第1話 消えた部屋
その夜、慧は三度目の「消失」をした。
もちろん、そのときはまだ、そう呼ぶべき出来事だとは知らなかった。ただの、真夜中の胸騒ぎだと思っていた。
慧の部屋のドアはいつも半開きだ。閉めれば閉めたで気になるし、開けておけば開けておいたで、何をしているのか気になる。結局、私はいつもこうして真夜中に目を覚まし、廊下の奥にわずかに漏れる光を確かめずにはいられない。
その夜も、光は点いていた。けれど、いつもと違ったのは――その光の向こうに、誰の気配もしなかったことだった。
そっとドアを押し開ける。ベッドは空っぽで、布団だけが人の形にへこんでいる。机の上には読みかけの本、開いたままのノート。まるでさっきまでそこにいたかのように、部屋は息をひそめている。
「慧?」
答えはない。トイレでも風呂でもない。玄関の鍵は、朝と同じようにかかったままだった。
三十分ほど経った頃、物音ひとつしないまま、慧はまたベッドの上にいた。何事もなかったかのように、寝息を立てて。
これで、三回目だった。
私はしばらくその寝顔を見つめていた。起こして問いただすべきか。それとも、これは見なかったことにするべきか。
学校に行かなくなってから、この子が何を考えているのか、私にはもう分からなくなっていた。
*
同じことが、その後も何度か繰り返された。深夜に気配が消え、しばらくすると何事もなかったように戻っている。理由を尋ねても、慧は曖昧に首を振るだけだった。
後ろめたさを感じながらも、私は小さなカメラを一台、慧の部屋の棚に仕掛けた。子供のすることをこっそり見張るなんて、と思う自分もいた。それでも、知らないままでいることの方が、もう耐えられなかった。




