23.姿なき賢者は悩み続ける
こういった予測外のアクシデントに、自分自身が被ることになったのは、初めてだ。
パナセという愉快な薬師には、一切の悪気が無いことも承知している。
しかし里にたどり着く前、合成の欠点を克服し忘れたパナセに、気付けなかった自分の過失は罪深い。
賢者である俺の姿を見えなくするとは、到底予測など出来るはずもなかろう。
「ネギ女! よくもアク様を消滅させてくれたわね! 切り刻む……それとも?」
「あうあうあう!? い、痛いのは嫌です~」
「ダークエルフの人、落ち着いてよ! そこの賢者は消滅なんかしてないっての!」
里の民には彼女たちのやり取りは聞こえているらしいが、俺の姿はもちろんのこと、声も聞こえないようだ。
そうなると、単にエルフの女どもが口喧嘩をしているだけに見えていて、解決のしようもないということになる。
パナセの奴は、自分をよく見て欲しいとほざいていたので、この機会に彼女の顔や身体を隈なく眺めた。
愉快な薬師は、まずハーフエルフなどではなく人間の女と断定した。
その時点で、合成における努力はともかく、隠された能力を、生まれつき持たらされた天才児ということが分かった。
しかし潜在能力を眠らせたままでも、俺の姿を消すことが出来る調合の能力は侮れない。
体つきを見ようとしたところで、その気配を勘づいたロサが止めに来て、今に至る。
「落ち着いて、落ち着いてくださぁい~! アクセリ様は消滅してないんですよ~」
「それこそネギ女の戯言。どうすれば、あの方の凛々しきお姿を眺められるのか、教えなさい! かろうじてお声は、わたくしの耳に届いていますけれど……不確かなモノを信じるほど甘くはない!」
ロサの俺に対する捻じり曲がった溺愛ぶりもどうかと思うが、声が聞こえていれば信じろよと言いたくなる。
「なるほどね……パナだけでも大変そうなのに、屈折愛のダークエルフを仲間にしているだなんて、元賢者様は中々にお厳しそうですね?」
「……何が言いたい?」
「この里に来たのは、単にパナを里帰りさせるためではないのでしょう?」
「それで合っているとも言えるし、使えそうな者がいれば加えたいとも思っていた。それがどうかしたか?」
「パナの欠点でアクセリさまは今の状態となったわけですよね?」
「……ふ、だからどうした? 同じ薬師だとて、今すぐ元に戻せないのだろう?」
「ついてまいりたいと思います。姉がますます愉快になって行く姿も見てみたい……ではなく、わたしが一緒であれば、弱弱しい賢者さまの足手まといにはならないかと思いまして」
里にいる者の中で、パナセに次ぐ合成の強者でもいればと願っていた。
しかしルシナという女は、長であり、民を束ねる立場のはず。
そんな女を連れて行けば、残された薬師はどうなるというのか。
「だからこそ、消えてくれてありがとうございます!」
「何? お前、俺の考えていることが聞こえるのか!?」
「パナの作り出した調合薬には欠点があると言いましたよ」
いや、むしろ俺の姿が見えない状況だからこそ、里から出ていけるということか。




