第79話_二つの道
22層の設計は、「人数に応じて選べる区間」という発想から始まった。
シアが採集の合間に、その発想を転がしていた。
「大人数向けと少人数向け、両方作るなら、どっちも同じくらい面白くないといけないよね。片方が楽で片方が辛いだけだと、選ぶ意味がなくなる」
『そうだ。難易度を揃えるのが一番難しい部分になる』
「大人数の方は21層の延長でいい気がする。役割を分ける協力を、もっと発展させる感じ」
『少人数の方は、逆に「一人でも成立する」設計が要る。誰かに頼れない前提の層だ』
「一人でも成立する……」シアが少し考えた。「それって、自分の中で複数の役割を切り替える、ってことになるのかな」
俺はその発想を転がした。
大人数が「役割を分ける」のなら、少人数は「役割を切り替える」。対になる構造だ。
『それだ。少人数向けの区間は、一人が短時間で複数の役割を担う設計にする。見る、動く、守る——それを一人が順番にこなす』
「忙しい層になりそう」
『忙しさが、少人数向けの緊張感になる』
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最初の案は、もっと単純だった。
「大人数用の広い部屋」と「少人数用の狭い通路」を分けるだけの案から始めた。だがシアが首をかしげた。
「それだと、少人数向けが単純に楽なだけになっちゃわない? 狭い通路の方が敵の数も少なくて済むし」
『……そうだな』
空間の広さだけで難易度を調整すると、片方が有利になりやすい。単なる「狭い版」「広い版」では選ぶ意味が生まれない。
『難易度の質を変える必要がある。広さの違いじゃなく、求められる動きの種類を変える』
「求められる動きの種類……」
『大人数は「分業」で解く。少人数は「兼業」で解く。同じ難しさでも、種類が違う難しさにする』
「兼業、って言葉、コアっぽい」シアが笑った。
「知ってる。ケンジがたまに使う言葉、だいたい元の世界の匂いがする」
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具体的な仕掛けを詰める作業が始まった。
大人数向けの区間は「連携の回廊」と名付けた。
最大六人が同時に操作できる仕掛けを複数配置する。仕掛け同士が離れているため、声を掛け合って連携しなければ機能しない設計だ。
「21層の砂時計は見る役と動く役だったけど、これはもっと役割が増える感じ?」
『そうだ。見る役、動く役、伝える役。三つ以上の役割が必要になる。人数が多いほど有利になる設計だ』
「伝える役、っていうのが新しいね」
『声が届く距離に制限を設ける。近くにいないと連携が取れない。だから伝える役が必要になる』
シアが実際に回廊の設計図を歩いてみた。感知で距離を測りながら、声に出して数えた。
「ここからここまで、大声じゃないと届かない距離。でもここは普通の声で足りる」
『その差が、伝える役の重要さを生む』
「近い仕掛けだけ声を抑えて、遠い仕掛けは叫ぶ。声の使い分けが起きるね」
『それが狙いだ』
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少人数向けの区間は「一人回しの間」と仮の名をつけた。
「一人回し、ってそのままだね」
『仮の名だ。正式には後で考える』
仕掛けは三つの装置を一人で順番に操作する構造にした。
装置Aを起動すると、一定時間後に装置Bが反応可能になる。装置Bを起動すると装置Cが反応可能になる。装置Aの効果は時間経過で切れる。切れる前に装置Cまで終わらせないと、最初からやり直しになる。
「時間差のリレーを、一人でやる感じ」
『そうだ。二人以上なら分担できる。一人なら、走って移動しながら全部やる必要がある』
「人数が多いパーティも、あえて少人数向けを選べる?」
『選べる。ただし大人数で少人数向けを選ぶ利点は薄い。逆に少人数で大人数向けを選ぶと、極端に不利になる』
「自分の強みを活かせる方を選ぶ層、ってことだね」
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二つの区間の後に、共通の最終区間を置くことにした。
「共通にする理由は?」
『どちらの道を選んでも、最後は同じ試練で終わる。道が違っても、辿り着く場所は同じだという構造にしたい』
「それ、いいと思う。道は違っても、最後に同じ場所に立つ」
最終区間の内容は、まだ固まっていなかった。
『少し寝かせる。連携の回廊と一人回しの間を先に固めてから、両方の経験を踏まえた締めくくりを考えたい』
「順番があるんだ」
『ある。土台がないと、上に何を乗せるか決まらない』
