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第48話_悪意ある侵入者_後編

 翌朝、ゴルムとエリナが同時に来た。


 入口前の岩場に三人が座った。シアとゴルムとエリナだ。俺は念話でシアを通じて聞いている。


「昨日の三人について、少し調べた」とゴルムが言った。「街で聞き込んだ。あの装備の特徴と動き方から、どうも魔道具専門の解体屋だという話が出た」


「解体屋」とシアが繰り返した。


「ダンジョンコアを壊して、中に蓄積された魔力を取り出す専門家だ。一般には表向き非合法だが、裏ではそういう仕事をする連中がいる」


 エリナが書き留めていた。


「ギルドに確認します。コア解体を依頼できる組織がどこにあるか。依頼したのが昨日の偵察の男となれば、そこから依頼主が辿れるかもしれない」


「時間はかかるが、それが一番確実だ」とゴルムが頷いた。それからシアを見た。「マスター殿、コアは今どう思っている」


 シアが俺に確認した。


『また来る可能性が高い。昨日は術式を壁に当てられなかった。今度は別の方法か、より多くの人数で来るかもしれない』


 シアが伝えた。


「やはりそうか」ゴルムが腕を組んだ。「俺はしばらく、ここに常駐する。何かあったとき、外から助けられることがあるかもしれない」


────────────────────────────────────


 三人の話し合いは一時間続いた。


 決まったことがいくつかある。


 まずエリナがギルドを通じて依頼主の特定を試みる。ゴルムが入口付近に毎日顔を出す。シアは一人での外出を当面は控える。コア干渉術式を持つ者の入場を拒否する手段を考える。


 最後の一点が難しかった。


 俺は来訪者の装備や持ち物を感知できる。ただし「何を持っているか」の詳細まではわからない。術式が刻まれた小石のような物は、感知上では「石を持っている」としかわからない。


『シア、一つ頼みたいことがある』


「何?」


『来訪者が入口を通るとき、荷物をゴルムかエリナに確認してもらう仕組みを作れないか。目視で術式の刻まれた道具を確認する』


 シアがゴルムに伝えた。


「入口での持ち物確認か」ゴルムが少し考えた。「修行目的の来訪者には不便をかけるが——事情を説明すれば理解してくれる者が多いだろう。俺が入口に立てば、それだけで抑止になる」


「ゴルムさんが立ってくれたら、確かに怖い」とシアが言った。


「そういう使い方をしてくれ」ゴルムが苦笑した。


────────────────────────────────────


 翌々日、彼らが来た。


 今度は五人だ。昨日の三人のうち二人が戻り、新たに三人が加わっていた。


 動き方が変わっていた。前回は3人でバラバラに動いた。今日は5人が隊列を組んでいる。前衛2人、後衛3人。後衛のうち一人が手元で何かを操作している。


 術式の使い手だ。


 ゴルムが入口に立っていた。


「止まれ」


 ゴルムが声をかけた。五人が足を止めた。


「持ち物の確認をする。最近、不正な道具を持ち込もうとした者がいた。ギルドの指示で確認を行っている」


 五人が顔を見合わせた。後衛の一人が「我々は正式な来訪者だ」と言った。


「ならば確認に問題はないな」とゴルムが言った。


────────────────────────────────────


 五人のうち三人がゴルムの確認を受け入れた。二人が拒否した。


 拒否した二人が入口に向かって走ろうとした。


 ゴルムが動いた。


 大斧を抜かずに、体で二人の前に立ちふさがった。ドワーフの体格は小柄に見えるが横幅がある。二人が横を通り抜けようとしたが、通れなかった。


 残り三人が動いた。ゴルムの背後から入口に入ろうとした。


 俺はその瞬間に一層の入口を封鎖した。


 落とし穴を全部起動した。入口すぐの通路に三か所が開いた。三人全員が落ちた。


 外では、ゴルムが二人と向き合っていた。


「今日はここまでだ」とゴルムが静かに言った。「帰れ」


 二人が後退した。三人が穴から助け出されて、全員が外に出た。


────────────────────────────────────


 五人が去った後、ゴルムが入口の前に座った。


「なかなかやる連中だ」とゴルムが言った。独り言のようだが、俺に向けた言葉でもあると思って聞いた。「準備をしてきた。だが今日は入れなかった。次はさらに準備をして来るだろう」


