第63話_蒼炎三たび
ライオスが来たのは、平日の昼前だった。
シアが採集から戻る前に、俺は気配を感知していた。六人。前回と同じ構成だ。装備が前回より重い。前衛のライオスが胸当てを追加している。魔法使いが防護具をつけている。弓使いが矢筒を二本持っている。
準備の量が前回と違う。
シアが戻ってきた。入口の前で気配に気づいた。
「来た」
「来た」
ライオスがシアを見た。
「また来た」
「お待ちしていました」とシアが言った。
「14層が完成したと聞いた。今日はそこまで行く」
「頑張ってください」
ライオスが少し笑った。「コアには言わなくていいのか、歓迎するとか」
「念話で聞いています」とシアが言った。「歓迎していると伝えてほしいと」
「了解した」ライオスが入口を向いた。「では始める」
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1層から3層まで、前回より速かった。
1層が五分。2層が六分。3層が十六分。
シアの植物は前回より密になっているが、蒼炎はコボルトの奇襲パターンを把握していた。今回は事前に死角を確認しながら進んだ。
4層から6層も同様に速かった。
6層の水場では、今日の弓使いが水中にいるゴブリンを前回より早く察知した。前回は足元を噛まれたが、今日は来る前に矢で対処した。水底のゴブリンを視認することを学んでいた。
今日の蒼炎は明らかに学習の蓄積がある。
7層の炎の層、8層のループ迷路。前回より速い突破が続いた。
俺は各層で防衛を試みながら、今日は深層を本番と位置づけて一層ごとの消耗を最小限に抑えた。来るなら最大限の力で来させる。
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9層の暗闇の層。
前回ここで魔法使いがリスポーンした。
今日は違った。
魔法使いが最初から炎の球を最大限に灯した。全周を照らす形で、影を最小限にした。前回の経験から「小さい光だと外れる」と判断したらしい。
コボルトが見えた。全員が見えた。
「今日は見える」と魔法使いが言った。
「だが炎の消耗品が増える」とライオスが答えた。「それでいい。見えない方が危険だ」
コボルトとの戦闘が始まった。今日は一人のリスポーンもなく9層を突破した。
俺はシアに念話を入れた。
『9層、突破された。リスポーンなし』
『前回より速い』
『学習している。今日は14層が本番だ』
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10層のガルムとの戦闘。
四段階強化のガルムだ。前回は35分持ちこたえた。
今日の蒼炎は前回よりガルムへの対処が洗練されていた。三方向同時攻撃の精度が上がっている。魔法使いの炎の当て方が変わっていた。足元ではなく、体表の「前回より薄い部分」を狙っていた。傷口を覚えている。
28分でガルムが倒れた。
前回より7分速かった。
シアが念話を入れた。
『ガルム、前回より速く倒された』
『そうだ。ただし蒼炎も消耗品を前回より多く使った。今日は14層で全力を使う前提だ』
『14層まで来る?』
『来る。間違いなく』
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蒼炎が11層に入ってきた。
風の層だ。
下降気流の区間に踏み込んだ瞬間、ライオスが「重い」と言った。
「12層に似た感じがあるが——」と弓使いが言いかけた。
「違う」とライオスが遮った。「ここの方が強い。11層は12層より気流が強い設定になっているかもしれない」
実際にその通りだった。11層の方が気流の強度を上げていた。12層は「初めて風の層を体験する」層として設計した。11層は「12層を経験してきた者向け」の強度にしていた。
11層の突破まで18分。消耗品が三つ使われた。
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12層と13層を突破した。
12層は20分。前回の記録に近い時間だが、消耗品の消費が少なかった。風への慣れが出ていた。
13層は13分。前回より大幅に速かった。鏡の錯覚への対処が洗練されていた。「映る位置がずれている可能性がある」という前提で進んでいた。
13層を突破した時点で、蒼炎の状態を確認した。
消耗品の残量が限られている。全員の動きが前回より疲れている。それでも崩れていない。
ライオスが14層の入口に立った。
「ここか」
「そうです」とシアが4層から念話越しに聞いていた。
