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第83話_評価者の目

 その来訪者は、前触れなく現れた。


「お久しぶりです、コア様」


 入口に立っていたのは、ギルド評価者のレーゼだった。以前、Bランクの正式認定のときに来た、あの落ち着いた声の女性だ。


 シアが対応に出た。


「レーゼさん、今日はどういったご用件で?」


「21層が開通してから、しばらく経ちますよね。ギルドとして、正式な評価を入れておきたいと思いまして」


 シアが念話で伝えてきた。


『ケンジ、聞いた?』


『聞いた。評価、ということは、21層の実績を見に来たということか』


「はい」レーゼが頷いた。「21層の突破報告、いくつも上がってきています。「時間の層」という呼び名も定着しつつあります。評判は上々です」


「ありがとうございます」


「それと」レーゼが少し声のトーンを落とした。「噂で聞いたのですが、22層の準備を進めていらっしゃるとか」


────────────────────────────────────


 シアが少し戸惑った様子を見せた。


「よくご存知ですね」


「来訪者の方々が話しているのを、あちこちで耳にしますよ」レーゼが微笑んだ。「人数によって道が分かれる層、とか。二人組でも活躍できる層、とか」


 シアが念話で確認してきた。


『ケンジ、どこまで話す?』


『隠す必要はない。設計思想の大枠は話していい。細部の仕掛けは伏せておく』


 シアがレーゼに向き直った。


「はい、22層の設計はほぼ形になっています。大人数向けと少人数向け、二つの道を用意する予定です」


「素晴らしい」レーゼの目が少し輝いた。「少人数のパーティにも配慮した設計というのは、あまり聞いたことがありません」


「まだ完成には少し時間がかかりそうですが」


「それで構いません。今日はあくまで、21層までの評価と、今後の見通しの確認に来ただけですから」


────────────────────────────────────


 レーゼが実際に21層に足を運び、シアの案内で一通り見て回った。


 戻ってきたレーゼは、記録用の紙に何かを書きつけながら言った。


「速度感知の仕掛け、砂時計の演出、どれも他では見たことのない発想です。特に、知識だけでは通用しない設計になっている点が印象的でした」


「褒めていただけて嬉しいです」


「褒めているのは事実ですが、同時に少し心配もしています」


 シアの表情が引き締まった。


「心配、ですか」


「ここまでの層の完成度が上がるほど、次の層への期待も跳ね上がります。22層、23層と進むにつれて、来訪者の目は厳しくなっていく。設計する側の負担も、比例して大きくなるはずです」


 シアが念話で伝えてきた。


『ケンジ、レーゼさん、心配してくれてるみたい』


『分かっている。だが、負担を理由に手を抜くつもりはない』


 シアがレーゼに向き直った。


「負担は承知の上です。それでも、来てくれる人たちに、ちゃんと応えたいので」


 レーゼがしばらくシアを見つめた。


「その言葉、コア様からも同じことを聞いている気がします」


「多分、同じことを考えてると思います」


────────────────────────────────────


 夕方近く、レーゼが帰り支度をしながら言った。


「一つ、提案してもよろしいですか」


「はい」


「22層が完成した際は、正式な開通の前に、ギルドとして小規模な立ち会い調査を入れさせていただけないでしょうか。事故がないか、想定外の危険がないかの確認です」


 シアが念話で聞いてきた。


『ケンジ、どうする?』


『問題ない。むしろ、外の目で確認してもらえるのはありがたい。俺たちだけでは気づかない欠陥があるかもしれない』


 シアがレーゼに向き直った。


「お願いします。完成したら、真っ先にお知らせします」


「楽しみにしています」レーゼが小さく頭を下げた。「「石の意志」の噂は、王都のギルド本部にも届き始めています。次の層も、きっと大きな話題になるでしょう」


「王都まで……」


「Bランクのダンジョンコアがここまでの速度で層を増やし、しかもどの層も評判が良い。珍しいことなんですよ」


────────────────────────────────────


 レーゼが去ったあと、シアが小さく息をついた。


「王都にまで話が届いてるなんて、思わなかった」


『予想はしていた。21層の評判が広がるにつれて、こうなる可能性はあった』


「怖くない? 注目されるの」


 俺はその問いを転がした。


『注目されることに、良い面と悪い面がある。良い面は、来訪者が増えることだ。悪い面は、期待に応えられなかったときの落差が大きくなることだ』


「落差、か」


『だが、期待を恐れて手を抜くわけにはいかない。今までと同じように、来た者に向き合って作るだけだ』


「そうだね。レーゼさんの立ち会い調査も、いい機会だと思う。外からちゃんと見てもらえるの、安心材料になる」


『そうだな』


────────────────────────────────────


 夜、シアが横になりながら言った。


「22層、完成したら、レーゼさんが最初に見に来るんだね」


『そうなる』


「緊張する」


『お前が緊張することはない。設計したのは俺だ』


「ううん、わたしも緊張する。だって、わたしがこの層の中を実際に案内するんだよ。レーゼさんの反応、真横で見ることになる」


『それもそうか』


「でも、悪い緊張じゃない。ちゃんと見てもらいたい、っていう気持ちの方が大きい」


『同じ気持ちだ』


「じゃあ、完成まで、もうひと踏ん張りだね」


『そうだ。細部の調整と、音響の仕上げ。それが終われば、レーゼさんを呼べる』


「楽しみが増えた」


「おやすみ、ケンジ」


『おやすみ、シア』


 洞穴の外では今夜も迷宮の里の灯りがある。ギルド評価者の来訪は、22層開通という次の一歩を、少しだけ具体的な形にした。王都にまで届き始めた噂は、重荷であると同時に、確かな手応えでもあった。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:58,047,600P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) オーガ×1体(17層) コボルト×52体 協力戦闘区間専属モンスター×4体(18層) 素材守護モンスター×6体(19層) 最終区間専属モンスター×8体(20層) 速度感知守護モンスター×6体(21層) 声反応型モンスター×4体(22層・連携の回廊) 視界妨害型モンスター×3体(22層・一人回しの間) 声質判別型モンスター×2体(22層・共鳴の間)

落とし穴×47か所 毒ガストラップ×8 火炎トラップ×6 魔法陣トラップ×1 宝箱×2 砂時計×1(21層専用)

本日の収支:+1,512,400P

現在のダンジョン規模:21層 ランク:B(正式認定済み)

確定事項:ギルド評価者レーゼが来訪し、21層までの実績評価と22層準備状況の確認を実施。22層完成後、正式開通前にギルドによる小規模な立ち会い調査を受けることで合意。王都のギルド本部にも「石の意志」の評判が届き始めていることが判明。残る作業は細部調整と共鳴の間の音響仕上げのみ。コスト524,288,000P到達まで継続中。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
注目されることの悪い面は、悪意のある来訪者も呼び寄せること、そしてエルフの問題が知られてしまうということ。かな?
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