 シアが念話を入れてきた。


『ケンジ、ゴルムさんが言ってることはわかる?』


『わかる。次が問題だ』


『どうすればいい?』


 俺は少し考えた。


 外側の対策はゴルムとエリナに任せる。俺にできることは内側の強化だ。五人が入ってきた場合、今の配置で止められるか。昨日の持ち物確認が機能したが、彼らは次回には別の方法を使うかもしれない。


『もう一度配置を見直す。それと——シア、お前の権能が必要になるかもしれない』


『わたしの?』


『植物で視線を遮る。水で動きを制限する。お前が6層で覚えたことを、他の層でも使えるか試してほしい』


────────────────────────────────────


 それから二日間、俺とシアは各層の強化に取り組んだ。


 シアが3層の植物を増やした。通路の視線を切る位置に、より密に育てた。コボルトが潜めるほど茂らせた。


 1層に追加の落とし穴を二か所設けた。40P消費。


 8層のループ迷路の壁面の変化をさらに細かくした。一度来た者が同じルートを辿りにくくする調整だ。DP消費なし。


 シアが念話で確認してきた。


『3層、どう?』


『いい。コボルトが見えない』


『やった。6層の経験が使えた』


 俺はシアの仕事を確認しながら、別のことも考えていた。


 コア干渉術式。昨日は入口で防いだが、もし複数人が同時に別々の入口——そんなものはないが——から来たら。あるいは術式を持ち込む方法が変わったら。


 対策は常に追いかけになる。それでも追いかけ続けるしかない。


────────────────────────────────────


 三日後の朝、彼らが来た。


 今度は七人だった。


 そしてゴルムは今日、入口にいなかった。ゴルムから昨夜、メッセージが届いていた。「今日は一日情報収集に出る。入口は任せる」という内容だった。


 七人が来た。


 全員がギルドの証章を持っていた。来訪者として正式に登録されている。持ち物確認を求めるには理由が必要で、今日ゴルムがいない。エリナは今日来訪日ではない。


 俺の判断だけで動く状況になった。


 七人が入口を通ってきた。


 動き方を見た。七人全員が前を向いて進んでいる。会話がない。入口を入った直後に三方向に散開した。


 これは修行者の動き方ではない。


────────────────────────────────────


 1層で全力防衛を始めた。


 ゴブリンを全員前に出した。落とし穴を全部起動した。毒ガストラップを早めに使った。


 七人は連携が取れていた。前衛が盾になり、後衛が速攻で突破を試みる。毒ガストラップを布で口を塞いで通り抜けた。落とし穴は三人が落ちたが、残り四人が止まらずに進んだ。


 1層が突破された。十二分。


 2層に入ってきた。


 後衛の一人が動いた。今度は石ではない。紙だ。薄い紙に術式が書かれていた。壁に貼ろうとした。


 俺は即座に判断した。


 その紙を物理的に防ぐ方法は今の俺にはない。


 だが——その人間を今すぐ戦闘不能にすることはできる。


 2層の強化オークに直接指示を送った。通常は通路で待つ強化オークを、後衛に向けて動かした。


 強化オークが後衛に突進した。紙を持った人間が吹き飛んだ。紙が壁に届かなかった。


────────────────────────────────────


 2層の戦闘が始まった。


 七人対、強化オーク一体とゴブリン残存四体。数は向こうが上だ。だが今日の俺には退く気がなかった。


 魔法陣トラップを起動した。500P消費した。


 七人のうち三人が閃光と衝撃波を受けた。二人がリスポーンした。一人が壁に叩きつけられて動かなくなった。


 残り四人。


 強化オークが前衛二人と組み合っていた。ゴブリンが後衛二人を引き付けた。


 後衛の一人が再び紙を取り出した。


 俺は落とし穴を真下で起動した。その人間が落ちた。


 前衛の一人が強化オークを仕留めた。だがそれで残り三人になった。


 三人が進もうとした。


 俺は3層への入口を封鎖する形で、追加の落とし穴を起動した。DP消費20P。三人が進めなくなった。


 シアの念話が届いた。


『ケンジ、大丈夫?』


『シアは下がっていろ。絶対に出てくるな』


『わかった。でも』


『下がっていろ』


────────────────────────────────────


 残り三人が引き返し始めた。


 1層を通って入口に向かった。


 俺はゴブリンを追わせた。追いながら、全ての落とし穴を後方から起動した。退路に使った落とし穴だ。シアのアイデアだった。退路にトラップがある。撤退する者が引っかかる。


