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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 5章 『天下覇道』

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第256話 揺れ動く

「あなたには確かに恩義がある。だがそれでもこれは到底見逃せぬ。ユナ、あなたを謀反の疑いで今ここで処刑する!」

 

 光秀のその宣言に目を見開いたユナ。その反応は想定していなかった。ユナの想定では光秀は信長へ恨みを募らせているが信長に逆らうことが出来ないから仕方なく従っている、というものだった。ならば現実主義的な光秀に謀反の後に秀吉が味方に付く、という謀反を成功させる大きな後押しがあれば簡単に乗ってくると踏んでいた。

 ―――その後に史実通り、山崎の戦いで秀吉様に討たれてくれれば全てが丸く収まる。


 それがまさか、信長にここまでの忠誠心を持っているとは。そして光秀にそうまで言わせるように仕向けたのは……


「あなたが今から本能寺の変が起きる1582年までの約16年間で明智光秀が本能寺の変を起こさないように仕向ければいいと思うわ」


 それはかつて、今にも明智光秀を殺してしまいそうな坂井大助に明智光秀を殺させないようにするためにユナの口から咄嗟に出たでまかせに過ぎなかった。そんなことは不可能だと思っていた。人と人との関係を第三者が調整するなんて出来る訳がないと高を括っていた。それが、まさか。まさか本当にやってのけるとは。


「坂井大助……本当に、面倒なことを……」


 その小さな呟きは光秀の耳には届かない。光秀は悲しそうに刀を振り上げた。ユナは咄嗟に懐のスタンガンを取り出し、光秀の足元に―――


「遅い」

「ッ!!」


 刀でスタンガンを弾き飛ばし、ユナの腕を右足で踏みつけ動きを封じた光秀。その冷たい視線がまだ現状を受け入れられないというユナの視線と交錯する。


「ま、待って……!」

「問答無用。宿命を受け入れよ、謀反人・ユナ」


 足で押さえられていない方の腕で光秀を制止するユナに光秀は冷徹にそう告げる。だが光秀は余計なことを言った。問答無用で止めておけば、この未来人に火をつけることはなかったのに。


「宿、めい? ふざ、けるな! あたしは、あたしは誰よりもこの世界の宿命を背負って生きているんだ! すべてを元通りにしようと、全力を尽くしてきたのよ!」

「元通り? 何を言っている!」


 光秀には理解できないだろう。理解されようとも思わない。

 豹変したユナの大声に光秀が一瞬たじろいだ。足の力が緩んだ隙にユナの右腕は拘束から逃れ、ユナは立ち上がり光秀から距離を取る。そして解放されたばかりの右腕の人差し指で光秀を強く指差した。


「明智光秀。あなたは本来、世紀の大罪人を裁く正義の執行人だった」

「何を、言っている」

「織田信長、何十万の人間を殺した大犯罪者。天下統一のため比叡山、越前、長島などで一般人を含めた大勢の人間を虐殺した。その大罪人を殺す正義の執行人が、あなたよ」

「我が主を大罪人呼ばわり、許されることではないぞ」


 そんな脅しはもうユナには効かない。もうさっき謀反を持ち掛けた時点で死罪は確定している。光秀がユナの案に乗ってこない限りは。


「あなたは疑問に思わないの? あれだけの人を殺しておいて、戦のない平和な世なんて作れるわけない。統一後の世界は殺された人の遺族たちが恨みを抱えて決して従うことのない最悪の世界になるわ」

「っ! それは……」

「誰が何と言おうと絶対にそうなる。殺された側の痛みを甘く見すぎなのよ」


 光秀は言い返さない。言い返せない。唇が動きかけて、結局、音にならなかった。ユナの言葉は統一後の難題の芯を言い当てている。


「今なら、あなたは正義になれる。世紀の大罪人の共犯者から、国中の人を救う正義の存在に。聞かせて、あなたは正義か、それとも悪か」


 そう締めくくったユナに光秀は言葉が出なかった。正義か、悪か。そんなことは考えて戦っていない。大事な事であるのはわかる。わかるが……

 信長様は、悪。そう言われて否定できない。すべての虐殺は理由があった、必要な事だった。だがそれは殺された側とその遺族にとっては知る由のない事。

 ……かつて大助殿は信長様のことを魔王と評した。今、大助殿も信長様は悪だとわかって従っているのだろうか。それともすでに信長様の悪に染まって気づくこともないのか。


「もう一度言っておくわ。秀吉様はあなたが正義を遂行するなら協力は厭わない。すでに高松から兵を返す手筈も整えてあるわ。……言いたいことは言った。あとは、あなたが決めなさい」


 そう言い残し、建物から出て行くユナの背中を斬ることはもう光秀にはできなかった。光秀の脳内には先ほどの問いがまだ反響し、終わらない思考の渦の中へ。


 ユナは確かな手ごたえを感じながら夜の山中を歩いていた。光秀は揺れていた。ユナにはこれで本能寺の変は起きるという確信があった。光秀に踏みつけられた場所がまだ痛む右手を月に向かって掲げる。


「これで、届く」


 思わずこぼれたその一言。右手はだんだんと落ち、やがて口元へ。その口が薄い笑みを浮かべている事に気づく。


「これで、あたしの勝ちよ。大助」


「歴史は今生きている人が作り上げるもの、あなたは確かにそう言った。あたしは元通りの歴史を作り直しただけ。文句は言わせない」


「もう歴史は動き出したのよ」


 その言葉を最後に、ユナは深夜の森に姿を消した。



 ユナの姿が闇に溶けた後も、光秀はしばらくその場に立ち尽くしていた。

 いつの間にか雲が流れ、月は姿を隠していた。


「……正義、か」


 かすれた声でそう呟き、光秀は足元を見つめた。

 そこに落ちているのは、彼自身の影。松明の炎が地面に移す自らの影はゆらゆらと揺れ続けている。

 やがてその影が、ゆっくりと前へ伸びる。


 草を踏む音が静かに響き始めた。

 京都の方角へ――。


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