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第37話_正式認定

 ゴルムが去ってから、三日でまた来訪者の数が増えた。


 ゴルムが街で話したのだろう。「信用できる場所」という言葉は、冒険者の間では重い意味を持つ。死なないダンジョンの噂は以前からあったが、今度は「Dランクのベテランが本物だと言った」という情報がついた。


 一日に来る組数が十を超えた。


 入口付近の露店も増えた。回復薬を売る者、簡単な食事を売る者、装備の応急修理をする者。リスポーンで装備を失った冒険者が多いせいで、中古装備を売る露天が二つ立った。


 シアが採集から戻るたびに、外の様子を報告してきた。


「また増えてる。今日は露店の人が三人になった」


『見ていた』


「なんか、村みたいになってきた」


『まだ村ではない。ただ、そうなる方向には向かっている』


 シアが少し考えた。「ケンジ、これって想定してた?」


『大枠では。ただ速さは想定より早い』


「ゴルムさんの話が広まるの、早かったんだね」


────────────────────────────────────


 五日後、ゴルムが戻ってきた。


 今度は一人だった。ケイもファナもいない。腰に大斧を差した、どこから見てもドワーフ冒険者という格好で、手に封筒を持っていた。


 シアが入口から出て迎えた。


「ゴルムさん、また来てくださったんですね」


「ああ」ゴルムが封筒を差し出した。「これを届けに来た」


 シアが封筒を受け取った。ギルドの封蝋がある。


「開けていいですか」


「届けに来たんだ、開けてくれ」


 シアが封蝋を割った。中から一枚の紙を取り出した。


 読んだ。


 俺はシアが読んでいる気配を感知しながら待った。


『ケンジ』シアが念話を入れてきた。声ではなく念話だった。『認定書だ』


『読んでいる』


『Dランクダンジョン、正式認定、鍛錬の迷宮、って書いてある』


『そうか』


 短い沈黙があった。


『……来たね』


『来た』


────────────────────────────────────


 シアがゴルムに頭を下げた。


「届けていただいてありがとうございます」


「ギルドに頼まれた。俺が発見者として報告したから、届けを任された」とゴルムが言った。それからシアを見た。「中のコアにも伝えてくれるか。おめでとうと」


 シアが少し笑った。「伝えます」


『聞こえた』と俺はシアに念話を入れた。


『ゴルムさんに伝える?』


『ありがとう、と伝えてくれ』


「ありがとうございますと言っています」とシアがゴルムに伝えた。


 ゴルムが少し表情を動かした。照れているのか、驚いているのか。ドワーフの表情は人間より読みにくい。


「……話が通じるんだな、本当に」


「本当にです」


「ギルドには「意志があるコアで話し合いができる」と報告したが、半信半疑だった者もいた。だが認定は通った。おかしなダンジョンだが、害はないという判断だ」


「おかしなダンジョン」とシアが繰り返した。「そういう扱いなんですね」


「悪い意味じゃない」とゴルムがすぐ言った。「珍しいという意味だ。俺は二十年やってるが、こういうダンジョンは初めてだ」


────────────────────────────────────


 ゴルムがその場にしばらく立っていた。帰る様子がない。


 シアが「何か他にありますか」と聞いた。


「一つ相談がある」とゴルムが言った。「ギルドとしてマッピングをしたいという話がある」


「マッピング?」


「ダンジョンの地図を作る。どの層に何があるか、どの程度の戦力があるか。正式なダンジョンとしてギルドに登録するには必要な作業だ」


 シアが俺に念話を入れた。


『ケンジ、マッピングってどう思う?』


 俺は少し考えた。


 マッピングされることには二つの側面がある。一つは、来訪者が事前に情報を持って来るようになる。罠の位置や戦力配置が外に知れる。防衛上は不利になる。


 もう一つは、正式なダンジョンとして認知が進む。ギルドの管理下に入ることで、不当な攻撃や干渉への抑止力が生まれる。コアを壊しに来るような連中への公的な歯止めになる。


