表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 5章 『天下覇道』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

260/275

第253話 1582年、明智光秀

 軍を長く離れるわけにはいかない信長は自分の言いたい事を言い終えるとさっさと1人で丘を下っていった。丘の上に残された俺と利家はしばらく景色を眺めながらそれぞれ先ほどの信長の話について物思いに耽っていた。

 そんな中、先に口を開いたのは利家だった。


「正直、驚いた。天下を取る理由が尾張で過ごした日々、とは」

「……俺は意外って訳でもなかったな。なんというか、信長様らしいと思った」

「まぁ、今更人が死ぬのが嫌っていうのは矛盾が生じるもんな。今まで何万人殺したって話だ。自分が自由に生きられる国を作るため、って言われた方が納得できる。俺たち以外には口が裂けても言えない理想だけど」

「信長様の理想の国が他の人にとっても悪くない国になればいい。戦がないってだけでも今よりはいい時代になるんじゃないか?」


「そうなるのを願うばかりだな」


 信長が作ると言った国は俺たち3人だけが自由に楽しく生きられることが約束された国。その他の人間がどうなるかはわからない。だが信長は天下の事は信忠様や長秀殿たちに任せると言った。ならそう悪い事にはならないだろう。


「俺はさっきの話を聞いてより一層頑張ろうって思ったな。それに、急がないと。ノロノロしてると天下を取る頃には俺も利家も老人になって動けなくなっちまう」

「あぁ、そうだな。信長様はいくつになっても元気だろうが」


 利家の言葉に苦笑し、同意。信長がヨボヨボのお爺ちゃんになっている姿なんて想像できない。


「大助、俺たちは天下取りの本当の目的を聞いた。つまり本当の意味で信長様を支えられるのは俺たちだけだ」


 そうだ、俺たち2人だけだ。俺たち以外の家臣団にすら信長の真意はわからない。


 そこで1つ、思い当たった。


「早速一つ、信長様のためにすべきことがわかった。天下を目指すにあたり避けては通れない大事な話をしてくる」

「話? 一体誰と……」

「信長様の天下統一を阻止してしまう可能性がある人物」

「何!?」

「俺に任せろ。俺が絶対にそんな事はさせない。全ては信長様の天下のために」


 そう言い俺は足早に馬に乗り、軍に戻る。そしてその中にいるある人物を誘い、再び軍を離れた。


 前世の俺は今年の事を語呂合わせで覚えていた。「いちごパンツ(1582)で本能寺の変」という小学生が好きそうな語呂合わせが受験期にも活躍してくれたのを覚えている。いちごパンツは置いておいて、大事なのは本能寺の変の方だ。本能寺の変、京都の本能寺で織田信長が家臣の明智光秀の謀反にあい死亡する大事件だ。


 俺はそれを阻止するために初対面の明智光秀に銃口を向けた。あの時殺すのが本能寺の変を起こさせないために最も確実な手段だったと今でも思う。だが明智光秀がいなければ織田信長のここまでの躍進はあり得なかった。殺さなくて良かったと本当に思っている。


 明智光秀は今や織田家の中の重鎮中の重鎮。彼がいなければ織田政権は成り立たない。信長も統一後の世を信忠、長秀と並んで彼に任せようと考えていたくらいだ。彼はそう簡単に殺せる人間ではなくなった。だがだからと言って本能寺の変を起こされては元も子もない。俺は明智光秀が裏切る素振りを見せれば躊躇わず殺すつもりで長い間、接してきた。


 だがそんな俺の考えは空回りし続け、今では明智光秀が信長を裏切る事はないと俺は確信している。比叡山焼き討ちの際のみ信長の意向に逆らう発言、行動を見せたがそれ以外では特に疑う余地はなかった。そして天王寺砦で共闘し、もはや疑う事に申し訳なささえ感じるようになった。明智光秀は共に信長の天下を目指す仲間だと言い切れる。


 だが俺はこれまで信長の配下としてあれだけ活躍してきたにもかかわらず本来の歴史を変えることは出来ていない。多少の差異はあれど結果自体はほとんど変化なしだ。今のままでは本能寺の変は起きる。そう考えて行動するのが正解だ。


