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第72話_総決戦の場

 20層のコストは131,072,000Pだった。


 シアはその数字を聞いて、笑った。


「もう驚かなくなった。大きい数字に慣れた」


『慣れたか』


「うん。最初は100万Pでびっくりしてたのに。今は1億超えても「そういうもの」って思える」


『それだけ積み重ねてきたということだ』


「ね」シアが少し間を置いた。「20層って、どんな層にするか、もうずっと考えてた」


『聞かせてくれ』


「全部の積み重ねが試される層。戦い、謎解き、記憶、選択、協力、創造。これを全部同時に要求する層にしたい。ただし、一つ一つが別々に来るんじゃなくて、同時に絡み合ってくる」


『絡み合う、というのはどういうことだ』


「たとえば、協力しながら謎を解く。選択しながら戦う。創造した何かが記憶と繋がる。要素が複合して来る。切り離せない」


────────────────────────────────────


 設計の話し合いは積み立て期間に何度も重ねた。


 一番難しかったのは「どう絡み合わせるか」だった。


「協力しながら謎を解く、の具体的な形って何?」とシアが二ヶ月目に聞いた。


『一人が謎を解いている間、別の人がモンスターから守る。役割が分かれて、どちらが欠けても成立しない』


「でも18層の協力とどう違う?」


『18層は「同じことを複数人でやる」協力だ。20層は「違うことを同時にやる」協力にする。一人が壁の謎を読んで、別の人が台座を操作して、さらに別の人が戦いながら時間を稼ぐ。三つが同時に動かないと前に進めない』


「忙しい層だ」


『忙しい。だが死なないから、混乱しながら試行錯誤できる』


────────────────────────────────────


 三ヶ月目、記憶と選択の組み合わせが決まった。


「20層に入る前に、どのルートで来たかが重要になる設計にしたい」とシアが言った。


『どういう意味だ』


「15層の謎解きを経験してきた人は、20層の謎が解きやすい。16層の記憶を持ってきた人は、20層の印が読める。17層で力の道を選んだ人は、20層の戦闘区間が楽になる。知の道を来た人は、謎の区間が楽になる」


