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第81話_声の質

 骨組みが固まったところで、次はモンスターの配置を詰める段階に入った。


 シアが配置図を見ながら言った。


「連携の回廊は、21層の速度感知守護モンスターと同じ系統でいいのかな」


『いや、少し変える。回廊は声で連携する層だ。だから「声に反応する」モンスターを置く』


「声に反応する?」


『大声を出すと反応する敵にする。伝える役が叫ぶ必要のある場面で、同時に敵を呼び寄せるリスクを背負わせる』


「じゃあ、伝える役は選ばないといけないんだ。大声で確実に届けるか、敵を刺激しないぎりぎりの声にするか」


『そうだ。声の使い方そのものが判断になる』


「それ、すごくこの層らしい」


────────────────────────────────────


 一人回しの間の方は、もっと慎重に検討した。


「一人でやる区間に敵を置くのは、危ないんじゃない?」シアが心配そうに言った。


『危険すぎる敵は置かない。ただし、何もいないと緊張感が薄れる』


「バランスが難しいね」


 俺は候補をいくつか転がした。攻撃してくる敵ではなく、装置の操作を妨害する敵にする案が浮かんだ。


『直接攻撃しない敵にする。装置に近づくと、一時的に視界を塞ぐ霧を出す小型の敵だ』


「攻撃じゃなくて、妨害……それなら死ぬことはないんだ」


『ない。だが霧の間は装置の状態が見えなくなる。一人回しの間の緊張感を、危険じゃなく難しさで作る』


「一人だからこそ、危なくない形で難しくする。ケンジらしい配慮だと思う」


『来た者に死んでほしいわけじゃない。挑戦してほしいだけだ』


────────────────────────────────────


 共鳴の間の検討で、問題が出た。


 シアが試作の広間で実際に声を張り上げてみたときだった。


「あ……」


『どうした』


「今、思ったんだけど。共鳴の間に音に反応する敵を置いたら、外で叫んでる人たちが的になっちゃう」


 俺はその指摘を受け止めた。


 共鳴の間は「声で支える」ことが核になる区間だ。もしそこに音に反応する敵を置けば、支える側が声を出すたびに危険が増える。それは連携の回廊で使った仕掛けと同じ発想だが、この場では成立しない。


『声を出すことが罰になってはいけない。共鳴の間の敵は、声そのものには反応させない』


「じゃあ、何に反応させるの?」


『声の「質」に反応させる。冷静な声には反応しない。だが、パニックになった悲鳴のような声には反応する』


「冷静な声と、パニックの声を区別する敵……そんなことできるの?」


『音の高さと震え方で判別する。恐怖で震えた声は、普段の声と質が違う』


────────────────────────────────────


 シアが感心したように言った。


「それ、すごい仕掛けだね。焦らずに冷静でいれば、大声を出しても大丈夫。でもパニックになると、声そのものが危険を呼ぶ」


『21層の焦りの試練と繋がる。焦った瞬間、その焦りが目に見える形で返ってくる』


「外で支える人たちも、冷静さを試されるんだ。中の一人だけじゃなくて」


『それが共鳴の間の核だ。中の一人が焦っても、外が冷静なら支えられる。だが外まで一緒に焦れば、二重に危険になる』


「厳しいけど、筋が通ってる」


 試作の音判別装置を、シアが何度も声色を変えて確かめた。


「普通に喋る声は平気。でも、わざと震わせて叫ぶと——」


 小さな警告音が鳴った。


「反応した」


『判別は機能している』


「これ、本物の恐怖だと、もっとはっきり声が震えるはずだよね。だから実際に来た人には、ちゃんと機能すると思う」


────────────────────────────────────


 配置を一通り決めたあと、シアが一息ついて言った。


「連携の回廊は声に反応する敵、一人回しの間は視界を塞ぐ敵、共鳴の間は声の質を見る敵。三つとも、全部『声』か『見る』に関係してる」


『そうだな。意図したわけじゃないが、繋がっている』


「意図してないのに繋がるの、21層からずっとそうだよね」


『時間をテーマにした層を作ったら、感覚と焦りの話になった。今回は人数をテーマにしたら、声と役割の話になった。根っこが同じところから伸びているのかもしれない』


「根っこって?」


 俺はその問いを転がした。


『来た者に、自分自身と向き合わせること。焦りも、声も、役割も、結局は自分がどう振る舞うかという話になる』


「それ、ケンジが最初からずっと大事にしてきたことだと思う」


────────────────────────────────────


 夜、シアが横になりながら言った。


「共鳴の間、名前だけじゃなくて、中身もちゃんと共鳴してる仕掛けになったね」


『そうだな』


「モンスターの配置、あとどれくらいで終わりそう?」


『大枠は決まった。あとは実際に動かして、強さや反応の速さを調整する段階だ』


「テストが増えるんだ」


『増える。お前にも付き合ってもらうことになる』


「望むところ」シアが小さく笑った。「わたし、この層のテスト役、結構好きかも」


『危険はできる限り抑えている』


「知ってる。だから安心して試せる」


 シアが目を閉じた。


「おやすみ、ケンジ」


『おやすみ、シア』


 洞穴の外では今夜も迷宮の里の灯りがある。連携の回廊、一人回しの間、共鳴の間。三つの区間に、それぞれの性格を持ったモンスターが配置された。声と視界、二つの感覚を軸にした層が、輪郭を持ち始めていた。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:44,687,200P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) オーガ×1体(17層) コボルト×52体 協力戦闘区間専属モンスター×4体(18層) 素材守護モンスター×6体(19層) 最終区間専属モンスター×8体(20層) 速度感知守護モンスター×6体(21層) 声反応型モンスター×4体(22層・連携の回廊) 視界妨害型モンスター×3体(22層・一人回しの間) 声質判別型モンスター×2体(22層・共鳴の間)

落とし穴×47か所 毒ガストラップ×8 火炎トラップ×6 魔法陣トラップ×1 宝箱×2 砂時計×1(21層専用)

本日の収支:+1,456,700P

現在のダンジョン規模:21層 ランク:B(正式認定済み)

確定事項:22層各区間のモンスター配置方針が確定。連携の回廊=声に反応する敵、一人回しの間=視界を妨害する敵(非致死)、共鳴の間=声の「質」(冷静か動揺か)を判別する敵。いずれも21層の「焦り」というテーマと連続性を持つ設計思想で統一。今後は強さ・反応速度の実地調整に移行予定。コスト524,288,000P到達まで継続中。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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