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第78話_刻まれていく足跡

 21層が開いてから、来訪者の数が目に見えて増えた。


 シアが外で聞いてきた話を、朝の念話で伝えてくれた。


「「時間の層」って呼ばれ始めてる。焦ると落ちる、砂時計がある、最後は逆転するって、噂だけで三つも出回ってた」


『正確な噂だ』


「正確すぎて逆に怖いって言ってた人もいた。「対策を立てられる層は攻略しやすい」って」


 俺はその感想を転がした。


 情報が広まることは、難易度を下げる方向に働く。それでいい。この層は「知らずに焦る者」を試す層ではなく、「知っていてもなお焦る者」を試す層として設計した。


『対策を知っていても、砂時計を前にすれば焦る。それが狙いだ』


「知識と感情は別物、ってことだね」


『そうだ』


────────────────────────────────────


 二番目に来たのは、Bランクの五人組だった。


 第一区間で、二人が続けて落とし穴に落ちた。


「速度感知って聞いてたのに」と一人が穴の中から言った。


「聞いてたのと、実際にゆっくり歩くのは違う」ともう一人が答えた。「体が急ぐ癖を持ってる」


 三度目の挑戦で、五人全員がゆっくりとしたペースを保ったまま第一区間を抜けた。


 第二区間では、砂時計を見て動きが硬くなった。


「見るな、って自分に言い聞かせてるのに、目が勝手に行く」


「見て確認しないと、仕掛けの順番を間違える」


 二つの意見がぶつかり合ったまま、砂が半分を切った。


 残り時間が少なくなったところで、リーダーらしき者が声を上げた。


「見る役と操作する役を分けよう。俺が砂時計を見て、残り時間を叫ぶ。お前らは仕掛けだけ見ろ」


 役割を分けた瞬間、動きが揃った。


 砂が尽きる直前、扉が開いた。


────────────────────────────────────


 シアが感知で経過を追いながら、感心したように言った。


「役割を分ける、っていう発想。ライオスたちの協力とはまた違う」


『18層は「同時に作業する」協力だった。21層は「見る者と動く者を分ける」協力になっている』


「同じ二人以上でも、分け方が違うと結果が変わるんだ」


『来た者が自分たちで見つけた分け方だ。俺たちが教えたわけじゃない』


「それがいいんだと思う。教えられた通りにやるより、自分で見つけた方が忘れない」


 俺はその言葉を受け取った。


 シアの言う通りだった。仕掛けは提示するが、解き方まで指定はしない。来た者が自分の形を見つける余地を残す。それが積み重ねてきた設計の方向だった。


────────────────────────────────────


 第三区間で、五人は苦戦した。


「扉が開かない」


「まだ時間が経ってない」


「どのくらいだ」


「わからない。目安がない」


 目安を示す仕掛けは、あえて置いていない。来た者が「わからないまま耐える」ことも、21層が試す感情の一つだった。


 九分を過ぎたところで、一人が膝をついた。


「もう保たない」


「あと少しだ、たぶん」


「たぶんじゃ困る」


 その声が響いたところで、扉が動いた。


 十分二十秒。前回の蒼炎より短い時間だった。


「開いた」


「終わったのか」


「終わった」


 五人がその場に座り込んだ。


────────────────────────────────────


 外に出た五人のリーダーが、入口に向かって言った。


「コア、聞いてるか。えげつない層だな、あれは」


『聞いている、と伝えてくれ』とシアに念話を送った。


「聞いています」


「褒めてるんだ、悪口じゃない」リーダーが息を整えながら笑った。「知ってても効かない仕掛けって、初めてだった」


 シアが伝えた言葉を、俺は繰り返し考えた。


 知っていても効かない。それは狙い通りの反応だった。だが同時に、次の層はまた違う形の「効かなさ」を用意しなければならないということでもある。


『同じ手は二度使えない』


「わたしもそう思う」シアが答えた。「21層で焦りを試したから、22層は焦り以外の何かを試すことになるね」


────────────────────────────────────


 十日ほど経って、21層への来訪者の傾向が見えてきた。


 シアが集めた話を整理して伝えてくれた。


「一回目で抜けられる人はほとんどいない。二回目か三回目で抜ける人が多い。あと、パーティの人数が多いほど第二区間が楽になってる。役割を分けやすいから」


『少人数のパーティは苦戦するということか』


「うん。一人か二人で来た人は、まだ誰も抜けてない」


 俺はその情報を設計の記憶に加えた。


 21層は、協力を前提にした層になっている。それ自体は意図した通りだ。だが少人数でも別の形で突破できる道を、次の層で用意するかどうかは考える余地がある。


『22層は、人数に依存しない設計にするか、あるいは少人数向けの層にするか。どちらかを考える必要がある』


「両方できないかな」


『両方?』


「大人数向けの区間と、少人数向けの区間を、同じ層の中に混ぜる。来た人が自分の人数に合わせて選べる感じ」


 俺はその発想を転がした。


 選択式の構造は17層の「知の門」「力の門」で既に使っている。今回はそれを人数という軸で使う。新しい組み合わせだった。


『それは面白い。17層の知見が22層に繋がる』


「積み重ねって、そうやって繋がっていくんだね」


────────────────────────────────────


 夜、シアが荷物を整理しながら言った。


「22層のコスト、524,288,000P。今のペースだとどのくらい?」


『21層開通後の収入が伸びている。今のペースなら、五ヶ月半から六ヶ月といったところだ』


「半年、また設計を考える時間があるってことだね」


『そうだ。時間はある。焦る必要はない』


「21層っぽい台詞」シアが少し笑った。


『意図してない』


「意図してないところがいい」


 シアが横になった。


「ケンジ、25層まで行ったらAランクだよね」


『そうだ』


「その先は?」


『Aランク以上の来訪者が増える。収入が伸びる。1,000,000Pが視野に入る。その先にSランクの層がある。設計できる幅が今よりずっと広がるはずだ』


「まだまだ先があるんだ」


『そうだ』


「じゃあ、まだまだ一緒だね」


 俺はその言葉を受け取った。


『そうだ。まだまだ一緒だ』


「おやすみ、ケンジ」


『おやすみ、シア』


 洞穴の外では今夜も迷宮の里の灯りがある。21層を抜けた者たちが、また次の者に何かを伝えているはずだった。焦るな、役割を分けろ、知っていても油断するな——そうやって経験が言葉になって、次の来訪者の足元に積み重なっていく。


 22層の設計が、静かに始まっている。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:26,331,000P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) オーガ×1体(17層) コボルト×52体 協力戦闘区間専属モンスター×4体(18層) 素材守護モンスター×6体(19層) 最終区間専属モンスター×8体(20層) 速度感知守護モンスター×6体(21層)

落とし穴×47か所 毒ガストラップ×8 火炎トラップ×6 魔法陣トラップ×1 宝箱×2 砂時計×1(21層専用)

本日の収支:+1,342,600P

現在のダンジョン規模:21層 ランク:B(正式認定済み)

確定事項:21層に来訪者が続き、複数パーティが攻略に成功。「役割分担」(見る役・動く役の分離)という自発的な協力形態が観測される。少人数パーティは苦戦傾向。22層の設計方針として「人数に応じて選べる区間」構想が浮上。コスト524,288,000P、想定所要期間五ヶ月半〜六ヶ月。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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