表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2 死んでしまえば、美少年もブスも、皆平等。

#ざまあ

#上には上がいる

「……え?」


 イリーナの声は震えていた。


 そして、ゆっくりと目の前の男へ視線を向ける。


 体格はレオンに似て細身。


 剥き出しになった血まみれの歯は人間のものだったが、その様子は獣のようだった。


 口の周囲には、十数本の揺らぐ黒い牙。


 魔法なのだろう。


 それ以外は、黒いスーツを着た普通の男だった。


 暗闇で顔はよく見えない。


 だが、自分と同い年くらいに見えた。


 イリーナは震えながらも、男を見据える。


「……あなたが、やったの?」


 冷静に対処しようとしている。


 だが、声の震えまでは隠せなかった。


 男はそんなイリーナを見て、面倒そうに口元の血を右手で拭った。


「……めんどくせ」


 小さくそう呟く。


 イリーナは必死に思考を巡らせていた。


 とにかく、ここから離れなければいけない。


 レオンほどではないが、イリーナも上級生相手に勝てるほどの実力はある。


 頭の中で何通りも打開策を考える。


 男を制圧する案も浮かんだ。


 だが、不思議と。


 この男を相手に勝てるイメージだけは、まったく浮かばなかった。


「どうしよっかな……」


 男は震えるイリーナを尻目に、気だるそうに呟く。


 イリーナは唇を震わせながら口を開いた。


「わ、私、この人を治療室に連れて行きたいんだけど……いい?」


 床に倒れたレオンは、ぴくりとも動かない。


 もう死んでいる。


 そんなことは、イリーナにも分かっていた。


 それでも、これが彼女が一瞬で考え抜いた、この状況での最善の言葉だった。


 男はため息をつく。


「……いいの? コイツ、最後あんたと入れ替わって逃げようとしてたぞ」


 イリーナは男の言葉を聞いていた。


 だが、その内容を真面目に考える余裕はなかった。


 今はとにかく、この場から逃げることしか頭になかった。


「……そもそも、もう死んでるし……」


 男は気だるそうに言うと、ズボンのポケットから携帯を取り出した。


 どこかへ電話をかけ始める。


 数コールで繋がった。


「……はい、俺です。見られちゃいました」


「……はい。知らない人です」


「やっちゃいますね」


 その瞬間。


 イリーナの顔が一気に強張った。


 自分も殺される。


 証拠隠滅。


 男の言葉から、それを察した。


 イリーナは出入り口へ視線を向け、逃げるタイミングを測る。


 そんな彼女をよそに、男は電話を続けた。


「……え? でも……はい、あーはいはい。はいー」


 そして通話を切る。


 気まずそうに携帯をしまうと、男はイリーナを見た。


「……じゃ、一緒に来てもらうから」


 イリーナは震える声で、それでもしっかりと男を見た。


「……なんで、あなたについて行かないといけないの?」


 男はまただるそうに頭をぽりぽり掻く。


「あー、そういうのいいから」


 そう言って、イリーナへ手を伸ばした。


 その瞬間。


 イリーナは、この数十秒で考えた最善の行動へ移る。


 氷魔法。


 イリーナが最も得意とする魔法だった。


 炎魔法を得意とするレオンと肩を並べるため、幼い頃から研鑽してきた力。


 完全に倒せなくてもいい。


 少しでも足止めできれば。


 ここはダンジョン一階。


 人通りの多いエリアまで行ければ、深層へ向かう上級生たちに見つけてもらえる。


 イリーナはそう判断した。


 魔力を固める。


 即時詠唱を発動しようとした、その瞬間。


 男が、自分の目の前へ手をかざした。


 次の瞬間。


 男の手の先から、膨大な影が広がった。


 まるで水に墨を落としたように。


 黒が、一瞬で視界を飲み込む。


「っ――」


 途端に、イリーナの意識が遠のいた。


 身体から力が抜け、その場へ倒れる。


 そして意識が途切れる瞬間。


 最後に見えたのは。


 倒れたレオンの右手。


 その手の中に握られていた、顔にバツ印を書かれた、自分の写真だった。

読んでいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク、感想等をいただけると更新の励みになります。1日1話更新です。気分でもっと高い頻度で更新するかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