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第64話_謎解きの層

 15層の設計議論は、拡張コストに届くまでの二週間で繰り返された。


 シアが言い出したのは「考えれば解ける仕掛けがある層」だった。ただしアイデアはぼんやりしていた。具体的にどんな仕掛けを作るか、話し合いを重ねるうちに形になっていった。


 最初の週の話し合い。


「考えれば解ける仕掛けって、たとえば?」と俺が聞いた。


「扉、とか」とシアが答えた。「扉があって、鍵がいる。鍵はどこかに隠してある。探せば見つかる。でも探している間にモンスターが来る」


『探索とモンスターの同時対処か』


「うん。普通の層は「強さ」で突破する。この層は「頭」を使わないと鍵が見つからない」


『鍵の仕組みは権能で作れる。石や鉱物を使って、特定の石を特定の場所に置くと扉が開く構造にできる』


「それだ。鍵が石なら、どこかに落ちてて拾える。でもどれが鍵かわからない。いくつか石を試して正解を探す」


────────────────────────────────────


 二週目の話し合いで設計が固まった。


 15層の構成はこうなった。


 第一区間:探索区間。通路に岩が複数散在している。その中に特定の石(鍵石)が一つ混じっている。鍵石は形が少し違う。気づく人には気づくが、焦っていると見逃す。モンスターが巡回している。探しながら戦わないといけない。


 第二区間:扉の区間。鍵石を持って特定の壁に当てると、壁が動いて通路が開く。鍵石を持っていなければ壁は動かない。別の道を探せば迂回できるが、迂回路にはトラップが多い。


 第三区間:反射区間。通路に水晶が配置されている。コアの光を反射させることで、光の筋が特定の方向を指す。光を追えば正解のルートがわかる。ただし光が動く——俺が意図的に光の方向を変えられる。ずっと同じ方向を指してくれると思ったら、変わる。


「第三区間、光が変わるの、絶対怒る人いる」とシアが言った。


『そうだな。ただし、変わるルールに気づいた人は別の見方ができる。光が変わるのではなく、特定のタイミングで変わるなら、そのタイミングを待てばいい』


「タイミングを待てる余裕がある状況で来た人には、攻略できる」


『そうだ。余裕がない状況で来た人には難しい。消耗度合いで難易度が変わる』


「それはいい設計だ」シアが言った。「強さだけじゃなくて、余裕も問われる」


────────────────────────────────────


 DP残高が4,096,000Pを超えた朝、俺は15層を開いた。


 4,096,000P消費。


 DP残高:488,200P。


 今回は前より残高が多く残った。一週間で4,096,000Pを超える収入があったからだ。来訪者が安定して多い。


 15層が開いた。


 シアが感知で確認した。


「……開いた。広さは14層と同じくらい?」


『少し縦に長い。探索区間・扉区間・反射区間の三区間を直列に並べたからだ』


「早く作りたい」


『今日から始める』


────────────────────────────────────


 第一区間の設計から着手した。


 通路の床に岩を散在させる。地形改造でできる。大きさが様々な岩が転がっている状態を作る。


 その中に、鍵石を一つ混ぜる。


 鍵石は通常の岩と違う点がある。色が微妙に違う。触れると温かい。この二点だ。見ていれば気づく。急いでいると見逃す。


 シアが感知で確認した。


「……岩がいっぱいある。でも鍵石、感知でわかる?」


『わかる。俺には全部見えている。来訪者には見えない。感知の精度が高い者は気づくかもしれないが、感知は物体の位置を教えてくれても、「温かさ」や「微妙な色の違い」は教えてくれない』


