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24.峡谷での遭遇 1


 姿が消えたままの俺の話をいいように伝えたルシナは、言い争いを続けていたパナセたちをなだめた。


 そして都合のいいように民に伝え、里の守りは薬師の男たちに任せることで納得させたらしい。


 それにより、パナセとロサはルシナに従うことを決め、里を後にした。


「……俺もルシナ様に従えばいいのか?」

「いいえ、芝居は終いです。わたしは、里の皆に納得させなければなりませんでした。お姿の見えない賢者さまがいない状態で、旅に出ることを決めたのです。お姿が見えなくてむしろ有難かったですよ?」

「は、喰えない女だな。それで、どこへ行くつもりだ?」

「それは賢者さまがお決めになるのでは?」

「ん? それはそうだが、その前に賢者さまと呼ぶのは止せ。俺は外の奴に素性を知られるわけにはいかんのでな」


 弱くなったとはいえ、この先どこで格の違う奴等に会うとも限らない。


 特にベナークの野郎以外の勇者とそのPTが気になるし、どういうつもりをしているのか。


 俺が賢者として勇者を助けていた世界は、少なくとも、魔王にしろ勇者にしろ、複数いていい世界では無かった。


 何故今は、勇者も魔王も途切れの無い世界と化しているのか。


 賢者と呼ばれる者はどうやら俺だけのようだし、なろうとする者もいない。


 もっとも、なるだけなら誰でも出来るが、盟約要素との契約は素質が絡む。


 要素が従っているのも、歪んだ世界を真っ直ぐに戻す為だと聞いている。


 パナセを追い出したPTといい、この世界には無駄PTが溢れすぎているのではないか。


 そう考えれば、世界に勇者は必要ではなく、敵対する魔王も全て消すべきだ。


「アクセリさま、何をぶつぶつ独り言をおっしゃっているのです~?」


 気づくと、パナセの顔が下から覗き込んでいたようだ。


 俗にいう上目遣いも兼ね備えているが、よく俺の位置が分かるものだな。


「俺にも一人で考える時間は必要だからな。パナセこそ、妹と話をしなくていいのか?」

「いいのですよ~。わたしとルシナちゃんは直に話さなくても、心で分かるものなのです! 以心伝心ですよ~」

「ほぅ? それは俺とも可能か?」

「ア、アア……アクセリさまとわたしがですかっ!? そ、そうなるには、そのぅ……」

「どうした、言ってみろ」

「あのぅ……お、お姿が見えないので、今は無理なのですけど……アクセリさまと、結びを……そのぅ」


 何やらパナセは、自分の指を何度もくねらせながら、顔を真っ赤にさせてもごもごしている。


 もしかすれば、俺の要素のような契約が必要ということなのかもしれない。


「いや、無理強いはしない。だが、パナセとそれが出来れば、敵と遭遇した時には不利に働くことが少なくなると考えたまでだ。今すぐでなくとも、後々に出来るものならそうなればいい」

「はわわわわ……のちのちぃ。はぁはぁはぁ……ど、どうしよどうしよ」

「どうした? 息切れか?」

「な、何でもないです~! ルシナちゃんの所に行って来るです~」


 よく分からないが、パナセは顔を紅潮させて息切れを起こしたようだ。


 もしかすれば、今までの緊張の糸が切れ、急な疲労が来たのかもしれない。


『アクさま、駄目ですよ? あんな小娘をたぶらかしては……どうせなら、わたくしを常に誑かして頂いても……あぁ』


 薬師の里を出た後、姿を消したままの俺とパナセたちは、険しい峡谷を目指していた。


 ルシナ曰く、里は外との距離を近づけたくないがために、警戒心を重ねて幾つもの谷を越えて来たらしい。


 つまり、多くの人間がいる町や王が治める城に行くには、峡谷を超える必要があるということだった。


「相変わらず抜け目ない女だな。そして俺の気配にも慣れたか」

「ええ、お姿は見え無くとも、そのお声を間近に受ければ嫌でも慣れますわね」

「嫌なのか……?」

「お声もお姿も遠く離れてしまうことが嫌ですわ。さておき、お気づきですか?」

「まぁな……。深く沈んだ谷は、おおよそ常人が住める場所ではないが、そこが良しとして居着く種族があるものだ。気配からして、人ではないだろう」

「姿が消えていても、要素は使えるのです?」

「問題ない。だが、薬師二人を守れる余裕は無い。もっと強力な仲間が得られればいいが……」


 現状では、パナセの強力な調合薬によってしばらく姿無き者となっている。


 ルシナに関しては、脆弱性はあるが霧の結界を張ることが可能だ。


 谷に囲まれた場所で、薬師を守るには何がいいのか。


「アクさまはご自身の強さを、お取り戻しにならないのですか?」

「それが出来るならしている。だが、かけられた呪詛がそれを阻んでいるのが現実だ。となれば、かつての知識を役立てながら、PTメンバーとなった者たちを育てる方が得だろう?」

「……そうなのですね。だから弱い人間の女を傍に置いて……」

「それもあるが、パナセは俺の恩人でもあるからな。愉快な女だが、育てたいとも思っている」

「それでは、わたくしの得意能力を使って、アクさまの負担を取り除くことに致しますわ」

「頼むぞ、ロサ」

「わたくしにも、結びを頂きたく思いますわ!」


 よく分からんが、パナセとロサとの間で、やり取りでもしたというのだろうか。


 さて、まずは人無き獣どもに浴びせてやるとするか。

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