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第66話_蒼炎四たび

 ライオスが来ると聞いたのは、三日前だった。


 ゴルムが情報を持ってきた。


「ライオスが「15層が完成したと聞いた。今週中に行く」と街で言っていたらしい」


「今週中か」とシアが言った。「準備は十分できてる?」


 俺は全層の配置を確認した。


 1層から15層まで。各層の状態は良好だ。ガルムは四段階強化のまま。15層の鍵石の位置は三日前に変えてある。光の反射の切り替えタイミングも調整した。


『準備はできている』


「ならいい」シアが頷いた。「楽しみだね」


 それだけだった。


 以前なら「負けないでよ」と言っていた。今日は「楽しみだね」だった。


────────────────────────────────────


 ライオスが来たのは、翌々日の昼だった。


 六人。全員の装備が前回より重かった。消耗品の量も増えている。前回の14層での消耗を踏まえて、全体的に補充してきたらしい。


 入口でライオスとシアが向き合った。


「また来た」


「お待ちしていました。15層が完成しています」


「聞いた」ライオスが洞穴の入口を見た。「今日は15層まで行く。できれば突破する」


「頑張ってください」


「コアに言ってくれ」ライオスが入口の方を向いた。「今日も全力で頼む」


 シアが念話を確認した。


『全力でいく、と』


「コアが全力でいく、と言っています」とシアが伝えた。


「了解した」ライオスが笑った。「では始める」


────────────────────────────────────


 1層から順に突破していった。


 1層が四分。過去最速だ。配置を完全に把握している。


 2層が五分。強化オークへの対処が洗練されている。消耗品を一切使わずに突破した。


 3層が十四分。シアの植物は今回も密だが、蒼炎はコボルトの奇襲パターンを全て把握していた。


 4層が三分。5層が十一分。6層が十分。


 6層の水場では、弓使いが今日は水中から全員に先んじてゴブリンを処理した。水底の配置も事前に読んでいた。


 7層が九分。8層が十二分。


 8層のループ迷路は、前回でルートを覚えていた。今日の新しいルートも、直感で選んだライオスの判断が正解だった。


 9層が八分。10層のガルムが二十五分。


 ガルムとの戦闘が今まで最速だった。四段階強化に対する攻略が完成に近づいている。


────────────────────────────────────


 11層から13層は前回と同様に突破した。


 そして14層に入ってきた。


 14層の五ゾーン構成。水、炎、暗闇、風、鏡。


 今日の蒼炎は前回14層を経験した後だった。各ゾーンの性質を把握している。消耗品の配分が違った。水ゾーンでは無駄な動きを省いた。炎ゾーンでは天井のトラップを優先的に避けた。