「つまり、目で見て触って確認するしかない」


『そうだ。急いでいたら通り過ぎてしまう』


「モンスターはどこに配置する?」


『コボルト四体を巡回させる。鍵石の周辺には多めに巡回させる。気づいて近づこうとすると戦闘になる』


「攻略するためにわざと戦闘に入る必要がある、ってこと?」


『そうだ。あるいは上手く戦闘を回避しながら探索するか』


────────────────────────────────────


 第二区間の扉の仕掛けを作った。


 通路の途中に壁が立っている。通り抜けられない。壁の横に小さなくぼみがある。そこに鍵石をはめると壁が動く。


 シアがくぼみの形を確認した。


「鍵石がちょうど入る形にするの?」


『そうだ。他の石では入らない。鍵石だけが合う形にする』


「なるほど。触れて温かくて、形が合う石を探すんだ」


『ただし来訪者に「扉を開けるには石が必要だ」という情報がない。初めて来た者は「この壁は開かない」と思って迂回路に行くかもしれない』


「迂回路はどうなってる?」


『トラップが多い。落とし穴と毒ガストラップの組み合わせだ。扉を開けた方が楽だが、鍵を持っていない状態では迂回する他ない』


「二回目に来た人は鍵を知っている。一回目で気づけなかった人は次に気づける」


『そうなる。一回目と二回目で体験が変わる』


「繰り返し来る価値がある」シアが言った。「死なないダンジョンだから、一回目で気づけなくても二回目に試せる」


────────────────────────────────────


 第三区間の反射の仕掛けを作った。


 通路の壁に水晶を複数埋め込む。13層で使った鏡面素材の応用だ。コアの光がこの水晶に当たると、特定の方向に光が反射する。


 正解ルートに向けて光が指す、という仕掛けだ。


 シアが確認した。


「光を追えばいいの? 最初はわかりやすくて、途中で変わる感じ?」


『最初は光が正解方向を指す。ただし分岐に来たとき、光が変わる。正解ルートへの光が消えて、別の方向を指す。来訪者は「光が変わった。どっちが本物か」と混乱する』


「でも変わるタイミングに気づければ待てる、だよね」


『そうだ。俺が光を変えるタイミングは、来訪者が分岐に近づいたときだ。わかった人は「近づくと変わる」と気づく。分岐から少し離れて待てば、光が元に戻る』


「なるほど。離れて待てばいいんだ」シアが少し考えた。「でも、その間にモンスターが来る?」


『コボルトを反射区間にも配置する。待っている間に来る』


「うわ、嫌だ」シアが笑った。「でも来た人はそれに気づいたとき、「あー!」ってなると思う」


────────────────────────────────────


 三日間の作業で15層が完成した。


 シアが全体を感知で最終確認した。


「……できた。完成した感じがする」


『第一区間から第三区間まで、全部設置した』


「ケンジ、第一区間の鍵石の場所、変えられる?」


『変えられる。地形改造でDP消費なしに動かせる』


「じゃあ、来るたびに位置を変えよう。毎回同じ場所にあると二回目以降が楽になりすぎる」


『それは良い運用だ。鍵石の位置を定期的に変える。扉のくぼみは固定のまま。来る前に鍵石の位置を変えておけば、同じパーティが複数回来ても毎回探す必要がある』


「完璧だ」シアが少し嬉しそうに言った。


────────────────────────────────────


 翌日、15層に最初の来訪者が入った。


 Cランクの四人パーティだ。14層まで突破してきた経験豊富な組だ。


 15層に入った瞬間、先頭が「岩が多い」と言った。


「前の層と違う。モンスターより岩が目立つ」


「何かある」


 四人が散開して岩を調べ始めた。コボルトが出てきた。戦闘になりながらも、岩を調べ続けた。


 六分後、一人が言った。「この岩、温かい」


「それだ」と別の一人が言った。


 コボルトと戦いながら鍵石を確保した。第二区間の扉の前まで来た。


「壁がある。動かない」


「横にくぼみがある」


「石を入れてみる」


 鍵石をくぼみに入れた。壁が動いた。


「開いた!」と誰かが叫んだ。


 四人が声を上げた。


────────────────────────────────────


 第三区間の反射ゾーンに入ってきた。


 光の筋が見えた。


「光が方向を示している」


「これを追えばいいのか」


 四人が光を追った。分岐に近づいた瞬間、光が変わった。


「変わった?」


「さっきと違う方向を指している」


「どっちが本物だ」


 四人が混乱した。コボルトが来た。戦いながら方向を考えた。


 一人がリスポーンした。


 三人が残った。


 一人が「一度戻ってみる」と言った。分岐から離れた。


 光が元に戻った。


「光が戻った。近づくと変わる仕組みか?」


「そうだ。離れて待てばいい。ただしモンスターが来る」


「時間制限があるということだ」


 三人が連携して、コボルトを先に処理した。それから光が指す方向に進んだ。


 正解ルートを通った。


 出口まで来た。15層を突破した。


────────────────────────────────────


 外でシアが三人と話していた。念話で後から教えてくれた。


『ケンジ、三人が言ってた。扉が開いた瞬間が気持ちよかった、って』


『そうか』


『光の仕掛けもわかったときが嬉しかった、って。普通の層と違って、「気づいた」って感覚がある、って』


 俺はその言葉を受け取った。


 「気づいた」という感覚。


 シアが言っていた通りだった。困らせるだけでなく、解決できる喜びがある。シアのアイデアが正確に機能した。


『お前の設計意図通りの反応だ』


「本当に?」とシアが念話を入れてきた。


『本当だ』


「嬉しい。また来るって言ってた?」


『言ってた。次は一回目で気づけなかった仕掛けを攻略したい、って』


「完璧だ」


────────────────────────────────────


 夜、DP収支を確認した。


 15層開設の費用4,096,000Pを消費したが、今日の来訪者収入で回復が始まっていた。


 DP残高:714,400P。


 シアが眠りにつく前に言った。


「ケンジ、15層の仕掛け、来た人が喜んでくれた」


『そうだ』


「設計するとき、来た人が「気づいた」って思う瞬間を想像しながら作った。その瞬間が本当にあったのが嬉しい」


『来た者のことを考えながら設計した、ということか』


「うん。前は「どう困らせるか」だけ考えてた。今は「どう喜ばせるか」も考えるようになった」


 俺はその変化を静かに受け取った。


 どう困らせるか、からどう喜ばせるか。


 シアが設計者として成長している。そしてそれは、俺が教えたことではない。シアが自分で辿り着いた。


『それが今回の層の一番の成果だ』


「来た人が喜んでくれたこと?」


『お前がそこまで考えられるようになったこと』


 シアが少し間を置いた。


「……ケンジに言われると、なんか本当にそう思える」


『本当にそうだ』


「ありがとう」


 それから静かになった。


 15層が今日完成した。16層以降の拡張コストはさらに上がる。だが今夜は、その先のことはまだ考えなくていい。


 今日、シアが設計した層で、来た者が喜んだ。


 それだけで十分だった。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:714,400P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) コボルト×44体(15層専属8体追加)

落とし穴×29か所(15層に3追加) 毒ガストラップ×4(15層に1追加) 火炎トラップ×5 魔法陣トラップ×1 宝箱×1

本日の収支:+226,200P(15層開設日) 15層拡張:-4,096,000P

現在のダンジョン規模:15層 ランク:C(正式認定済み)

確定事項:15層「謎解きの層」完成(鍵石探索・扉・光の反射の三区間構成)。初日に四人組が三人突破。「扉が開いた瞬間」「光の仕掛けに気づいた瞬間」が好評。シアが「困らせるだけでなく喜ばせることも考えるようになった」と語った。

課題:16層拡張まであと約7,381,600P(約一ヶ月半で到達見込み)。王国使節来訪への備え継続。ライオスの次回来訪(15層が対象となる)への備え。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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