第52話_Cランクへの戦い_中編
3層の突破まで、二十二分かかった。
これまでの来訪者で最長だ。Cランクのパーティが3層を突破したのは十分だった。蒼炎は二倍以上の時間がかかったことになる。
ただし突破されたのは事実だ。
シアが念話を入れてきた。
『ケンジ、3層が突破された。植物、効いた?』
『効いた。コボルトの奇襲が二回通った。ライオスが噛まれた』
『でも突破されちゃった』
『最初から止め切るつもりはなかった。消耗させることが目的だ。二十二分でそれだけ削れれば十分だ』
『そっか』シアが少し間を置いた。『4層にはわたしも何かした方がいい?』
『今日は待機していてくれ。シアが権能を使える状況を温存しておきたい』
『わかった』
────────────────────────────────────
4層に六人が入ってきた。
4層はコボルト集中配置の層だ。コボルト六体が暗がりに潜んでいる。
ライオスが4層に踏み込んだ瞬間、動きが変わった。大剣を背中に戻した。代わりに腰から短い刃物を抜いた。狭い空間向けの武装だ。戦場に応じて武器を変える、という判断の速さだ。
コボルトが出た。
ライオスが反応した。今度は前ではなく後ろに下がった。コボルトが飛びついた先に誰もいなかった。後衛の弓使いが矢を放った。コボルトが落ちた。
右側から別のコボルトが来た。ライオスが短刃で弾いた。それを合図に、後衛全員が展開した。
四方からの同時対処。六体のコボルトが五分で処理された。
『速い』
俺はその速さを確認しながら、次の手を考えた。
────────────────────────────────────
5層の強化オークが前に出た。
ライオスが立ち止まった。
「また強化個体か」
「2層のより大きい」と後衛の一人が言った。
「だから面白い」ライオスが大剣を抜き直した。「散れ。三方向から」
六人が展開した。前衛が三方向に分かれた後衛をカバーしながら、強化オークを囲んだ。
この戦い方を見て、俺は何かを思い出した。
最初に来たCランクのパーティ、女の冒険者が率いた五人組。あの五人は一つずつ対処していた。今の六人は全員が同時に動いている。役割が完全に分担されている。
強化オークとの戦闘が始まった。
ライオスが正面から圧力をかけた。後衛の魔法使いが両脇から炎を入れた。短剣使いが低い位置から足首を狙った。弓使いが後方から首筋に矢を当て続けた。
十五分。強化オークが倒れた。
消耗品が使われた。回復薬が二本。それでも六人の動きは安定している。
────────────────────────────────────
6層に入ってきた。
水の層だ。
ライオスが水面を踏んだ。
「水か」
「膝まである」と短剣使いが確認した。
「知っている。入る前に聞いた」ライオスが続けた。「水底に何かいる可能性がある。足元から目を離すな」
事前情報がある。誰かから聞いてきた。今日の来訪前に、ここを調査した者がいる。
俺は水底のゴブリン四体の位置を少し動かした。前回と違う配置だ。
六人が慎重に進んだ。水の中に足を入れながら、水面と水底を同時に意識している。
ゴブリンが動いた。俺が新しい位置から出させた。
一体が弓使いの足首に噛みついた。弓使いが体勢を崩した。
「右後方」とライオスが即座に叫んだ。
短剣使いが振り返った。もう一体が水面から飛び出した。短剣で受けた。
六層の戦闘は十五分続いた。一人が消耗品を三つ使った。ゴブリン四体が倒された。
突破された。だが今日最大の消耗品消費が6層で起きた。
────────────────────────────────────
7層に入ってきた。
炎の層だ。
「トラップ床がある。前回の情報では七枚だったが、今回は変更されている可能性がある」と魔法使いが言った。
また事前情報だ。前回誰かが来て記録したものを持っている。
俺は今日、トラップ床の一部の位置を変えていた。七枚から九枚に増やした。元々の七枚の位置は半分を変えた。
「全員、一歩一歩確認しながら進む」とライオスが言った。
六人が慎重に進んだ。床を叩いて確認しながら進む作業だ。時間がかかる。
魔法使いが「この床、反応が違う」と言ったところで、踏んだ瞬間に炎が噴き出た。
魔法使いが後ろに跳んだ。天井からも炎が来た。両方からの炎に一瞬包まれた。
リスポーンの判断がされた——かと思った瞬間、魔法使いが魔法で炎を相殺した。自分の炎で周囲の炎を打ち消した。
「やるな」とライオスが言った。「でも消耗品が痛かっただろう」
「三つ使いました」と魔法使いが答えた。
────────────────────────────────────
8層に入ってきた。
ループ迷路だ。
六人が最初の分岐で立ち止まった。
魔法使いがノートを取り出した。
「マッピングします」
「頼む」とライオスが言った。
六人が慎重に進んだ。分岐のたびにノートに書き込む。壁の形を確認する。天井の高さの変化を記録する。