『シア、今日の14層、最初は何のゾーンにする?』
『水から始める?』
『そうしよう。消耗した状態で水の抵抗から始まる』
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六人が14層に入ってきた。
水ゾーンだ。腰まで浸かる水深。
「……深い」と誰かが言った。
「6層より深い」とライオスが言った。「動きが大幅に制限される。慎重に進む」
水の中を進んだ。腰まで水があると、消耗した体への負担が大きい。前衛の動きが鈍くなった。
コボルトが水中から出てきた。今日は配置を変えてある。前回来訪者が対処した位置とは別の場所から出た。
一人が足を取られた。リスポーンした。
残り五人で炎ゾーンに入った。
水に濡れた体に炎が来た。蒸気が上がった。
「熱い」と誰かが言った。
「水の後に炎か」ライオスが言った。「組み合わせを知っていれば対処できる。知らなければ最悪だ」
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暗闇ゾーン。
今日の九層の経験が活きた。最大限の光を灯す作戦を取った。
コボルトの微光が見えた。
「光っている」と弓使いが言った。
「コボルトか?」
「コボルトに発光する何かがついている」
「方向がわかりにくい」
ゆらゆらと動く微光は、方向感覚を惑わせる。「どっちから来る」かわからない。
二人が同時にリスポーンした。
残り三人。
風ゾーン。三人が踏み込んだ。
下降気流が来た。今度は横風に変わった。切り替えのタイミングが前回と変えてある。
「タイミングが変わっている」と魔法使いが言った。「前回のリズムが使えない」
「感覚で対処するしかない」とライオスが答えた。
三人が風の中を進んだ。崩れない。三人になってからの蒼炎は、人数が少ない分お互いのカバーができている。
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鏡ゾーンに入ってきた。
三人が立ち止まった。
「……多い」とライオスが言った。「前の13層より鏡が多い」
「方向が全部変わっている感じがします」と魔法使いが言った。
「自分が何人もいる」と弓使いが言った。
三人が静かに進み始めた。
今日の俺は鏡の角度を前回来訪者が来たときから少し調整していた。完全に変えてはいない。七割は同じで、三割だけ変えた。
それが十分に効いた。
前回と似ているが違う。その微妙なズレが、「覚えていること」を無効化した。
ライオスが前を見た。出口が鏡に映っていた。
「出口か、それとも鏡に映った出口か」
魔法使いが分析した。「映り方の角度から……本物です」
「進む」
三人が出口に向かった。
出口手前の落とし穴が開いた。
弓使いが落ちた。リスポーンした。
残り二人。
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ライオスと魔法使いの二人が出口を通った。
14層を突破した。
二人が先に進もうとした。
だが俺は15層を作っていない。14層の先は空洞だ。
二人が止まった。
「……先がない」とライオスが言った。
「まだ拡張途中のようです」と魔法使いが言った。
ライオスが振り返った。
「コア、聞いているか」
シアが念話を確認した。
『聞いている』
「15層は今はないのか」
『今は14層が最深だ。15層の拡張は進めている』
シアがライオスに伝えた。
「コアが言っています。15層はまだないそうです。拡張を進めているとのことで」
「そうか」ライオスが少し笑った。「追いついてしまったか」
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二人が引き返してきた。
11層から外まで戻る間に、四人がリスポーンで戻ってきて、全員が入口前に集まった。
シアが出てきた。
「今日は14層まで行きましたね」
「ああ」ライオスが水筒を出した。疲れている顔だが、目が笑っていた。「14層は面白かった」
「どのゾーンが一番きつかったですか」
「暗闇と微光だ。初めて見た。コボルトが光っていた」
「わたしが考えた仕掛けです」とシアが言った。
ライオスが止まった。
「お前が考えたのか」
「はい。微光石をコボルトに付けて、暗闇の中で方向感覚を狂わせる仕掛けです」
「……マスターが設計したのか」ライオスが少し間を置いた。「6層の水中奇襲も、8層の迷路も、14層の総合設計も?」
「全部わたしが最初に考えて、ケンジが形にしています」
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ライオスが少し黙った。
