表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
54/83

第54話_評判と噂

 蒼炎が来てから三日が経った。


 外の様子が変わっていた。


 シアが採集から戻るたびに、今日の外の雰囲気を報告してくれる。


「今日、宿屋の前で話し合ってる人たちがいた。聞いてたら、蒼炎の話をしてた」


『どんな内容だった』


「Bランクが10層まで行ったって。でも帰ってきたって。なんで帰ってきたんだろうって、みんな話してた」


『コアへの道が守られたからだ』


「そう言いたかったけど、言えなかった。なんか、こっそり聞いてる感じになってたから」シアが少し笑った。「でも聞いてよかった。ここのことを、外の人がそんなに話してるんだなって」


────────────────────────────────────


 翌日、エリナが来た。


 今日は記録日だったが、それ以外の話もあった。


「ライオスさんのパーティが街でこの話をしているみたいです。10層まで行って帰ってきた、コアは守られた、でも迷宮が変わっていた、というような話を」


「ライオスさんが話してるんですか」とシアが聞いた。


「はい。Bランクのパーティが話せば、それだけで信頼性が違います。噂ではなく、当事者の体験談になる。それが今、街道沿いの宿や酒場で話題になっています」


「いい話が広まってるんですか」


「いい話、というより——」エリナが少し考えた。「本物だという話が広まっています。Bランクが本気で挑んで帰ってきた。それはここが本物のDランクダンジョンである、ということの証明になる。来たいと思う人が増えている」


────────────────────────────────────


 エリナが帰った後、シアが念話を入れた。


『ケンジ、来たいと思う人が増えるって、いいことなんだよね』


『そうだ。収入が増える。Cランクへの拡張が早まる』


『でも、来る人が増えると大変にならない?』


『今の配置で一日に来訪者が増えても、層が分かれているから対処できる。ただし——』


『ただし?』


『もっと強い来訪者が増えれば、各層の消耗が増える。補充のコストも上がる。今の収支のバランスが変わるかもしれない』


『うーん』シアが考える気配があった。『でも来てほしい』


『俺も同じだ』


『強い人が来るとケンジも強くなるって言ってたし』


『言った』


────────────────────────────────────


 三日後、ゴルムが来た。


 今日は情報収集から戻ってきた様子だった。水筒を持って岩場に座ったが、いつもより表情が硬かった。


「シア、コアも聞いてくれ。少し大きな話がある」


 シアが頷いた。俺も感知を向けた。


「ライオスの話が広まって、それが冒険者の間だけでなく、貴族の間にも届き始めている」


「貴族」とシアが繰り返した。


「Bランクのパーティが挑んで帰ってきた。それはこのダンジョンがDランクを超える実力を持っている、という意味にもとれる。王国の上層部に届くのは時間の問題だと思っていたが——想定より早かった」


「もう届いているんですか」


「届いている可能性が高い」ゴルムが水筒を置いた。「王都の冒険者ギルド支部から、本部に問い合わせが入ったという話を聞いた。このダンジョンの評価を正式に見直すべきか、という問い合わせだ」


────────────────────────────────────


「評価を見直す、というのは」とシアが聞いた。


「Dランクのままでいいのか、Cランクへの格上げが近いのではないか、という意味だ」ゴルムが続けた。「王国上層部からすれば、こんなに話題になっているダンジョンを放置しておくのは落ち着かない。調べにくるか、関係を持とうとするかのどちらかになる」


