第82話_動かしてみる
配置が決まったところで、実地の調整に入った。
まずは連携の回廊。声に反応するモンスターの感度を確かめる段階だった。
「普通の声だと反応しない?」シアが小声で確かめながら聞いた。
『反応しない設定にしてある。閾値を少し高めに置いた』
シアが試しに声を張り上げた。
「聞こえるかー!」
少し離れた場所で、小さな影が音のした方向へ動き出した。
「反応した」
『予定通りだ。だが、今の声の大きさで反応するのは早すぎる。もう少し閾値を上げる』
「これくらいなら、伝える役が普通に困るくらいの声で反応しちゃう気がする」
『調整する』
俺は閾値を段階的に上げながら、シアに何度も声を出してもらった。五回目でようやく、届けるために必要な大声でだけ反応する形に収まった。
「これくらいなら、届けるための声と、敵を呼ぶ声の境目がはっきりしてる」
『判断する余地が生まれる』
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次は一人回しの間だった。
シアが実際に装置Aから装置Cまで走り、視界妨害の霧をくぐる動きを試した。
「これ……」霧の中から声がした。「思ったより見えない」
『どのくらいだ』
「装置の輪郭は見えるけど、光ってるかどうかが分からない」
装置は起動中に淡く光る仕組みにしてあった。だが霧が濃すぎると、その光すら遮ってしまっていた。
『霧の濃さを落とす。光だけは霧を透過するようにする』
「それができるの?」
『素材の組み合わせで調整できる。霧の粒子を、光を通す性質のものに変える』
俺は霧の生成に使う素材を差し替えた。シアがもう一度走った。
「今度は見える。ぼんやりだけど、光の位置は分かる」
『それでいい。完全に見えなくするのが目的じゃない。集中を乱すことが目的だ』
「なるほど、見えなくするんじゃなくて、見えにくくする、なんだ」
『そうだ』
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シアが霧の中で装置Cまで辿り着いたとき、少し息が上がっていた。
「これ、本番だと結構怖いかも」
『怖すぎるか』
「ううん、いい意味で。見えにくい中で、自分の判断だけで進む感じ。緊張するけど、嫌な緊張じゃない」
『それが狙いの範囲だ』
シアが霧の中から出てきて、額の汗を拭う仕草をした。
「一人でこの層に来る人、結構ドキドキすると思う」
『来た者が、自分の力で抜けたと感じられる設計にしたい』
「うん、これならそう感じられそう」
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共鳴の間の調整は、一番時間がかかった。
声の質を判別する仕組みは、精度が命だった。シアが何度も声色を変えて試した。
「普通の声」
反応なし。
「わざと震わせた声」
小さな警告音。
「本気で焦ってる感じの声を出してみる」シアが少し間を置いてから、震える声を作った。「た、助けて……!」
警告音が大きく鳴った。
「これ、演技でもちゃんと反応するんだ」
『声の物理的な特徴に反応する仕組みだ。本気の演技なら、震え方も本物に近くなる』
「じゃあ、本当に焦ってる人が来たら、もっと強く反応するってこと?」
『その通りだ。だから外で支える者は、本当に冷静でいる必要がある。演技でごまかせる仕組みじゃない』
「厳しいね。でも、それでいいと思う」
シアが少し考えるように言った。
「わたしが感知で見てる限り、実際に来る人たちは、ほとんど演技なんてしてる余裕ない。本物の声しか出せないと思う」
『だからこそ、この仕掛けが意味を持つ』
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三つの区間を一通り試し終えたあと、シアが座り込んで言った。
「疲れた……でも、いい疲れ」
『無理はさせていないつもりだ』
「わかってる。危険なことは一つもなかった。ただ、全力で走ったり叫んだりしたから」
シアが天井を見上げた。
「22層、だいぶ形になってきたね」
『そうだな。骨組みと配置は終わった。残るのは細かい強さの微調整と、最終区間の音響部分の仕上げだ』
「それが終わったら?」
『来訪者を迎えられる状態になる』
「楽しみ」
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夜、シアが横になりながら言った。
「今日、久しぶりにたくさん体を動かした気がする」
『疲労は残っていないか』
「平気。むしろ、自分で作った層を自分で試すの、ちょっと特別な感じがした」
『そうか』
「ケンジは、自分で設計したものを、自分で試したことある?」
『ない。俺には体がない。試すのは、いつもお前の役目だ』
シアが少し黙った。
「そっか……ケンジは、わたしの目を通してしか、自分の層を体験できないんだね」
『そうだ』
「じゃあ、わたしがちゃんと感じたことを、ちゃんと伝えるね。怖かったこと、嬉しかったこと、全部」
『助かる』
「今日は、怖くて、でも楽しかった。それが正直な感想」
『覚えておく』
「おやすみ、ケンジ」
『おやすみ、シア』
洞穴の外では今夜も迷宮の里の灯りがある。連携の回廊、一人回しの間、共鳴の間。三つの区間が、実際に動く形になった。あとは細部を詰めるだけだった。
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DP残高:51,203,900P
配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) オーガ×1体(17層) コボルト×52体 協力戦闘区間専属モンスター×4体(18層) 素材守護モンスター×6体(19層) 最終区間専属モンスター×8体(20層) 速度感知守護モンスター×6体(21層) 声反応型モンスター×4体(22層・連携の回廊) 視界妨害型モンスター×3体(22層・一人回しの間) 声質判別型モンスター×2体(22層・共鳴の間)
落とし穴×47か所 毒ガストラップ×8 火炎トラップ×6 魔法陣トラップ×1 宝箱×2 砂時計×1(21層専用)
本日の収支:+1,489,100P
現在のダンジョン規模:21層 ランク:B(正式認定済み)
確定事項:22層各区間の実地調整がほぼ完了。声反応型モンスターの感度、視界妨害霧の濃度(光は透過するよう調整)、声質判別モンスターの精度をシア自身の実演でテスト・微修正。残る作業は細部の強さ調整と共鳴の間の音響仕上げのみ。コスト524,288,000P到達まで継続中。
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次話は明日の17:00に投稿します。
1日1話投稿の予定になります。
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