第2話 喋るぬいぐるみ
スマホの通知が震えたのは、深夜二時を過ぎた頃だった。
動体検知。慧の部屋。
心臓が跳ねる。画面を開くと、暗い部屋の中、ベッドの上で何かが動いていた。目を凝らす。慧が起き上がり、机の上のライオンのぬいぐるみに手を伸ばしている。
小さい頃、私が買ってやったものだ。もう何年も、ずっとあの棚の隅に座ったまま埃をかぶっていたはず。
慧がそれを抱き上げた瞬間、映像の中で、ぬいぐるみの目が光った。
見間違いだと思った。けれど次の瞬間、ぬいぐるみの口が、確かに動いた。
「――また来たのか」
低く、くぐもった声だった。スマホのスピーカーからそれが漏れた瞬間、私は思わず自分の口を手で覆った。
また、という言葉が、頭の中で引っかかった。これまでの二回も、こうして「行って」いたということなのか。
画面の中で、ぬいぐるみが膨らんでいく。縫い目がぎしぎしと軋む音がして、みるみるうちにベッドいっぱいの大きさになり、やがて天井につかえるほどになる。もう、ぬいぐるみではなかった。金色のたてがみを持つ、本物のライオンが、そこに座っていた。
慧は少しも驚いていないようだった。まるで何度も繰り返してきたことのように、慣れた仕草でライオンの背中によじ登る。
「待って」
声に出したのは、画面の中の慧にではなく、自分自身に対してだったのかもしれない。指先が震えて、スマホを落としそうになる。
ライオンが低く唸ると、部屋いっぱいに光が満ちた。まぶしさに目を細めた一瞬の後、光が引くと――そこには誰もいなかった。
慧の部屋は、いつもと同じ、静かな暗闇に戻っていた。
私はしばらく、画面を見つめたまま動けずにいた。




