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第56話_激流

 Cランク認定から三日が経って、外の様子が変わった。


 一日ではなかった。二日目から始まった変化が、三日目に本格的な流れになった。


 来訪者数が倍になった。


 Dランクのときの最高日が二十三組だった。今日は四十一組が来た。


 シアが採集から戻ってきて、入口の前で立ち止まった。


「ケンジ、入口の前、すごいことになってる」


『感知している。四十組を超えた』


「順番待ちが出てる。宿屋の前に人が並んでる。露店に人が集まってる」


『想定の三倍だ』


「三倍? 想定してたの?」


『Cランクになれば倍程度は増えると考えていた。三倍は想定より大きい』


 シアが少し考えた。


「月報の効果が続いてたんじゃないかな。Dランクのときの月報で来たいと思ってた人が、Cランク認定で背中を押された感じ」


『なるほど。そういうことかもしれない』


────────────────────────────────────


 エリナが走ってきた。珍しく息を切らしていた。


「シアさん、大変です。今日の来訪者数、過去最高を大幅に更新してます。動線が混雑していて、リスポーンで戻ってきた方と入ろうとしている方がぶつかっています」


「対応できますか ?」とシアが聞いた。


「今日は私とゴルムさんで外の整理をします。シアさんは——」エリナが少し考えた。「今日は入口の受付に専念してもらえますか。来訪者への声かけと、ガイドラインの説明。それだけでいい」


「わかりました」


 シアが俺に念話を入れた。


『ケンジ、中の対応はお願いできる?』


『任せてくれ。中は俺が見る』


『ありがとう』


────────────────────────────────────


 今日の来訪者は種類が変わっていた。


 Dランクのときは修行目的の若い冒険者が多かった。今日は違う。


 最初に来た組はCランクの四人パーティだ。装備が整っていて、動きに迷いがない。話を聞いていると「Cランクのダンジョンがどのくらいのものか確かめに来た」という。


 次に来た組は遠方から来た六人パーティだ。「王都から馬で三日かけて来た」と言った。月報を読んで、ずっと来たかったという。


 その次は一人で来た老冒険者だ。七十を超えているように見えた。「若い頃に戻って修行し直したい」と言った。


 来訪者の目的が多様になっていた。


────────────────────────────────────


 一層の戦闘が続いた。


 Cランクパーティが入ってくると、ゴブリンが倒される速度が違う。Dランクパーティより確実に速い。一層を六分で突破した。


 二層に入ってくる。強化オークと向き合う。ここで差が出た。Cランクのパーティはさすがに手強いが、二層の強化オークをDランクパーティが相手にするより早く対処した。


 三層、四層と進んでいく。


 俺は各層の防衛を確認しながら、今日が初めての「Cランクとしての本格的な運営」だと認識した。


 Dランクのときは修行者が中心だった。今日は攻略者も来ている。修行者は消耗品を使いながら繰り返す。攻略者は一度で深くまで行こうとする。対処の方法が違う。


『シア、今日の防衛で気になることがあれば念話してくれ。複数のパーティが同時に各層にいる状態だ』


『わかった。今何組中にいるの?』


『今この瞬間、11組が各層に分散している』


『11組同時!』


『今まで最多だ。問題はない。ただし把握に集中している』


────────────────────────────────────


 昼過ぎに一つ問題が起きた。


 7層の炎の層で、Dランクパーティが前進するのを止めようとしたCランクパーティの一人が「邪魔だ、どけ」と言った。


 シアが念話で知らせてきた。


『ケンジ、7層でちょっと揉めてる。聞こえる?』


『聞こえている。内容は把握している』


『どうしよう』


 俺は少し考えた。


 ダンジョン内でのトラブルはこれまでなかった。来訪者が増えれば当然発生する。今日が初めてだ。


『エリナに伝えてくれ。層内でのトラブルが発生した、と。外側からは対処できないが、記録として残す。リスポーン後に注意できる』


『わかった』


 その後、Dランクパーティは自分たちで引いた。Cランクパーティが進んでいった。物理的な衝突にはならなかった。


 だが今後、同様のことが増えるかもしれない。


────────────────────────────────────


 夕方、エリナがシアと話し合っていた。


「層内でのルール整備が必要です。来訪者が増えると、今日のようなことが繰り返されます」


「どうすればいいですか」


「まず、前進中のパーティを後方から追い越すことを禁止するルールを作る。それと——」エリナが考えた。「各層に一パーティずつしか入れない、というルールは現実的に難しいですが、層内に過密にならないような入場ペースの管理が必要かもしれません」


 シアが俺に確認した。


『ケンジ、層内のルールについてどう思う?』


『エリナの言う通りだ。今日のトラブルは序の口かもしれない。ただし、入場制限は難しい。来た者を止めることはしたくない』


「コアは入場制限はしたくないと言っています」とシアがエリナに伝えた。


「わかりました。では前進中パーティへの追い越し禁止と、層ごとの推奨人数上限を案内するという形で考えます」


「それでお願いします」


────────────────────────────────────


 今日の来訪者の中で、一人気になる人物がいた。


 一人で来た、四十代の男だ。装備はそれなりに整っているが、冒険者らしい気配ではない。学者か、あるいは調査員のような雰囲気だ。


 この男は戦闘をほとんどしなかった。1層に入ってきて、ゴブリンに攻撃されたときだけ最小限の反撃をした。それより、洞穴の壁を観察していた。通路の形を見ていた。トラップの構造を見ていた。