『今まで経験してきた全ての層が、20層での有利不利に影響する』


「そう。15層から19層まで全部来た人が一番有利。でも特定の層だけ来た人は、その部分だけ有利で他が難しい。全部経験してきた人が、全部の面で恩恵を受ける』


 俺はその設計の深さを確認した。


 記録として来た者の「経路」を俺は感知している。ここまで来た間に、どの層でどんな体験をしたか。それを20層の難易度に反映させることができる。


『それは実現できる。来た者が過去にどの層を通ってきたか、俺には感知でわかる。その情報を20層の仕掛けに使える』


────────────────────────────────────


 五ヶ月目、創造の要素をどう入れるかで議論が深まった。


「19層の壁への刻みを、20層でも使いたい」とシアが言った。「ただし20層の刻みは、正しい模様を知るためにこれまでの記憶が必要になる設計にしたい」


『どういうことだ』


「16層で見た印、19層で読んだパターン、それを組み合わせた模様が20層の答えになる。一つの層しか来ていない人には解けない。両方経験してきた人だけが解ける』


 積み重ねが問われる設計。来た回数と経験した層の数が、直接攻略の可否に影響する。


『それは設計として一貫している。ただし初めて来た者は20層に辿り着けても突破できないことになる』


「うん。20層は何度もここに来た人への「ご褒美」みたいな層にしたい。初めての人には難しくていい。何度も来てくれた人が報われる設計にしたい』


────────────────────────────────────


 コストに届いた朝は、静かだった。


 シアが採集から戻ってくる前に、残高が131,072,000Pを超えた。


 俺はシアが戻るのを待った。


 シアが入口から入ってきた。荷物を下ろして水を飲んだ。それから念話が届いた。


『ケンジ、届いた?』


『届いた』


『今日、開く?』


『今日だ』


 少し間があった。


『一年近くかかったね』


『そうだな。19層が完成してから十ヶ月だ』


『長かった。でも、考える時間としては十分だった』


『そうだ。では始める』


 131,072,000P。消費した。


 20層が開いた。


────────────────────────────────────


 シアが感知で確認した。


「……今まで作った中で、一番「重い」感じがする」


『重い』


「空間が重い感じ。入ってはいけない場所に踏み込んだような、そういう緊張感』


『これまで作った全要素を盛り込む設計だからかもしれない。複合した仕掛けが、空間の密度を上げている』


「早く形を作りたい。でも、急ぎたくない気持ちもある」


『どういう意味だ』


「20層を作ったら、ここの構造が完成する。それが嬉しいけど、少し寂しい気がして」


俺は少し考えた。


『作り終えても、また変えられる。完成は次の始まりでもある』


「そうだね。じゃあ始めよう」


────────────────────────────────────


 工事は十二日間かかった。これまでで最長だった。


 まず空間の構造を設計した。20層は四つの区間で構成されている。


 第一区間は「審問の廊下」。これまで来た者の記録を反映させる区間だ。壁に過去の各層の象徴的な印が刻まれている。来た者が自分の経路と照合することで、次の区間への道が開く。複数回来ている者には馴染みのある印が並んでいる。初めて来た者には解読が難しい。


 第二区間は「三つ巴の広間」。広い空間に三つの台座がある。三人が同時に台座を操作しながら、モンスターと戦い、壁のヒントを読む。三つの行為が同時進行する。役割分担が必要だ。