 三人のうち一人が落ちた。


 残り二人が走った。入口まで来た。外に出た。


 落ちた一人が穴の中でしばらく動いた後、リスポーンした。装備なし、魔力なし。入口に戻された。


 七人全員が外に出た。


────────────────────────────────────


 洞穴が静かになった。


 俺は2層の状態を確認した。強化オークが倒れている。ゴブリンが複数体、機能停止している。魔法陣トラップが一基消費された。


 DP残高を計算した。


 今日の収入より消費の方が多い日だった。


 それでも構わない。


 シアが3層から戻ってきた。


「終わった?」


『終わった。全員出た』


「コア、無事?」


『無事だ。術式は壁に届かなかった』


 シアが奥の空間まで来て、岩壁に手を当てた。コアのある方向だ。毎回そうする。俺が覚えている。


「よかった」


 それだけだった。


 俺も何も言わなかった。


────────────────────────────────────


 夕方、ゴルムが戻ってきた。


 シアから今日の話を聞いて、顔が険しくなった。


「ギルドの証章を持った七人か」


「そうです」


「それは厄介だ。証章を持つ来訪者を入口で止める根拠が薄い」ゴルムが立った。「エリナに今すぐ連絡する。ギルドとして動いてもらわないといけない。証章の発行記録から、今日の七人を特定できるかもしれない」


「お願いします」


 ゴルムが行こうとして、立ち止まった。シアの方を向いた。


「コアは怒っているか」


 シアが俺に確認した。


『怒っている。ただし——判断は冷静だ』


 シアがゴルムに伝えた。


「怒っているけど、判断は冷静だって言ってます」


 ゴルムが少しだけ表情を緩めた。


「それがコアらしい」と言って、歩き出した。


────────────────────────────────────


 夜になった。


 エリナからゴルム経由で情報が届いた。今日の七人、ギルドの証章は全員が正規のものだった。ただし、全員が同じ日に同じ窓口で証章を発行していた。七人まとめて新規登録した記録がある。


 つまり——コアを狙うために、急遽冒険者登録した者たちだ。


 エリナが動いている。ギルドとして調査を開始した。証章の発行記録から依頼主を辿る。時間がかかるが、確実に前進している。


 俺は今夜の防衛配置を確認した。


 強化オークを再生成する必要がある。ゴブリンを補充する必要がある。魔法陣トラップも一基消費した。


 DP残高:265,800P。


 これだけあれば動ける。


 シアが眠りにつく前に言った。


「ケンジ、明日も来ると思う?」


『わからない。ただし今日の損害を見れば、容易ではないとわかったはずだ。すぐには来ない可能性もある』


「次に来たとき、もっと強くなって来たら」


『そのときまでに、俺たちも強くなる』


「そうだね」シアが少し間を置いた。「ケンジ、今日ありがとう。また守ってくれて」


 俺は返事をしなかった。


 礼を言われる前提が正しくない気がした。守るのは当たり前のことだ。礼を言われるようなことではない。


 だがシアが「ありがとう」と言う。


 それはシアが選んだ言葉だから、受け取ればいい。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:265,800P

配備戦力:ゴブリン×7体(強化2含む・補充待ち) 強化オーク×0体(2層関所・再生成待ち) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人) コボルト×14体

落とし穴×17か所(2か所追加) 毒ガストラップ×3 火炎トラップ×3 魔法陣トラップ×0(1基消費・補充待ち) 宝箱×1

本日の収支:+7,500P 魔法陣トラップ起動:-500P 純増:+7,000P

現在のダンジョン規模:10層 ランク:D(正式認定済み)

確定事項:コア干渉術式を持つ7人組(ギルド証章所持)を撃退。術式は壁に届かせなかった。ゴルム・エリナが調査継続中。証章が同日同窓口発行という手がかりあり。

課題:戦力の緊急再建(強化オーク再生成200P・ゴブリン補充・魔法陣トラップ補充500P)。依頼主の特定。シアの安全確保の最優先継続。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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