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その頃、21層に来た二人組が、噂の続きを運んできた。
シアが対応に出た。
「二人でいらっしゃったんですね」
「無謀かもしれないけど、来てみた」男の方が笑った。「22層の話、もう聞いたか? 人数で道が分かれるらしいって」
「まだ設計中です」
「本当か。楽しみにしてる。俺たちみたいな二人組にも、勝ち筋があるってことだよな」
シアが念話で伝えてきた。
『ケンジ、聞いた?』
『聞いた。今の21層だと、少人数の来訪者が一番苦戦してる。だからこそ22層の少人数向けが意味を持つ』
シアが二人に向き直った。
「二人でも突破できる道を用意するつもりです。楽しみにしていてください」
「頼んだぞ、コア」
『任せろ、と伝えてくれ』
「任せろ、だそうです」
二人が笑って21層に向かった。
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三週間ほど経って、連携の回廊の細部が固まった。
仕掛けの数、配置、声の届く距離。シアが感知で確認しながら、何度も歩いて距離感を測った。
一人回しの間の方は、シア自身が試作の動きをなぞってみた。
「装置Aから装置Cまで、走って——」シアが感知しながら数えた。「今の速さだと間に合わない。もう少し時間の余裕を作った方がいいと思う」
『どのくらい欲しい』
「あと五秒くらい。ぎりぎりすぎると、来た人が全員諦めちゃう気がする」
『調整する』
装置Aの持続時間を延ばした。シアがもう一度なぞった。
「これなら、余裕はないけど、諦めるほどじゃない」
装置の素材にも手を加えた。19層で使った素材石の技術を応用し、装置が起動している間だけ淡く光る仕組みにした。
「光るの、いいね。今どの装置が生きてるか、見ればわかる」
『一人だと確認する余裕が少ないから、瞬時にわかる工夫が要る』
「一人回しの間、ちゃんと一人のための層になってきた」
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夜、シアが横になりながら言った。
「22層、二つの道があるって、来た人に伝わるといいな」
『入口に印を置く。人数によって推奨される道が示される仕掛けにする』
「強制じゃなくて、推奨なんだ」
『強制はしない。少人数で連携の回廊を選ぶ者もいるかもしれない。それも来た者の判断だ』
「あえて難しい方を選ぶ人、いそう」
『いるだろう。それも設計の範囲だ』
「ケンジ、最近、選択肢を残す設計が増えてきたね」
『そうかもしれない』
「なんでだろう」
俺はその問いを転がした。
『最初の層は、正解が一つしかなかった。今は、正解の形が複数ある層が増えている。来た者が増えて、来た者の形も多様になった。だから設計も、それに合わせて変わっているんだと思う』
「来た人が増えるほど、コアも変わっていくんだ」
「今日来た二人組、覚えてる?」
『覚えている』
「ああいう人たちのための層、ちゃんと作ろうね」
『作る』
「おやすみ、ケンジ」
『おやすみ、シア』
洞穴の外では今夜も迷宮の里の灯りがある。連携の回廊と一人回しの間、二つの道の骨組みができた。最終区間はまだ形がない。
22層の設計が、少しずつ形になっていく。
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DP残高:31,972,400P
配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) オーガ×1体(17層) コボルト×52体 協力戦闘区間専属モンスター×4体(18層) 素材守護モンスター×6体(19層) 最終区間専属モンスター×8体(20層) 速度感知守護モンスター×6体(21層)
落とし穴×47か所 毒ガストラップ×8 火炎トラップ×6 魔法陣トラップ×1 宝箱×2 砂時計×1(21層専用)
本日の収支:+1,398,200P
現在のダンジョン規模:21層 ランク:B(正式認定済み)
確定事項:22層の設計方針が「連携の回廊」(大人数向け・役割分担型)と「一人回しの間」(少人数向け・役割切替型)の二区間並列構造で固まる。最終区間は未確定、二区間完成後に着手予定。入口に人数に応じた推奨表示を設置する方針。少人数パーティ(二人組)の来訪をきっかけに、少人数向け設計の必要性を再確認。コスト524,288,000P到達まで継続中。
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次話は明日の17:00に投稿します。
1日1話投稿の予定になります。
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