寄せた。まるで、長い旅から帰ってきたことを、伝えるかのように。
ランは、その温もりに、そっと自分の額を寄せた。
診療所の窓の外では、夕日が、静かに沈んでいくところだった。ライオンの息づかいだけが、穏やかに、部屋の静けさに溶けていった。