「突然どうしましたか、大助殿」


 いきなり軍からたった2人で抜け出したことに戸惑いを隠せていない明智光秀がそう俺に問いかける。俺はその問いには答えずいきなり本題を切り出した。


「光秀殿、あなたは信長様の天下のためのこの戦いに疑問を持つことはありますか?」


 突然の質問に明智光秀は混乱しているように見えた。だが俺の真剣な表情を見て真面目に答えることにしたらしい。


「……無いと言えば嘘になりますね」


 光秀のその答えに驚きはない。想定内だ。


「信長様のやり方は少し乱暴すぎる。長島も越前も比叡山も明らかにやりすぎです。すべて必要な事であったことは否定しません。ですが合理的だからとはいえあの虐殺は……人の所業ではない。私もそれに加担しているわけですが」


 そう自嘲的に言った光秀の目は俺を観察している。俺の反応を見ている。だが俺が口を開かないのを見ると光秀は困ったように続きを話しだす。


「信長様にも不安はあります。この国全てを武力で制圧した後にどうするつもりなのか。大助殿は御存じですか?」

「あぁ。知ってるよ。さっき聞いたばかりだけど」

「……私には言えないと?」


 光秀殿も俺が何故いきなりこんな話を始めたか薄々勘付いているのかもしれない。これはただの雑談などではないと。もはやこれは心理戦だ。


「いや。信長様の天下統一の動機はともかく、統一後の世界のことは話せる。一言でいえば、光秀殿に任せる、だけど」

「な!?」


 これにはさすがに驚きの声を上げる光秀。俺は光秀の最初の問いに答えるようにこの話し合いの目的を話す。


「こんな話し合いの場を作ったのは俺が光秀殿が統一後に大きな権力を持った時に信長様をどうするか気になったからだ。今信長様に不満を溜めているなら大きな権力を持った時に信長様に敵対する可能性を考えた。室町幕府が出来た時も大きな権力を任された足利直義が足利尊氏に歯向かったっていう実例もあるだろ?」

「なるほど……」


 これは嘘だ。統一後なんてまだ考えていない。今はただ光秀殿が信長様にどんな感情を抱いているか、それを知りたい。そして俺はついに核心的な問いを口にする。


「まして謀反なんて起こされたら困る。信長様の寝こみを襲う隙なんていくらでもあるだろ?」

「謀反なんてありえません。仮に統一後に私に天下を任されたとしてもその権力の根源は信長様にある」

「その権力の使い方はお前次第だ」

「……ここでいくら私が謀反を起こさないと言っても、大助殿が私を信じられる理由にはならないのでは?」

「まぁ、そうだな……」


 当たり前だが謀反を起こします、なんて言う訳はない。こんな問答に意味はない。


「とにかく信長様は光秀殿に天下を任せてもいいと思うくらいには光秀殿のことを信用している。実力もそう、そして配下としても」

「ありがたいことです」

「俺も光秀殿のことを信じるつもりだ。これまでいろんな戦で肩を並べてきて、信長様への忠誠心は本物だと思ってる」


 ならなぜこんな話し合いをする必要があったか。


「もし、俺の見る目が間違っていて信長様に刃を向けるようなことがあれば――」

「私は大助殿に撃たれる、でしょう?」


 俺の言葉を先読みしそう言った光秀殿。俺はその言葉に無言で首肯する。

 この話し合いの目的は光秀殿に釘を刺しておくこと。本来の歴史に存在しない俺が、今織田軍内で最強の俺が、固く釘を刺してきっと多少なりとも抑止力になるはずだ。

 

 そしてこれは思ったよりも強く作用したらしい。


「信長様、少々よろしいですか?」


 軍に戻った光秀はすぐに信長様のもとへ。そしていきなり頭を下げる。


「この明智十兵衛光秀は信長様に忠誠を捧げ、これからも信長様の天下覇道を支え続けると改めて誓いまする。この命は全て信長様のために」


 いきなりの宣言に驚く周りの家臣たちが光秀殿と信長様を見比べる。もちろん俺も例外ではない。信長様も「なんでいきなり? 意味が分からん」という顔をしていたが、周りの家臣たちの目線に気が付くと少し偉ぶって、


「うむ、これからも頼りにしておるぞ」


 そう光秀の唐突の宣言を受け入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