表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/30

第3話_初めての侵入者

 来た。


 三日目の昼過ぎ、入口の方向から気配があった。


 二本足で歩いているが、体重が軽い。一人ではない。二匹、三匹。動きが小刻みで、かさかさと足音を立てている。洞穴を嗅ぐような気配だ。


 コボルト、という言葉が頭に浮かんだ。犬に似た顔を持つ魔物。洞穴を根城にする習性がある。生成コスト15P——つまりゴブリンの1.5倍の価格が示す通り、戦力はゴブリンより上のはずだ。


 これは試させてもらう。


 俺は一層目で動いている戦力を一度確認した。今日の朝の時点でエルフの子は洞穴にいる。奥の空間に。三日目も、まだいた。


 コボルトが三匹、洞穴に入ってきた。


────────────────────────────────────


 想像より速かった。


 体が小さい分、身のこなしが軽い。犬に近い前傾姿勢で駆けてくる。そして——先頭のコボルトが一番の落とし穴を、飛び越えた。


 俺は一瞬、虚をつかれた。落とし穴の幅が、コボルトの跳躍力に対して足りていなかった。


 まずい。


 待機していたゴブリン二体が飛びかかった。コボルトの動きはゴブリンより一回り速い。

噛みつきをひらりと避けて、反撃でゴブリンの腕に噛みついた。一対一ではコボルトの方が上だ。しかしゴブリンには数がある。二体が一匹を挟み込んで押さえ込んだ。


 後続の二匹が通路を駆けてくる。二番の落とし穴を飛び越えようとした。こちらは踏み切りのタイミングで蓋を開いた。一匹が落ちる。残る一匹が後方のゴブリン三体に追いすがられ、奥の空間の手前で囲まれた。


 三分とかからず、ゴブリンたちが優勢を確立した。一匹は穴の底で動けず、一匹は逃走、一匹は排除。


 DP獲得:50P×2、100P。撃退完了。


────────────────────────────────────


 エルフの子は通路の方を覗いていた。ゴブリンたちが奥の空間に戻ってくると、さっと壁際に身を引いた。ゴブリンと一体が至近距離で向き合う形になった。


 ゴブリンが低く唸った。


 エルフの子が息を止めた。


 俺はすぐゴブリンに「下がれ」の指示を出した。ゴブリンは唸るのをやめて、エルフの子から離れた。


「……わたしには攻撃しないんだ」


 確かめるような呟きだった。水場の水を一度揺らした。そうだ、の代わりに。


「……洞穴の主が、そう命令してるの?」


 二度揺らした。


「……ありがとう」


────────────────────────────────────


 昼過ぎ、俺は落とし穴の設計を見直していた。


 コボルトに飛び越えられた問題。解決策は単純だ——落とし穴の手前に段差を作る。踏み切れないようにしてしまえばいい。コスト:ゼロ。地形改造の範囲内だ。


 試してみると、通路の落とし穴の手前に30センチほどの段差を作ることができた。これで踏み切りが制限される。次にコボルトが来れば効果を検証できる。


 それと底面に傾斜をつけた。斜めに掘ることで這い出しにくくなる。今回は底が平らだったので、コボルトが這い出す可能性があった。


 同じ素材でも設計次第で全然違う。ITの仕事でも同じことをやってきた。制約の中での最適解を探す。リソースをどう組み合わせるか、だ。


────────────────────────────────────


 夕方、エルフの子が今日二度目の採集から戻ってきた。両手にいつもより多い食料——木の実に加えて茸も混じっていた。


「……森の中で茸を見つけた。これ、食べられるやつ。エルフは植物の毒に敏感だから、わかる」


 水が揺れた。


「……ちゃんと聞いてるんだね」


 少し、口の端が上がった。笑いとまでは言えないが、表情がほぐれた最初の瞬間だった。


 夜、エルフの子が食べながらぽつりと言った。


「……洞穴の主って、いつもここにいるの?」


 揺らした。


「外には出られないの?」


 また揺らした。


「……そっか」


 少しの間、黙った。


「わたしも、しばらく行くところがないんだ」


 それきり黙った。


 俺は何も返せなかった。返す言葉を持っていなかった。ただ、光をいつもより少しだけ明るくした。それだけだ。


 エルフの子は光が増したことに気づいて、天井を見上げた。それから「ありがとう」と小さく言った。


────────────────────────────────────


 三日目の夜。洞穴は静かだった。


 コボルトとゴブリンの戦力差がわかった。落とし穴の改善策も試せた。今日は収穫が多い。


 だが頭の片隅には、もう一つ引っかかることがあった。


 エルフの子を追っている連中が、続けて来た。昨日来た二人は最初の四人とは別の顔ぶれだった。偶然では説明がつかない。組織的に探している。


 ということは——次はもっと本気の連中が来る可能性がある。


 昨夜の二人は軽装の斥候タイプだった。報告を上げれば、次は正面から来るかもしれない。罠を把握した上で、人数を揃えて。


 この落とし穴と5体のゴブリンで、それを止められるか。


 答えは、まだわからなかった。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:10,190P

配備戦力:ゴブリン×5体(うち1体軽傷・回復中) 落とし穴×3か所(改良済み) 宝箱×1

本日の収支:+100P(野生コボルト×2撃退)

現在のダンジョン規模:1層 推定ランク:E以下

本日の発見:コボルトはゴブリンより個体戦力が高い。落とし穴の飛越え対策が必要。


────────────────────────────────────

続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


最初は3話同時に投稿します。

その後は基本1日1話の投稿を予定しています。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