 それでも14層は難しかった。


 今日はゾーンの順番を変えていた。前回は水・炎・暗闇・風・鏡だったが、今日は炎・風・水・鏡・暗闇にした。


 炎ゾーンに入った瞬間、ライオスが言った。


「順番が変わっている」


「変えた?」と弓使いが言った。


「このダンジョンは来るたびに変える。そういう場所だ」


 蒼炎は混乱しながらも崩れなかった。


 14層の突破まで三十七分。前回より消耗が少ない状態で突破した。


────────────────────────────────────


 15層に入ってきた。


 六人全員が揃っていた。今回は14層でリスポーンした者がいなかった。全員の状態が良好なまま15層に入った。


 これが最大の違いだった。


 六人が第一区間に入ってきた。


 岩が散在している。


「岩が多い」と誰かが言った。


「気をつけろ。何かある」とライオスが言った。


 六人が散開して岩を調べ始めた。コボルトが四体、巡回から来た。


 戦闘になりながら岩を調べる。今日の鍵石の位置は前回来訪者が来たときから変えてある。


「温かい石がある」と短剣使いが言った。「これか?」


「形も少し違う」と魔法使いが言った。「鍵だと思う」


 六人が鍵石を確保した。第一区間を八分で通過した。


────────────────────────────────────


 第二区間に入ってきた。


 壁があった。


「扉か」とライオスが言った。すぐに気づいた。「くぼみを探せ」


 横のくぼみを見つけた。鍵石を入れた。壁が動いた。


「開いた」


 六人が通り抜けた。第二区間は四分だった。


 第三区間に入ってきた。


 光の筋が見えた。


「光が方向を示している」とライオスが言った。


「情報を聞いていました」と魔法使いが言った。「追うと分岐で変わるらしい」


「知っているのか」


「来訪者の話です。「光が変わった」という話が出ていた」


 事前情報を持ってきていた。


 六人が慎重に光を追った。分岐が来た。


「止まれ」とライオスが言った。「変わるかもしれない」


 六人が分岐手前で止まった。


 光が変わった。


「変わった」とライオスが言った。「見ろ。方向が変わった」


「じゃあ離れて待てばいい」と短剣使いが言った。「情報通りだ」


「コボルトが来る。急げ」


────────────────────────────────────


 事前情報を持っていたことで、第三区間は速かった。


 だがコボルトとの戦闘が重なった。光のタイミングを待ちながら、コボルトを処理する。その同時進行が難しかった。


 弓使いが一人リスポーンした。


 五人で正解ルートを通り抜けた。第三区間を十八分で突破した。


 これが今日の15層の時間だ。


 合計三十分。


 五人が15層を突破した。


────────────────────────────────────


 五人が先に進もうとした。


 16層がない。


 止まった。


「また先がないか」とライオスが言った。


「16層はまだです」とシアが外から声をかけた。


 ライオスが少し笑った。


「追いつくのが速くなっている」


「こちらも作るのを急いでいます」


「わかった。今日はここまでだ」


 五人が引き返した。


────────────────────────────────────


 全員が外に集まった。リスポーンした弓使いも含めて六人が揃った。


 シアが出てきた。


「15層を突破しましたね」


「ああ」ライオスが水筒を出した。「今日の15層は面白かった」


「どの仕掛けが?」


「全部だが——特に扉が開いたときだ。体で突破する層とは違う快感があった」


「謎を解いた感じ、ですか?」


「そうだ。それだ」ライオスが頷いた。「設計が変わっている。これまでの層は「強さ」か「耐久」で突破する。あの層は「理解」で突破する」


 シアが俺に念話を入れた。


『ケンジ、聞いてた?』


『聞いていた』


『「理解で突破する」って言ってくれた』


『お前の設計意図を正確に言語化してくれた』


「コアが言っています。設計意図を正確に言ってくれた、と」とシアがライオスに伝えた。


────────────────────────────────────


 ライオスが少し立ち止まった。


「マスター、一つ聞いていいか」


「はい」


「あの層の設計、お前がしたのか」


「はい。謎解き要素はわたしが提案しました」


「なぜ謎解きにしようと思った」


 シアが少し考えた。


「来た人が「解けた」って思う瞬間が欲しかったから。困らせるだけじゃなくて」


 ライオスが黙った。


「来た人のために設計した、ということか」


「そういう気持ちです」


「……そうか」ライオスがシアを見た。「お前は最初から来た者のことを考えていたのか?」


「最初じゃないです。最初は「どう守るか」だけ考えてた。だんだん「来た人がどう感じるか」も考えるようになった」


「成長したな」とライオスが言った。


「それはこっちの台詞ですよ」とシアが返した。「ライオスさんたちも毎回強くなって来る」


 ライオスが笑った。今日一番の声に出した笑いだった。


────────────────────────────────────


 ライオスたちが去る前に、また俺に向けて言った。


「コア、16層を楽しみにしている」


 シアが念話を確認した。


『こちらも楽しみにしている』


「コアも楽しみにしていると言っています」とシアが伝えた。


「そうか」ライオスが入口の方を向いた。「また来る。16層が完成したら」


「お待ちしています」


 六人が帰っていった。


 足音が遠ざかって、外の賑わいに混じって消えた。


────────────────────────────────────


 その夜、DP収支を確認した。


 今日の収入は過去最高水準だった。蒼炎の来訪分と通常来訪者を合わせて、大きな数字になった。


 DP残高:1,312,400P。


 16層のコスト8,192,000Pまで、まだ遠い。だが積み上がっている。


 シアが眠りにつく前に言った。


「ケンジ、今日ライオスさんが「理解で突破する」って言ってくれた」


『そうだな』


「なんか、その言葉がずっと頭に残ってる」


『なぜだ』


「わたしが設計で目指したことを、来た人がちゃんと体験して、言葉にして伝えてくれた。設計した甲斐があった、って思えた」


『それが今日一番の収穫だ』


「DPより?」


『DPも大事だ。でも今日のライオスの言葉は、16層の設計に影響する。「理解で突破する」が15層の価値なら、16層は「記憶で突破する」にする。来る者のことを考えた設計の連続にしたい』


「「困らせる→理解→記憶」と来て、次は何かな」


『お前が考えてくれ』


「わかった。また一緒に考えよう」


 シアが静かになった。


 今日、蒼炎が四度目の来訪をした。15層まで突破した。「理解で突破する」という言葉を残していった。


 16層がまた少し見えてきた気がした。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:1,312,400P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) コボルト×44体

落とし穴×29か所 毒ガストラップ×4 火炎トラップ×5 魔法陣トラップ×1 宝箱×1

本日の収支:+254,200P(蒼炎来訪+通常来訪者)

現在のダンジョン規模:15層 ランク:C(正式認定済み)

確定事項:蒼炎(ライオス率いる六人)が四度目の来訪。15層を五人で突破(弓使い一名リスポーン)。ライオスが「理解で突破する層」と評した。「16層が完成したらまた来る」と宣言。

課題:16層拡張まであと約6,879,600P(約一ヶ月半で到達見込み)。16層「記憶の層」の設計継続。王国使節来訪(来月初旬)への準備継続。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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