第3話_初めての侵入者
来た。
三日目の昼過ぎ、入口の方向から気配があった。
二本足で歩いているが、体重が軽い。一人ではない。二匹、三匹。動きが小刻みで、かさかさと足音を立てている。洞穴を嗅ぐような気配だ。
コボルト、という言葉が頭に浮かんだ。犬に似た顔を持つ魔物。洞穴を根城にする習性がある。生成コスト15P——つまりゴブリンの1.5倍の価格が示す通り、戦力はゴブリンより上のはずだ。
これは試させてもらう。
俺は一層目で動いている戦力を一度確認した。今日の朝の時点でエルフの子は洞穴にいる。奥の空間に。三日目も、まだいた。
コボルトが三匹、洞穴に入ってきた。
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想像より速かった。
体が小さい分、身のこなしが軽い。犬に近い前傾姿勢で駆けてくる。そして——先頭のコボルトが一番の落とし穴を、飛び越えた。
俺は一瞬、虚をつかれた。落とし穴の幅が、コボルトの跳躍力に対して足りていなかった。
まずい。
待機していたゴブリン二体が飛びかかった。コボルトの動きはゴブリンより一回り速い。
噛みつきをひらりと避けて、反撃でゴブリンの腕に噛みついた。一対一ではコボルトの方が上だ。しかしゴブリンには数がある。二体が一匹を挟み込んで押さえ込んだ。
後続の二匹が通路を駆けてくる。二番の落とし穴を飛び越えようとした。こちらは踏み切りのタイミングで蓋を開いた。一匹が落ちる。残る一匹が後方のゴブリン三体に追いすがられ、奥の空間の手前で囲まれた。
三分とかからず、ゴブリンたちが優勢を確立した。一匹は穴の底で動けず、一匹は逃走、一匹は排除。
DP獲得:50P×2、100P。撃退完了。
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エルフの子は通路の方を覗いていた。ゴブリンたちが奥の空間に戻ってくると、さっと壁際に身を引いた。ゴブリンと一体が至近距離で向き合う形になった。
ゴブリンが低く唸った。
エルフの子が息を止めた。
俺はすぐゴブリンに「下がれ」の指示を出した。ゴブリンは唸るのをやめて、エルフの子から離れた。
「……わたしには攻撃しないんだ」
確かめるような呟きだった。水場の水を一度揺らした。そうだ、の代わりに。
「……洞穴の主が、そう命令してるの?」
二度揺らした。
「……ありがとう」
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昼過ぎ、俺は落とし穴の設計を見直していた。
コボルトに飛び越えられた問題。解決策は単純だ——落とし穴の手前に段差を作る。踏み切れないようにしてしまえばいい。コスト:ゼロ。地形改造の範囲内だ。
試してみると、通路の落とし穴の手前に30センチほどの段差を作ることができた。これで踏み切りが制限される。次にコボルトが来れば効果を検証できる。
それと底面に傾斜をつけた。斜めに掘ることで這い出しにくくなる。今回は底が平らだったので、コボルトが這い出す可能性があった。
同じ素材でも設計次第で全然違う。ITの仕事でも同じことをやってきた。制約の中での最適解を探す。リソースをどう組み合わせるか、だ。
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夕方、エルフの子が今日二度目の採集から戻ってきた。両手にいつもより多い食料——木の実に加えて茸も混じっていた。
「……森の中で茸を見つけた。これ、食べられるやつ。エルフは植物の毒に敏感だから、わかる」
水が揺れた。
「……ちゃんと聞いてるんだね」
少し、口の端が上がった。笑いとまでは言えないが、表情がほぐれた最初の瞬間だった。
夜、エルフの子が食べながらぽつりと言った。
「……洞穴の主って、いつもここにいるの?」
揺らした。
「外には出られないの?」
また揺らした。
「……そっか」
少しの間、黙った。
「わたしも、しばらく行くところがないんだ」
それきり黙った。
俺は何も返せなかった。返す言葉を持っていなかった。ただ、光をいつもより少しだけ明るくした。それだけだ。
エルフの子は光が増したことに気づいて、天井を見上げた。それから「ありがとう」と小さく言った。
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三日目の夜。洞穴は静かだった。
コボルトとゴブリンの戦力差がわかった。落とし穴の改善策も試せた。今日は収穫が多い。
だが頭の片隅には、もう一つ引っかかることがあった。
エルフの子を追っている連中が、続けて来た。昨日来た二人は最初の四人とは別の顔ぶれだった。偶然では説明がつかない。組織的に探している。
ということは——次はもっと本気の連中が来る可能性がある。
昨夜の二人は軽装の斥候タイプだった。報告を上げれば、次は正面から来るかもしれない。罠を把握した上で、人数を揃えて。
この落とし穴と5体のゴブリンで、それを止められるか。
答えは、まだわからなかった。
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DP残高:10,190P
配備戦力:ゴブリン×5体(うち1体軽傷・回復中) 落とし穴×3か所(改良済み) 宝箱×1
本日の収支:+100P(野生コボルト×2撃退)
現在のダンジョン規模:1層 推定ランク:E以下
本日の発見:コボルトはゴブリンより個体戦力が高い。落とし穴の飛越え対策が必要。
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