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【50万PV突破】 戦国の世の銃使い《ガンマスター》  作者: じょん兵衛
第二部 5章 『天下覇道』

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第249話 織田信長暗殺未遂事件

「何事だ!」


 馬から落ち尻もちをついた信長が馬上の俺を見上げる。俺の頬には弾丸の破片が切り裂いた傷口から少量の血が流れている。その血と俺の真剣な表情から信長はなぜ俺がいきなり信長を突きとばしたのか理解したらしい。

 つい数秒前までの楽しい雰囲気が一瞬にして緊迫した空気に変わる。


 弾丸が放たれた地点には既に人の気配はない。一発撃って場所を変える、狙撃手の鉄則だ。だが逃げられるわけにはいかない。次も俺が信長様を守れるかはわからないのだから。今のだって偶然見つけただけだ。

 そしておそらく今の狙撃手は音羽半六だ。あの銃口には見覚えがある。それにあの平楽寺の戦いの最中、音羽半六は糸で俺のスナイパーを無力化し、恐らくどさくさに紛れて持ち去った。今まで姿を隠していたのも新たに織田領となった伊賀を必ず視察に来る信長を待っていたと考えれば納得がいく。


「丹波! 奴を追ってくれ! 恐らく音羽半六だ、気を付けろよ!」

「っ! わかった、任せろ!」


 丹波に狙撃手を追うように命じ、俺は馬を降り信長に手を差し出した。


「突然のご無礼、申し訳ありません。お怪我は?」

「構わん、助かった」

「大助、いったい何が!?」


 まだイマイチ状況がつかめていない利家が俺を問い詰める。


「時間がないから簡潔に言うぞ。撃たれた。狙われたのは信長様だ、今丹波が追ってるがすぐに俺も追う。利家は信長様を安全な場所へ」

「あ、あぁ。わかった! 信長様、早く馬に乗ってください。大助、安全な場所ってどこだ?」

「この里に入って真っ直ぐ一番奥の屋敷に行け、そこは里長の屋敷だから大丈夫だ。もみじという女がいるはずだ、事情を話せば入れてくれるだろう」

「わかった。急ぎましょう、信長様」

「あぁ。気を付けろよ、大助」


 利家と信長を見送り、俺は丹波が走った方向へ駆け出した。丹波の残した僅かな痕跡をたどり、ついに丹波の背中を視界にとらえた。

 瞬間、丹波の体が空中に固定される。


「丹波!」


 俺の叫びに丹波を空中に固定した張本人が振り返った。伊賀の「黒き悪鬼」が。


「来ましたか、坂井大助」

「……これは一体どういうつもりだ? 丹波、里長にこんな事を」

「里長という立場にあるにも関わらず、今後は伊賀は織田に従うなどと仰られたので。全く、嘆かわしい」

「信長様が来てる時点でわかっていただろ? 今や伊賀は織田の支配下にある、お前もバカなことは止めてさっさと織田に降るんだ」

「お断り致します。私はここであなたの首を刎ね、伊賀国を取り戻す」 

「確かに今、伊賀国を任されているのは俺だが俺が死んでも次の領主が送られてくるだけだ。お前たちが治める伊賀はもう二度と訪れない」

「あなたを殺すだけならそうでしょう、ですが今伊賀には殺せば一度に国が取れるような御人がおられる」


 一度の国がとられるような御人、それは先程音羽半六が狙った人物からすぐにわかった。音羽半六は俺をここで倒し、その後すぐに信長を殺しに行くのだ。


「お前の糸が信長様に届くことはない。信長様を殺したければ俺を倒してからいけ」


 そんな月並みな言葉を吐き、俺は音羽半六と向かい合った。


 音羽半六とはこの前戦い、勝ったばかりだ。かなりギリギリではあったがあの戦いで俺は音羽半六の操糸術のからくりは理解した。互いの手の内を晒したうえでの再戦は比較的対策されやすい操糸術を扱う音羽半六に不利に働くだろう。俺は刀を抜き、構える。現状の糸は縛り上げられた丹波の近辺に集中している。

 あのあたりには近づかないようにしようと考えながら俺は音羽半六の一挙手一投足に注目する。


 だが意外なことに音羽半六は針を構えながら再び口を開いた。


「先日敗れていますのでね、あまりあなたとは戦いたくないんですが。私は負けるとわかっている戦いをするほど考えなしではない」

「先に喧嘩売ってきたのはそっちだろ? 戦いたくないならさっさと織田に降れ」

「先程も言いましたが、お断りします。……そもそもあなたは何故、織田信長に仕えているのですか?」

「は? 何故って……」

「あなたは伊賀の上忍でしょう。あなたも共に伊賀衆として織田と戦えばよいではないですか」

「何言ってんだお前。俺確かに伊賀の上忍だが織田の将だ。俺は信長様に一生仕えると誓った。俺を引き抜くなんて不可能だと思うぜ?」

「ふむ、では先程の問いに戻りますが、なぜあなたは織田に仕えているのですか?」


 何故、何故って……

 俺が信長様に仕えるのは……最初に信長にあったときは転生して、赤子から成長してちゃんと自分の意思で動けるようになってからまだ少ししか経っていない頃だった。この時代の情勢も常識も何一つわかっていなかった俺が歴史上の偉人に会えた喜びと興奮でついて行って、友人になって、それがいつの間にか利家と同列の側近の一人になっていた。伊賀に行ったのも信長の力になるため、何故なんて考えたことも無かった。

