5 優等生のお嬢さまは、頭を踏み潰されるが良し
#ざまあみろ
#社会経験
気がつくと、また目の前に、同じ三人の黒服が立っていた。
「あの……」
イリーナが話しかけようとした瞬間。
また視界が地面へ転がった。
遅れて、自分の身体が倒れるのが見える。
――また。
気がつくと、三人が立っている。
それを何度も繰り返した。
三回。
四回。
そして五回目。
イリーナは、ようやく一撃目を避けることに成功する。
床へ思い切りしゃがみ込む。
状況を把握しようとした、その瞬間。
今度は上半身から地面へ倒れ込んだ。
「――っ!?」
視界の端に、自分の断面が映る。
腹部を横一文字に切断されていた。
そしてまた、最初へ戻る。
イリーナは、とにかく誰が攻撃しているのか把握しようとした。
だが、誰も武器を構えていない。
そもそも、身体を真っ二つにできるような武器を持っている人間すらいなかった。
一撃目を避けず、観察に徹することにした。
何度も、何度も切断される。
だが七回目。
今度も目の下を切られると思っていたイリーナは、足に違和感を覚えた。
見る。
両足首より下が、斜めに切断されていた。
「ぁ――ッ!?」
そのまま地面へ倒れ込む。
断面が自分の体重で圧迫され、激痛が走った。
何が起きたかわからず、混乱したまま顔を上げる。
その瞬間。
長髪の女が、イリーナの頭をヒールで踏みつけた。
「お前ごときが、観察なんぞできると思うな」
冷たい声だった。
「感覚に従って、獣のごとく這いずり回れ。ザコ」
そう言って、女はイリーナの頭をじわじわと踏み潰していく。
「ぁ……ぁ、あ゛――ッ!!」
滲むような叫び声。
次の瞬間。
グチャッ、と。
イリーナの頭部は爆散した。
また最初に戻る。
三人の黒服が立っている。自分の頭を踏み潰した長髪の女は、さっきと少し位置が変わっていた。
イリーナは息を整える。
一撃目。
しゃがむ。
頭上を何かが通り過ぎる感覚。
避けた。
二撃目。
さらに低く身体を沈める。頬を浅く切られたが、致命傷ではない。
三撃目。
今度は、縦に叩きつけるような斬撃が来る気がした。
イリーナは咄嗟に真横へ飛ぶ。
直後、床へ鋭い音が叩きつけられた。
予想が当たった。
「っ……」
そこでイリーナは、先ほどフォンフォンが緑髪の男の頭を潰した場面を思い出す。
武器は持っていなかった。
なのに頭だけが消し飛んだ。
なら、この斬撃も武器ではない。
何か術式。魔法に近いもの。
そう考える。
だが、次の攻撃が来る。
イリーナは速射性の高い魔法をあまり持っていない。
氷の破片を飛ばす魔法なら比較的速いが、氷を生成している間に切られる。
そもそも斬撃の瞬間、三人ともまったく身体を動かしていなかった。
なら、動きを封じる攻撃も意味がない可能性が高い。
そんなことを考えている間に、四撃目が来た。
今度は複数。
見えない斬撃が、一斉にイリーナの身体を切り裂く。
血が散る。
肉が裂ける。
身体が細切れになり、床へ崩れ落ちた。
そんなことを繰り返すうちに、二時間が経過した。
イリーナは、四撃目を避けられないまま、数百回切り刻まれた。
何度も死んだ。
何度も戻った。
そして途中から、イリーナは頭で考えることをやめた。
考えても間に合わない。
理屈では追いつけない。
だから、感覚だけで避け続ける。
一撃目。
二撃目。
三撃目。
そこまでは辿り着ける。
だが四撃目だけが、どうしても越えられない。
そして次の挑戦で。
イリーナは、避けること自体をやめた。
数百回切り刻まれる中で編み出した、一か八かの方法だった。
四撃目。
斬撃が鼻先まで迫る。
鼻の皮膚が切れ始める。
その瞬間。
イリーナは、飛んできた斬撃を直接手で触れた。
「っ――!」
そして、斬撃と同じ量の魔力を、そのまま流し込む。
手のひらは大きく切り裂かれた。
だが次の瞬間。
斬撃が、消えた。
今までのイリーナなら、そこで立ち尽くしていた。
だが今のイリーナは違う。
そのまま地面を蹴り、一気に駆け出す。
狙いは左奥の男。
イリーナは男の目の水分を想像し、一瞬で凍結させた。
「がッ!?」
男の両目が凍りつく。
そのまま男は膝から崩れ落ちた。
イリーナは追撃に入る。
腹部へ氷魔法を叩き込み、とどめを刺そうとした、その瞬間。
「合格!!」
長髪の女が叫んだ。
同時に、横からイリーナの腹を思い切り蹴り上げる。
「がっ……!?」
よだれを吐きながら、イリーナの身体が宙を舞う。
視界が天井を向く。
すると。
そこにはもう、女がいた。
次の瞬間。
女はそのまま足でイリーナを床へ叩きつけた。
轟音。
イリーナが小さく吐血する。
女のハイヒールのかかとは、そのままイリーナの鳩尾へ突き刺さっていた。
女はイリーナへ乗ったまま、だるそうに呟く。
「長えんだよ」
そして足元のイリーナを見下ろしながら言う。
「やっと合格。今フォン呼んでくるから……ああ、一回リセットしとくか」
そう言った瞬間。
女はかかとをイリーナの鳩尾から頭へ移動させた。
そして、今度は思い切り踏み潰した。
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