 第三区間は「刻みの間」。19層の壁への刻みの応用だ。ただし今回は、正しい模様が16層と19層の知識を組み合わせないと導けない。


 第四区間は「最終の壁」。これまでの全ての経験を結集した最難関のモンスター群と向き合う。


────────────────────────────────────


 シアが各区間を一つずつ確認しながら設計に参加した。


「審問の廊下、わたしが来たときどう見える?」


『お前は全層を経験しているから、全ての印が読める。ただし来た者によって見える印の数が違う。五層までしか来ていない者は、前半の印しか読めない』


「来た回数で変わる、ってこと?」


『そうだ。多く来ている者ほど、より多くの印が読めて、より深い道が開く』


「来てくれた人が報われる設計、ちゃんとできてる」


 第三区間の「刻みの間」で、シアが質問した。


「正しい模様って、どうやって伝える? 来た人が16層と19層の知識を組み合わせると気づけるように』


『廊下の一部に、二つの層の印が隣り合って並んでいる。それが組み合わせるヒントになる。気づく人は気づく。気づかない人には難しい』


「気づいた瞬間が嬉しい、っていう15層と同じ設計の思想だね」シアが言った。


────────────────────────────────────


 十二日目の夕方、20層が完成した。


 シアが全体を感知で最終確認した。


「……できた。ほんとうに、できた」


 声が少し違った。


「20層まで来た」


『来た』


「ここを最初に作り始めたのって、いつだっけ」


『お前が逃げ込んできた夜だ。1層から始まった』


「それが今日、20層になった」


 シアが少し間を置いた。


「なんか、実感がない。でも本当のことだ」


『本当のことだ。お前が来てから、一緒に作ってきた』


「ケンジが作ってくれた。わたしはアイデアを出しただけ」


『アイデアなしでは形にできない。どちらが欠けてもここまで来られなかった』


 シアが静かになった。それからまた言った。


「……ありがとう、ケンジ」


 俺は少しの間を置いた。


『こちらこそ』


────────────────────────────────────


 翌日、エリナが来た。


「20層が完成したんですね」


「はい」とシアが答えた。


「ギルドへの報告が必要です。Bランク認定の申請ができます」


「Bランク」


「20層以上のダンジョンで、Bランク相当の来訪者が10層以上突破できる実力があると認められれば、Bランク認定が下ります。今の実力からすれば、申請は通るはずです」


 シアが俺に念話を入れた。


『ケンジ、Bランクになる』


『そうだな』


『嬉しい?』


『来た』


「来た、って言ってる」とシアがエリナに伝えた。


 エリナが少し笑った。「コアらしいですね。では申請の手続きを進めます」


────────────────────────────────────


 Bランク認定書が届いたのは、申請から一週間後だった。


 エリナが持ってきた。


「Bランクダンジョン、鍛錬の迷宮、正式認定」


 シアが認定書を受け取った。棚に向かった。花、石、Dランク、Cランク。そこにBランクの認定書が加わった。


「棚が賑やかになってきた」とシアが言った。


「全部置いておくんですね」とエリナが言った。


「全部大事だから」


 俺はその棚を感知した。


 最初に花が来た。シアが外で採ってきた花だ。次に石が来た。俺が水辺で見つけた石だ。Dランクの認定書、Cランクの認定書、そして今日Bランクの認定書が来た。


 全部、積み重なってきたものだ。


────────────────────────────────────


 その夜、俺は珍しく自分から行動した。


 ゴルムを通じて、ライオスに伝言を頼んだ。


「ゴルムさん、ライオスさんに伝えていただけますか」とシアが伝えた。「「20層が完成した。来てくれ」と、コアから』


 ゴルムが少し驚いた顔をした。


「コアから、か。初めてだな、向こうから誘うのは」


「ケンジが言い出したんです」とシアが言った。「「来てくれと伝えてくれ」って」


「それは——ライオスも喜ぶだろう」ゴルムが顎髭を撫でた。「わかった。伝える」


 ゴルムが帰った後、シアが念話を入れた。


『ケンジ、向こうから誘ったの、初めてだね』


『そうだな』


『なんで?』


 俺は少し考えた。


『ライオスが「また来る」と言い続けてくれた。それに応える形で作り続けてきた。20層まで来たから、今度はこちらから呼んでもいいと思った』


「嬉しい理由だ」シアが言った。「ライオスさん、喜ぶと思う』


『そうだといい』


────────────────────────────────────


 夜、シアが眠りにつく前に言った。


「ケンジ、Bランクになった。次はAランクだ」


『そうだ。21層以降の拡張が必要になる』


「またコストが上がる」


『上がる。ただし今の収入ペースは以前より大きい。Bランクになれば、さらに来訪者の質が上がる。収入も増える』


「じゃあ遠くても来る」


『来る』


「ケンジって、昔より「来る」って言い切れるようになった気がする」


『昔は不確かな部分が多かった。今は積み重ねがある。積み重ねが確信になる』


「そういうことか」シアが少し間を置いた。「じゃあわたしも積み重ねてきたから、言える。Bランクの先も、ケンジと一緒に来る』


『ありがとう』


「どういたしまして」


 シアが笑って、静かになった。


 20層が今日完成した。Bランクの認定書が棚に加わった。ライオスを呼ぶ伝言を送った。


 次が始まる。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:3,419,600P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) オーガ×1体(17層) コボルト×52体 協力戦闘区間専属モンスター×4体(18層) 素材守護モンスター×6体(19層) 最終区間専属モンスター×8体(20層)

落とし穴×44か所(20層に3追加) 毒ガストラップ×7(20層に1追加) 火炎トラップ×6(20層に1追加) 魔法陣トラップ×1 宝箱×2

本日の収支:+576,400P 20層拡張:-131,072,000P

現在のダンジョン規模:20層 ランク:B(正式認定済み)

確定事項:20層「総決戦の場」完成。Bランク正式認定。ライオスへ「20層が完成した、来てくれ」という初の能動的招待を送った。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
これだけダンジョンが巨大化し、ダンジョン前には宿屋も食堂もあるのに、人間の料理では栄養が足りず採集に出かけないといけないエルフの不便さ。
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