それからシアを見た。
「一つ聞いていいか」
「どうぞ」
「お前はダンジョンのマスターになる前、どんな子だった」
シアが少し驚いた顔をした。
「……逃げてきた子でした」
「逃げてきた、か」
「ここに駆け込んで、ケンジに助けてもらって、それからここにいます」
ライオスが少し考えた。
「今のお前を見ると、そうは見えない」
「見えない?」
「ダンジョンの設計を主導して、来訪者を迎えて、コアの代わりに話して。逃げてきた子というより——ここを守っている子に見える」
シアがしばらく黙った。
それから俺に念話を入れた。
『ケンジ、聞いてた?』
『聞いていた』
『わたし、今どんな顔してるかな』
『わからない。でも、いい顔をしていると思う』
「何と言えばいいか」とシアがライオスに言った。「でも、ありがとうございます」
「礼を言われることでもない」ライオスが立ち上がった。「また来る。15層が完成したら」
「お待ちしています」
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ライオスたちが去った後、シアが洞穴に戻ってきた。
「ケンジ」
『何だ』
「ライオスさんが、逃げてきた子には見えないって言ってた」
『聞いていた』
「嬉しかった。でも、複雑な気持ちもあった」
『複雑?』
「逃げてきた子だったのは本当のことだから。それを否定されると、なんか——過去が消えるみたいで」
俺は少し考えた。
『逃げてきた子だったことと、今ここを守っている子であることは、矛盾しない。どちらも本当のことだ』
「そうだね」シアが少し間を置いた。「両方本当だね」
『ライオスが言いたかったのは、今のお前が変わった、ということだと思う。過去を消したかったわけではない』
「うん。そう解釈することにする」シアが少し笑った。「ケンジが言うと納得できる」
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夜、DP収支を確認した。
今日の来訪者はライオスたちを含めて、過去最高水準だった。
DP残高:811,400P。
15層の拡張コストは4,096,000P。まだ遠い。だが今のペースなら二週間ほどで届く。
シアが眠りにつく前に言った。
「ケンジ、15層のアイデア、少し思いついた」
『今日?』
「14層を見て、ライオスさんたちを見て。なんかふっと来た」
『聞かせてくれ』
「今まで「来た人を困らせる」仕掛けを作ってきた。でも15層は、「来た人が自分で解決できる」仕掛けにしたい。難しいけど、解決した瞬間の気持ちよさがある層」
俺はその方向性を頭に入れた。
『パズル的な要素か』
「そう。罠で消耗させるだけじゃなくて、考えれば解ける仕掛けがある。でも考えながら戦わないといけない」
『考えながら戦う、か。面白い』
「まだぼんやりだけど。また一緒に考えよう」
『また一緒に考えよう』
シアが静かになった。
今日、蒼炎が14層まで来た。14層を突破した。二人だけだったが、突破された。
15層が次の壁になる。
シアがそこに「解決できる喜びがある層」というアイデアを持ってきた。
その先が楽しみだった。
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DP残高:811,400P
配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・四段階強化) コボルト×36体(14層専属8体含む)
落とし穴×26か所 毒ガストラップ×3 火炎トラップ×5 魔法陣トラップ×1 宝箱×1
本日の収支:+189,600P(蒼炎来訪+通常来訪者)
現在のダンジョン規模:14層 ランク:C(正式認定済み)
確定事項:蒼炎(ライオス率いる六人)が三度目の来訪。14層を二人で突破(残りはリスポーン)。「15層が完成したらまた来る」と宣言。ライオスが「逃げてきた子には見えない」とシアに言った。シアが15層「解決できる喜びがある層」のアイデアを出した。
課題:15層拡張まであと約3,284,600P(二週間弱で到達見込み)。15層「パズル要素を持つ層」の設計開始。王国使節来訪への備え継続。
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次話は明日の17:00に投稿します。
1日1話投稿の予定になります。
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