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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第三部 1章 『信長のいない世界』

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第262話 神君伊賀越え

「拙者の名は服部半蔵正成! 拙者の父の名は服部正種、伊賀の上忍である。同胞たちよ、どうか拙者の顔に免じて一晩里に泊めてはくれまいか!」


 その言葉を聞いた伊賀忍者たちの変化は劇的だった。特に正面に立つ女忍者、今名乗った服部半蔵のいとこにあたる服部さくらは。


 彼女にとって服部正種は父が処刑される原因を作り、亡き兄である服部保朝が生涯をかけて行方を追っていた因縁の相手である。その男の息子が同胞などと抜け抜けとぬかし、平然と里に入れろとほざく。


 当然、さくらの怒りは頂点に達す。


「殺す。三河守だけは生け捕りに、残りは殺していい」


 そう冷たい声で命令を下すのと同時に百近い伊賀衆が四方八方から徳川勢数十名に襲い掛かった。

 そしてさくら自身も先頭を切って服部半蔵に襲い掛かる。アクロバティックな動きで半蔵に急接近したさくらは流れるように足を払い半蔵を地面にたたきつける。続けて強力な蹴りを半蔵に打ち込むと半蔵の顎が割れた。血を吐き倒れこむ半蔵にとどめの一撃を加えようと動くさくらを阻む男がいた。


「チッ! 何だッてんだよ! 坂井大助のヤロォ! 部下の教育がなってねェぞ!」


 そう悪態をつきながら二刀を操りさくらと半蔵の間に割って入るのは井伊直政。腕を切られそうになったさくらは一旦距離を取り、相手の様子を観察する。


「仕方ない。伊賀はまだ織田領になってから日が浅い。その後すぐに甲州征伐で大助殿も領国の管理にまで手が回っていなかったのであろう。そんな文句を言う暇があるなら一人でも多く敵を倒せ。お前の武力が頼みだ、直政」

「わかってるよ、康政殿! ほら、早く来いよォ! 女忍者ァ!!」


 さくらは小さく舌打ちをすると井伊直政に対して一気に距離を詰める。顔面への回し蹴りと見せかけて井伊直政の足に短刀を振るう。だが井伊直政も負けじと両手の刀でさくらの足を切り落とさんと動いた。


 さくらと井伊直政の戦いの周辺でも次々と伊賀衆と徳川の戦いが始まった。本多忠勝が家康の側から離れず、その他の家臣で家康によって来る敵を迎え撃つ構えだ。

 家康の側近衆は本多忠勝、井伊直政をはじめ精鋭が揃っている。だが如何せん伊賀衆の数が多い。ここは伊賀の中心地なのだ。だから半蔵に交渉を任せたのに、その半蔵は地面に寝っ転がって苦しそうにしている。


「どうなっているんだ……半蔵が名乗った瞬間から態度が変わったように見えた」

「私もそう思いました。半蔵は伊賀の一族の出だと聞いていましたが何か事情があるのでしょうか」


 うーんと唸る石川数正と顎を抑えて痛みに耐えている半蔵を見比べる家康。その思考を遮るように家康の側近が火縄銃を発砲する。そこで家康は大助のと会話を思い出した。あれは、長篠の合戦の前日のことだった。


「武田の攻める長篠城の状況を確かめる必要があるな……」

「じゃあ僕の部下に忍びがいるんだ。彼らに調べに行かせよう」


 土塁と柵による野戦築城の途中、長篠城を今すぐ解放した方がいいのか、それとも決戦の後でも十分間に合うのか、それを調べるための忍者を家康が出そうとした時の事だった。


「あぁ、頼むよ……いや、ちょっと待て。もしかしてその忍者って服部半蔵とかいうあの……?」

「え? うん、そうだけど……」

「あいつを忍者として運用するのはやめておいた方がいいぞ。マジで。忍者としての初歩の初歩も出来てない。あれは忍者の家系から出ただけのただの武士だよ」

「彼の父親は優秀な忍者で僕のおじい様に仕えていたんだ。半蔵もその技術を継承してるって話だったんだけど……」

「半蔵の父は伊賀出身ってことか……っていうかそもそもどうやって親子二代を雇ってるんだ? 伊賀忍者は基本的に個人同士の契約で家族は伊賀に残すのが風習だったんだけどなぁ」


