第14話 託し合う理由
ランのもとへ戻る道すがら、私はターレンに、慧のことを――正確には、慧が「ラン」という名でこの世界にいることを、少しずつ話した。すべてを理解してもらえるとは思っていなかった。それでも、ターレンは黙って最後まで聞いてくれた。
「――なるほどな。だから、あんなに顔色を変えたわけか」
「信じてくれるんですか、こんな話」
「この世界じゃ、姿が変わることくらい、珍しくもない」
その言い方に、何かひっかかるものを感じた。ターレンの声には、いつもと違う色があった。
「……ターレンさんも、何か知ってるんですか」
しばらくの沈黙があった。焚き火の炎が、ぱちりと爆ぜる。
「ヒスイは」
絞り出すような声だった。
「おれの、妹だ」
息を呑んだ。膝の上で丸くなっていたヒスイが、耳をぴくりと動かした。
「昔、妹を妬んでいた。両親が、いつも妹ばかり褒めるのが気に食わなかった。だから、旅の商人から手に入れた怪しげな薬を、悪戯半分で飲ませた」
その先を、聞くのが怖かった。
「そのまま、戻らなくなった。ずっと、この姿のままだ。だから、おれは万能薬を探してる」
「……私も、似たようなものです」
気づけば、そう口にしていた。
「弟がいて。両親は、いつも弟ばかり構っていました。私は、いい子でいなくちゃって、ずっと我慢して」
言葉にするのは、初めてだった。誰にも――夫にさえ、言ったことのない話だった。
「我慢して、我慢して、それが当たり前になって。気づいたら、自分の子供にも、同じことをしてたのかもしれません。ちゃんと話を聞いてるつもりで、本当は、何もわかろうとしてなかった」
涙がこぼれた。中学生の体は、感情を抑えることさえ、うまくできないらしかった。
ターレンは何も言わず、ただ隣に座っていた。慰めの言葉も、安易な励ましもなく、ただそこにいてくれることが、何よりありがたかった。
「――万能薬を、一緒に探そう」
しばらくして、ターレンがぽつりと言った。
「お前はそれを、ランに届ける。おれはヒスイに使う。同じ薬で、二つとも救えるかもしれない」
私は頷いた。涙で滲む視界の中、焚き火の炎だけが、はっきりと見えていた。
その夜、私たちはしばらく、無言のまま、燃え尽きていく炎を見つめていた。互いに、それぞれの痛みを抱えたまま、同じ方向を見ている。それだけで、不思議と心強かった。