 記録もしていた。手元に薄い革の手帳があった。書き込んでいた。


 五層まで来たところで引き返した。


 シアが外で男と話したらしく、念話を入れてきた。


『ケンジ、さっきの男の人、王国の魔道具研究院から来たって言ってた』


 王国の魔道具研究院。


『研究者か』


『そう。ダンジョンコアの魔力特性を研究しているって。死なないダンジョンの仕組みに興味があるって言ってた』


『それをシアに話したか』


『うん。わたしは「コアに聞いてみます」って言っておいた』


────────────────────────────────────


 研究者からの接触。


 これは新しい種類の来訪者だ。戦うために来たわけでも、修行のために来たわけでもない。俺の仕組みを研究しようとしている。


 どう対応するか。


 情報を渡すことへの警戒は常にある。だが、研究者が来ることは避けられない。Cランクになって知名度が上がれば、さらに来るだろう。王国上層部からの関心が高まっている今、研究者の動きはその一環かもしれない。


『シア、その研究者に一つ伝えてくれ。「観察は歓迎する。ただしコアへの干渉は禁止だ」と』


『わかった。伝える』


 シアが男のところに戻っていった。


 しばらくして念話が届いた。


『伝えた。研究者さん、すごく喜んでた。また来ると言ってた』


『そうか』


『ケンジ、研究される、って変な感じがしない?』


『変な感じはある。ただし、知られることで守られることもある。王国の研究院が関わっていれば、違法な干渉がやりにくくなる』


『なるほど。じゃあ来てもいいね』


『来てもいい。見るだけなら』


────────────────────────────────────


 夜になって、外が落ち着いた。


 今日の来訪者は最終的に四十七組だった。


 DP収入を確認した。今日一日で過去最高の収入になった。


 DP残高:226,400P。


 一日で56,600P増えた。


 シアが戻ってきた。疲れた顔をしていた。


「今日、すごかった。ずっと入口にいた」


『お疲れ様だ』


「エリナさんもゴルムさんも疲れてたと思う。今日の人数は予想外だったって言ってた」


『俺も予想より多かった』


「これが毎日続くの?」


『続くかどうかはわからない。Cランク認定直後のピークかもしれない。落ち着く可能性もある』


「落ち着いてほしいような、このままでもいいような」シアが少し笑った。「毎日賑やかなのは嫌いじゃないけど、疲れた」


『今日は早く休め』


「うん。でもケンジ、今日の防衛、大丈夫だった?」


『大丈夫だった。11組同時は初めてだったが、対処できた』


「さすがだ」


『お前も今日よく動いた』


「ありがとう」シアが少し照れたように言った。「褒めてくれた」


『事実だ』


────────────────────────────────────


 シアが眠りについた後、俺は今日のことを整理した。


 Cランク認定直後の一日。来訪者四十七組。Cランクパーティの本格的な来訪。層内でのトラブル発生。王国の研究者。


 想定の外のことがいくつかあった。


 だがどれも対処できた。シアとエリナとゴルムが動いてくれた。俺は中の防衛を担った。役割の分担が機能した。


 来訪者が増えることは収入が増えることだ。12層の拡張が早まる。その先に20層がある。Bランクがある。Aランクがある。


 ただし——来訪者が増えることは、俺が対処しなければならないことが増えることでもある。


 ライオスがまた来ると言った。


 今日のような日常の中で、いつかまたライオスが来る。今度はCランクの迷宮として、前回より深い層を相手に戦ってくる。


 その日が来たとき、11層以降が機能しているかどうか。


 まだ11層しかない。急がなければならない。


────────────────────────────────────


 洞穴の外では今夜も灯りがある。


 宿屋が満室になったと、今日の夕方にエリナが言っていた。明日の朝から、また来訪者が来る。


 流れが速くなった。


 Dランクのときのペースとは違う。Cランクは別の速さで動く。その速さに俺たちが慣れるまで、少し時間がかかるかもしれない。


 だが慣れる。必ず慣れる。


 そして慣れた頃に、また次のフェーズが来る。


 それがここのやり方だ。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:226,400P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人) コボルト×14体

落とし穴×17か所 毒ガストラップ×3 火炎トラップ×3 魔法陣トラップ×1 宝箱×1

本日の収支:+56,600P(Cランク認定後最初の本格稼働日・過去最高)

現在のダンジョン規模:11層 ランク:C(正式認定済み)

今日の新規事項:Cランク認定後来訪者四十七組(過去最高)。層内でのトラブルが初めて発生(エリナがルール整備に着手)。王国魔道具研究院の研究者が来訪・観察を許可した。

課題:12層拡張の積み立て継続(コスト512,000P・残り約285,600P不足)。層内ルール整備。来訪者増加に伴う運営体制の強化。ライオス再来訪への備え。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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