「また貴族が来るかもしれない」


「可能性はある。ただし今回は、ラングフォルト家のような非合法な動きではないと思う。公式に来るはずだ」


 シアが俺に念話を入れた。


『ケンジ、どう思う?』


 俺は少し考えた。


 王国上層部からの公式な接触。前回の貴族の来訪は非合法な干渉だった。今回は違う可能性が高い。公式に来るなら、ギルドが間に入れる。エリナとゴルムが動ける。


『備えることができる状況なら、問題ない。ゴルムとエリナに情報を集めてもらいながら、対応を考える』


 シアがゴルムに伝えた。


「コアが言っています。備えながら情報を集めたい、と」


「それでいい」とゴルムが頷いた。「俺も引き続き動く」


────────────────────────────────────


 その夜、シアが一人で考えている気配があった。


 水場のそばで、棚の方を見ていた。花と石と認定書が並んでいる棚だ。


「ケンジ」


『何だ』


「王国の上層部が来たとして、わたしどうすればいい?」


『今まで通りだ。エリナとゴルムを通じて対応する。一人で抱えなくていい』


「でも、最終的に話すのはわたしだよね。コアの言葉を伝えるのは」


『そうだ』


「緊張する」


『当然だ。ただ——前に辺境伯家の護衛隊長が来たとき、お前はうまく対応した。あれより難しくなるかもしれないが、あれができたなら次もできる』


「ヴァルトさんのときか」シアが少し考えた。「あのときはケンジが判断を全部してくれたから」


『今度もする』


「じゃあ大丈夫かな」


『大丈夫だ』


 シアが少し笑った。


「ケンジが大丈夫って言うと、本当に大丈夫な気がする」


────────────────────────────────────


 翌日、エリナが来た。


 今日は記録日ではなかったが、ゴルムと一緒だった。


「コアに確認したいことがあります」とエリナが言った。


「どうぞ」とシアが答えた。


「王国ギルド本部からの問い合わせについて、支部長が私に話してきました。このダンジョンのCランク格上げを正式に検討したい、という意向があると」


「Cランク格上げ」


「今はDランクですが、蒼炎のBランクパーティが10層まで到達したという事実が、ランク評価の基準を超えている可能性があります。ギルドとしては、実態に合ったランクへの再評価を検討している」


 シアが念話を入れた。


『ケンジ、CランクはDPの節目だよね。今の配置でCランクになっていいの?』


 俺はプロット上の条件を確認した。Cランクダンジョンの条件は10〜20層。今は10層だ。本来なら20層まで拡張してからCランクになるはずだった。


『まだ10層だ。本来の条件では足りない。ただし、ギルドの評価が実態を優先するなら——来訪者の実績が条件を満たしていると判断される可能性はある』


「コアは今何層ですか、という質問に先に答えると」とエリナが続けた。「10層でも、そこへの到達難易度がCランク相当であれば、ランクはCランクとして認定できる、というのがギルドの解釈です」


────────────────────────────────────


「つまり」とシアが確認した。「10層のままでもCランクになれる可能性がある?」


「あります。ただし——」エリナが少し間を置いた。「コアとして、それを望みますか。今の段階でCランクになれば、来訪者の種類がさらに変わります。CランクやBランクが修行目的で来る。それに見合った防衛力が必要になる」