 そう不思議そうに訊いてくる大助に家康も一緒に首を傾げることしかできなかった。そもそも半蔵の父は家康が生まれるより前に松平家に仕えていたし、家康が当主として立った頃にはもうほぼ隠居し後に病死したと聞いている。家康の祖父・清康も父・広忠もすでに亡く三河に半蔵の父の出生を知っている者はもういない。半蔵も父は昔のことは語りたがらなかった、と発言していた。


 だが、今思えば過去を語りたがらなかったというのは怪しさ満点だ。家康でも知る有名な伊賀の逸話「抜忍成敗」。もし半蔵の父が抜忍だったとしたら……すべての辻褄が合う。


「家康様! 敵が来ます!」


 数正の叫びでバッと現実に引き戻される。それに半蔵の父の過去がわかったところで何も解決しない。家康には半蔵を伊賀衆に引き渡し他の者たちだけで伊賀を抜ける、などという手段を取る気は毛頭ないのだから。


「皆、必ず生きてここを切り抜けよう!」

「!? おう!!」


 突然の宣言にも頼もしく返事をしてくれる家臣たち。それだけではない。戦う家臣たちの刀が力強く振るわれる。家康の言葉は徳川家臣団にとって最強のバフだ。


 だが伊賀衆も負けてはいない。ここには服部さくらや柘植清広の上忍をはじめ北の里の精鋭が数多くいる。互いに精鋭同士、井伊直政とさくらが互角な状況。

 この状況で決め手となるのは本多忠勝と柘植清広の戦い、”今張飛”と信長に言わしめた圧倒的な実力を持つ家康の鬼札と”伊賀の異端児”と呼ばれ、服部保朝・植田光次亡き今、伊賀の最高戦力の一人となった男の一騎打ち。


「主には指一本触れさせぬ」

「へっ、てめぇはあの織田家最強と比べりゃ格落ちだぁ! 行くぞぉ!」

「大助殿と比べて頂けるのはありがたい。彼にも一度挑んでみたいと思っていたのだ。その物差しとして其方が役立つかは些か疑問ではあるがな」


 本多忠勝が構えるのは天下三名槍が一つ蜻蛉切。槍先にとまった蜻蛉が両断されたことからついた名でその切れ味は天下一。

 だが、その切れ味も敵に触れられなければ意味はない。


 以前、柘植清広と戦った坂井大助は彼に対し「獣のような忍び」という感想を述べた。それは彼の四足歩行獣のような移動術と尋常ならざる反射速度によるものだ。彼に対し蜻蛉切のような長物で対抗するのは極めて困難である。


「おいおい! そんなもんじゃねぇよなぁ!!」


 蜻蛉切の連撃を躱し、一旦距離を取った清広がそう忠勝を挑発する。互いにまだ一撃も攻撃を当てられていない。だが今の一合の切り合いで分の悪さを悟ったのは清広の方であった。得意の長物相手にもかかわらず、清広は自身の武器の間合いまで距離を詰められず攻撃の凌いだのみ。それに対し忠勝は多少のやり難さは感じつつもまだ余裕を残していた。


 だが清広にとって、というより伊賀衆にとってこの状況は決して悪くなかった。敵の最大の障害である本多忠勝を清広一人で抑えているこの状況は数で勝る伊賀衆にとって大きく有利に働く。


 実際、少し時間がたてば家康の側近衆はだんだんと数を減らしていった。有利に戦いを進めていた忠勝も焦りを見せ始めた。だが清広が忠勝を離さない。


 そしてついに伊賀衆の一人が家康に縄を放つ。忠勝や直政はそれを見ていることしかできない。


「撃てッ!!」


 突如、数発の銃声が鳴り響く。十騎程の騎馬が全速力で駆けてくる。そのうち数騎は銃を持っておりその銃口からは煙が上がっている。現在坂井大助隊だけが所有している騎馬鉄砲隊。


「双方やめ!! 武器を下ろせ!!」


 そう叫んだのは事態を聞き大慌てで駆けつけてきた坂井大助隊一番隊隊長・山下彦三郎。つまり現在伊賀を統治する坂井大助の軍である。坂井大助軍の登場で伊賀衆と徳川の争いは一旦終結を迎えることになった。


 

 


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