 だが今改めて考えてわかった、俺が信長を支える理由は。


「信長様は俺の友達だから、かな」


 信長の俺に対する態度は主従の主としてのものではない。気を付けてはいるけど俺がたまに敬語を忘れても気にする様子はない。城に呼びだして遊ぶ時の様子は、まるで学生時代に友人を家に呼ぶみたいなものだ。


「配下として支える気持ちももちろんある。でも根本にあるのは昔からの友人として、信長様の夢を応援したいってこと、かな」


「そうですか。ですが申し訳ありませんが私はあなたの友人関係に一切の興味がありませんので」

「は!? お前から聞いておいて……」


 俺がせっかく真面目に考えて答えたのにあまりにもひどい言いように反射的に文句が出る。


「私の目的はただの時間稼ぎですので。今頃は私の配下が信長を討っているでしょう」

「何!?」

「それでは私はお暇させていただきます」

「ふざけるな、逃がすわけないだろ!」


 してやったりとばかりに種明かしをしてこの場から立ち去ろうとする音羽半六に俺は襲い掛かった。音羽半六は驚いた表情をして怒鳴る。


「話を聞いていなかったんですか? 今頃あなたの主君が、いえ大事な友人でしたね。大事な友人が殺されそうになっているかもしれないんですよ。すぐにそのもとへ駆けつけるのが今あなたがすべきことではないですか?」

「その主犯が目の前にいて捕まえない訳がないよな」

「物事の優先順位というものがわかっていないようですね。全く、嘆かわしい」

「勘違いするな、今信長様のもとには利家がいる。信長様の護衛として、俺の次に相応しいあいつが信長様を守り損ねるなんてありえない」


 音羽半六の策は見事だった。最初の銃撃で信長から強力な戦力である俺と丹波を引き離す。半六が俺と丹波を足止め・無力化する間にもう一人が信長様を殺す。だが利家を強引にでも排除しなかったのは失策だ。利家は伊賀攻めに参加していなかったから知らないかもしれないが、利家は織田家の中でも5本の指に入る実力者なのだから。


「ま、俺もすぐに向かうけどね」


 音羽半六の放つ針を刀で弾き、展開した糸をすべてまとめて切り払う。音羽半六の表情が驚愕に歪む。

 だがまだ音羽半六は諦めない。糸を利用した空中機動に移る。空中から俺の両腕を縛り上げ、強制的な空中戦へ。一転して大ピンチ。俺一人だったらやられていたかもな。

 

「全く、いつまで縛られたままなのかと思ったぜ」

「火車剣」


 丹波の火車剣が半六の糸を焼き尽くす。音羽半六の計算がすべて崩れるのが分かった。俺と半六が地面に落下する。半六の前後を俺と丹波で挟み、同時に肉薄した。

 糸は有象無象なら何人かかってきても太刀打ちできないような強力な武器だ。だが俺と丹波を同時に相手できるほど万能な武器ではない。勝負は決した。


「丹波、半六を縛り上げておいてくれ。俺は信長様の方へ行く」

「わかった。信長様の方へ行ったのはおそらく上忍の滝野吉政だ。気を付けていけ」

「了解」


 俺と丹波の猛攻に耐え切れず、ついに倒れた半六を丹波が縛り上げるのを見届けて俺は信長様と利家が向かった里の方へ走る。

 滝野吉政、俺とは面識のない上忍だ。だがおそらく、俺と会話を交わすことはないだろう。


「こうなってると思ったよ」


 現場についた俺は丹波の家の玄関前で息絶える滝野吉政と金色の槍を握り締め、派手に返り血を浴びた利家を見てそう呟いた。信長様を守る時の利家は誰よりも強い。上忍の1人程度に後れを取ることは決してない、そう信じていたからこそ俺は落ち着いて半六を制圧出来たのだ。


「遅かったな。そっちは終わったのか?」


 こうして上忍二人による織田信長暗殺計画は失敗に終わった。


「残党が反乱を起こすのなんてよくあることだ。むしろ2人だけで抑えたのならよくやった」

「いえ、危険な目に合わせてしまい、申し訳ありませんでした」

「構わん、そもそもいきなり来たのは俺だしな」


 俺の謝罪を信長はあっさりと受け入れた。だがまだ伊賀は危ないという事で信長は南の里の丹波宅で一泊し、早々に安土に帰っていった。


 その晩、丹波宅で信長利家丹波の俺の黒歴史大辞典が何を話したかなんて考えたくもない。


 

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