 シアが俺に念話を入れた。


『ケンジ、どうする?』


 俺は考えた。


 Cランクになることのメリット。来訪者の質が上がる。DP収入が増える。知名度が上がる。


 デメリット。強い来訪者に対して、今の10層では限界が近い。来るたびに消耗品の補充コストが増える。ガルムが繰り返し倒される可能性がある。


 だが——ライオスがまた来ると言った。


 ライオスが来るたびに、俺たちは強くなる。来訪者が強くなるほど、俺も強くなる。その循環の中でしか、次のフェーズには進めない。


『受け入れる。Cランク認定を』


「コアが受け入れると言っています」とシアがエリナに伝えた。


────────────────────────────────────


 エリナが頷いた。


「わかりました。ギルドとして正式な認定手続きを進めます。ただし——一つだけお願いがあります」


「何ですか」


「認定前に、もう一度ギルドの調査員が入りたい。今回はCランク認定のための正式な調査で、ハロルドさんではなく、より上位の担当者が来ます」


「いつ頃ですか」


「来週を予定しています」


「わかりました」シアが俺に確認した。『ケンジ、来週の調査、どうする?』


『受け入れる。ただし10層以降は非公開にする。調査員が入れるのは8層まで』


 シアがエリナに伝えた。


「コアは受け入れますが、9層と10層は非公開にしたいそうです」


「それは構いません。これまでの調査と同じ基準で」エリナが書き留めた。「ありがとうございます」


────────────────────────────────────


 エリナとゴルムが帰った後、シアが奥の空間で少し静かにしていた。


 いつもと違う静かさだった。


「ケンジ」


『何だ』


「Cランクになったら、ここはどうなる?」


『来訪者の種類が変わる。CランクやBランクが来るようになる。修行目的だけでなく、本格的な攻略目的でも来る』


「もっと強い人たちが来るんだね」


『そうだ。それに合わせて、こちらも強くなる必要がある。11層以降の拡張も急ぐ必要が出てくる』


「急ぐって、DPが足りる?」


『今の残高と今後の収入を計算すれば、急ピッチで進められる。ただし——』


『ただし?』


『11層から20層まで拡張するためのコストは、今の残高では足りない。Cランクになってからの収入増加を使って積み上げていく形になる』


「じゃあ、Cランクになってからが本番だね」


『そうだ』


────────────────────────────────────


 シアが少し笑った。


「なんか、ずっとそうだよね。EランクからDランクになって、これからが本番って言って。DランクからCランクになって、これからが本番って言って」


『そうだな』


「終わりが見えない」


『終わりは遠い。ただ——』


『ただし?』


『近づいている。転生した日より、昨日より、今日の方が、確かに近づいている』


 シアがしばらく黙った。


「それって、1,000,000Pが近づいてるってこと?」


『それも含めて。全部が少しずつ近づいている』


「じゃあいいか」シアが笑った。「近づいてるなら、いつか届く」


『そうだ』


────────────────────────────────────


 夜になった。


 DP収支を確認した。


 今日の来訪者収入。蒼炎の撃退後から三日が経ち、来訪者数が一段増えていた。一日平均で22,000P前後の収入になっていた。


 DP残高:391,200P。


 400,000Pが見えてきた。


 11層の拡張コストは256,000Pだ。今の残高では届かないが、来月中には届く。


 シアが眠りにつく前に言った。


「ケンジ、来週の調査員、どんな人かな」


『わからない。ただハロルドより上位の担当者だというのだから、ハロルドとは違う種類の人かもしれない』


「ハロルドさんみたいな人だといいな」


『同じ人間はいない。ただ——ギルドの調査員だ。目的は評価することだ。ここを壊しにくるわけではない』


「そうだね」シアが少し安心したような声で言った。「エリナさんもいるし、ゴルムさんもいる」


『そうだ』


「じゃあ大丈夫か」


『大丈夫だ』


 シアが笑った。


「ケンジが大丈夫って言うと安心する、また言ってしまった」


『毎回言っているな』


「だって本当に安心するんだもん」


 それから静かになった。鼓動が落ち着いていく。


 洞穴の外では宿屋の灯りが揺れていた。来週、ギルドの調査員が来る。Cランク認定が近い。11層への拡張が次のステップだ。


 王国上層部にも、このダンジョンの話が届いた。


 それが何を意味するか、まだ全部はわからない。


 ただ確かなことがある。


 ここはもう、誰かが知っている場所になった。そしてこれからも、もっと多くの人が知る場所になっていく。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:391,200P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人) コボルト×14体

落とし穴×17か所 毒ガストラップ×3 火炎トラップ×3 魔法陣トラップ×1 宝箱×1

本日の収支:+22,400P(来訪者増加傾向)

現在のダンジョン規模:10層 ランク:D(Cランク認定手続き開始)

確定事項:ギルドがCランク格上げの検討を開始。来週、ギルド上位担当者が正式調査に来訪予定。コアがCランク認定を受け入れた。王国上層部にも話が届いている。

課題:来週の正式調査への準備。11層拡張の積み立て継続(11層コスト256,000P・残り約135,000P不足)。Cランク認定後の防衛強化計画。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