『受け入れる。ただし条件を一つつけてくれ』


『どんな条件?』


『地図を作る際、マッピング担当者がここに来るたびに、シアを通じて俺に事前に知らせること。一方的に情報を持ち出すのではなく、双方向でやり取りする形にしてほしい』


 シアがゴルムに伝えた。


 ゴルムが少し考えた。「コアがそう言っているのか」


「はい」


「……わかった。ギルドに伝える。その条件は通るはずだ」ゴルムがうなずいた。「話し合いができるダンジョンなら、そういう形の方がギルドとしても動きやすい」


────────────────────────────────────


 ゴルムが帰り際に言った。


「俺はまた来る。今度は仲間を連れて、奥まで行く」


「お待ちしています」とシアが言った。


「一つ聞いていいか」ゴルムが立ち止まった。「シアというエルフは、ここで生まれたのか? それともどこかから来たのか?」


 シアが少し間を置いた。


「来ました。逃げてきた、と言う方が正確ですが」


「逃げてきた」ゴルムが繰り返した。「それでここに落ち着いたのか」


「はい。コアが守ってくれたから」


「……そうか」ゴルムが顎髭を撫でた。「いい話だな」


「そうですか?」


「ダンジョンが誰かを守る。普通は逆だろう。ダンジョンは人を殺すものだ。だがここは違う」ゴルムが入口の方を向いた。「だから俺はここが気に入った」


 ゴルムが歩き出した。途中で振り返った。


「シア、ギルドへの連絡窓口になってくれるか。こういうダンジョンはちゃんとした窓口がいる方がいい」


「窓口、ですか」シアが少し考えた。「やります」


「頼んだ」


 ゴルムが今度こそ歩いていった。


────────────────────────────────────


 シアが洞穴に戻ってきた。


 認定書を手に持ったまま、奥の空間に来て岩壁の前に座った。


「ねえ、ケンジ」


『何だ』


「窓口、やることにした。大丈夫かな」


『できる。前回のハロルドとのやり取りを見ていた。お前はうまくやった』


「でも今度はもっと色んな人が来ると思う」


『一人ずつ対応すればいい。全員を同時に相手にする必要はない』


 シアが少し考えた。「そうだね」


『それと、ゴルムがいる。あいつは信用できる』


「ゴルムさん、なんか、頼りになる感じがした」


『ドワーフは約束を守る種族だとシアが前に言っていた』


「言った」シアが少し笑った。「覚えてたんだ」


『覚えている』


────────────────────────────────────


 その夜、俺は認定書についてもう一度考えた。


 鍛錬の迷宮。Dランクダンジョン。


 名前がついた。外の人間がつけた名前で、ギルドが認めた名前だ。


 転生してから今日まで、俺はただの「洞穴」だった。シアが来てからは「シアのいる洞穴」だった。Eランクになってからは「死なないダンジョン」という噂が広まった。


 今日から、「鍛錬の迷宮」という正式な名前がついた。


 その名前が、俺には少し重たく届いた。


 重たい、というのは悪い意味ではない。実感がある、という意味だ。Eランクになったときもそう思った。Dランクになったときもそう思った。その都度、「積み重なった」という感覚がある。


 シアが認定書を棚に立てかけた。白い花と水辺の石の隣に、ギルドの封蝋がついた紙が並んだ。


「なんか、棚が賑やかになってきた」とシアが言った。


『物が増えた』


「うん。最初は花だけだったのに」


 最初。最初の頃、棚には何もなかった。シアが花を持って帰ってきて、俺が石を置いて、今日認定書が加わった。


 そういう積み重ねが、洞穴の中にある。


『悪くない』


「うん」シアが棚を見ながら言った。「悪くない」


────────────────────────────────────


 翌日から、マッピングの担当者がやってくることになった。


 ギルドの調査員が地図を作る。どの通路がどこに繋がっているか。どの層にどんな戦力があるか。それがギルドの公式記録になる。


 シアが言った。


「マッピングって、全部見られちゃうの?」


『見られる部分と、見せない部分を決める。8層以降は今のところ非公開にする。9層と10層の存在は知らせるが、詳細は教えない』


「それでギルドは納得するかな」


『ゴルムが「条件は通る」と言った。信用する』


「わかった」シアが頷いた。「じゃあわたしが対応する」


『そうしてくれ』


 シアがまた外に出ていく準備を始めた。今日も来訪者がいる。露店が増えた。マッピング担当者も来る。


 ここはもう、ただの洞穴ではない。


 人が来る場所になった。名前がついた。ギルドが認めた。


 その先に何があるかは、まだわからない。


 だが今日、俺たちは確かにその先へ向かっている。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:128,600P

配備戦力:ゴブリン×12体(強化2含む) 強化オーク×2体(2層関所・5層) 強化オーク【ガルム】×1体(10層番人) コボルト×14体

落とし穴×15か所 毒ガストラップ×3 火炎トラップ×3 魔法陣トラップ×1 宝箱×1

本日の収支:+6,200P(来訪者複数・過去最高水準)

現在のダンジョン規模:10層 ランク:D(正式認定完了)

確定事項:Dランクダンジョン正式認定書受領。名称「鍛錬の迷宮」確定。ゴルムがギルドとの窓口役を提案・シアが受諾。マッピング開始予定。

次の課題:マッピング対応(公開範囲の決定)。来訪者増加への防衛対応。ゴルムとの継続的な関係構築。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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