だが今日の8層は前回と少し変えてある。シアが壁面の凹凸のパターンを変えた。同じルートに見えて、細部が違う。
十分後、魔法使いが「ここ、通った?」と聞いた。
「通ってない」と短剣使いが答えた。
「でもこの傷、記録に似ているものがある。似ているが違う」
ライオスが立ち止まった。
「ループしているか」
「可能性があります」
「迷路を作り替えてきた、ということか」ライオスが洞穴の天井を見た。「頭を使うダンジョンだ」
────────────────────────────────────
8層での混乱は十八分続いた。
コボルトが七体出た。ループの錯覚の中で、方向感覚が乱れた状態での戦闘だ。短剣使いの一人が足をもつれさせて倒れた。コボルトが二体飛びかかった。
リスポーンした。
装備なし、魔力なし。入口に戻った。
残り五人。
五人の判断が変わった。マッピングをやめた。ライオスが判断した。
「感覚で進む。ここは頭より体で覚える場所だ」
そこからの動きが変わった。マッピングを捨てて、ライオスの直感で分岐を選んでいく。
十分後、出口を見つけた。
8層突破まで二十八分。今日最長の戦闘だった。
────────────────────────────────────
9層に入ってきた。
暗闇の層だ。
コアの光を完全に絞った。9層だけが完全な暗黒になる。
「……見えない」と後衛の誰かが言った。
「わかっていた」とライオスが言った。「炎の魔法で照らせるか」
「できますが、消耗します」と魔法使いが答えた。
「使え。深さを優先する」
魔法使いが炎の球を灯した。9層に光が入った。
そこに待っていたのは、コボルト八体だった。
暗闇の層では、コボルトが元の位置に潜んでいる。炎が灯った瞬間、全員が見えた。
「多い」と誰かが言った。
「でも見えている」とライオスが言った。「数はこちらが上だ。叩く」
戦闘が始まった。
だが今日の9層は前と違った。
俺は炎のトラップを9層にも追加していた。コボルトが炎の光で視認されても、その光の中にトラップが仕込まれている。見えることを前提に、見えているものの中に罠を置く設計だ。
弓使いが一歩踏み出した。
床から炎が噴き上がった。
今度はリスポーンが発動した。
────────────────────────────────────
残り四人になった。
ライオスが片手を上げた。全員が止まった。
「……予想外だ」ライオスが静かに言った。「光がある前提の罠を仕掛けてきた」
「学習している」と魔法使いが言った。「前回の情報を分析して対策を組んできた」
「このダンジョンは毎回変わる」
「そういうことです」
ライオスが少し笑った。
「余計に面白い」
四人が9層を進んだ。今度は足元を確認しながら、慎重に。コボルトとの戦闘と床の確認を並行しながら進む、複雑な状況だ。
9層の突破まで三十二分かかった。
四人が10層の入口に立った。
────────────────────────────────────
10層に入ってきた。
ここがコアへの最後の層だ。
通路の奥に、ガルムが立っていた。
三段階強化済みの強化オーク。これまでより体格が大きい。体表の硬化が増した。目が赤く光っている。
ライオスが立ち止まった。
しばらく、ガルムを見た。
「……でかいな」
隣の魔法使いが「強化が増している。前の情報と違う」と言った。
「準備してきた、ということだ」ライオスが大剣を両手で持ち直した。「コア、聞いているか」
シアが念話を確認した。
『聞いている、と』
「聞いているそうです」とシアが伝えた。
「今日は深くまで来た」ライオスがガルムを見たまま言った。「この先を見たい。もう少しだけ、付き合ってくれ」
それからライオスが前に出た。
ガルムとの戦闘が始まった。
────────────────────────────────────
*
DP残高:301,200P(戦闘継続中・収支未確定)
配備戦力:ゴブリン×8体(強化2含む・各層で消耗) 強化オーク×1体(5層・消耗) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人・戦闘中) コボルト×6体(8・9層で消耗)
落とし穴×17か所 毒ガストラップ×3 火炎トラップ×3(9層にも追加) 魔法陣トラップ×1 宝箱×1
本日の進捗:蒼炎・1〜9層突破(消耗品大量消費・メンバー2人リスポーン)。現在10層ガルムと交戦中。
各層突破時間:1層7分・2層8分・3層22分・4層5分・5層15分・6層15分・7層12分・8層28分・9層32分
課題:ガルムがBランク4人を相手にどこまで持ちこたえられるか。コアへの道を死守。
────────────────────────────────────
続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。
次話は明日の17:00に投稿します。
1日1話投稿の予定になります。
よろしくお願いいたします。




