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第2話_迷宮の設計者

 男たちは戻ってくるだろうか。


 夜が明けて、洞穴の外から朝の光が差し込んできた。俺はその問いを頭の隅に置いたまま、昨夜からずっと考えていたことに取り組んでいた。


 権能を、改めて丁寧に確認する。


 緊急対応に追われた昨夜、細かく確認している暇がなかった。今日はきちんと整理しよう。コンピューターのダッシュボードを一項目ずつ確かめるのと同じだ。


 エルフの子は、眠っていた。


 奥の空間の壁際、砂利の上に座り込んだまま、前のめりに頭を垂れている。膝を抱えた姿勢は変わっていない。つまり昨夜はあのまま眠ったらしい。どう考えても体に悪い寝方だ。


 俺にはどうしてやることもできなかった。


────────────────────────────────────


 権能の全容を確認した。


 生成できるものは大まかに三種類に分かれていた。モンスター、設備、アイテムだ。


 モンスターはゴブリン(10P)からコボルト(15P)、オーク(50P)、トロル(200P)、ドラゴン小(5,000P)まで。それぞれ強化もできて、生成コストの倍を払えば一段階上の個体になる。


 設備は落とし穴(20P)、毒ガストラップ(80P)、火炎トラップ(150P)、魔法陣トラップ(500P)、階層追加(1,000P)。アイテムは宝箱が並(100P)と上(500P)の二種類。


 以上が基本的な権能の全容だ。シンプルな構成だが、組み合わせ次第でどうにでもなる。


 それ以上に俺が注目したのは、空間操作の権能だった。


 地形を微細に変えられる。壁を削ったり盛ったり、通路の幅を調整したり。水の流れも制御できる。壁から染み出している水を集めれば、小さな水場を作れる。しかもDP消費なしで。


 光の制御も限定的ながら可能だった。コア自体がかすかに発光しているらしく、その光を調節することで奥の空間の明るさを少し変えられる。


 俺はその機能を使って、奥の空間にわずかな光を灯した。薄い、青白い光。目覚めた人間が怖がらない程度の明かりだ。


 それから壁面の水を集めて、直径30センチほどの小さな水場を奥の空間の隅に作った。清潔な水だ。少なくとも有害なものは含まれていない。


 食料は用意できない。毛布も無理だ。


 できること:洞穴を安全に保つ。水を確保する。光を灯す。外敵を撃退する。

 できないこと:食料を用意する。声で話しかける。直接守る。


 不満足だが、これが現状だった。


────────────────────────────────────


 エルフの子が目を覚ましたのは、日が高くなってからだった。


 ゆっくりと頭を上げて、目をしばたかせる。隅に溜まった澄んだ水に気づき、恐る恐る触れてから、ゆっくりと喉に流し込んだ。


 それから洞穴の入口の方を確認した。外の様子を窺っている。追手がまだいるかどうか。しばらくして、慎重に外へ出た。


 俺の感知範囲から消えた。


 ……思ったよりも、落ち着かない感覚だった。


 別にいい。あの子は俺の知り合いでも何でもない。ただの、逃げ込んできた子どもだ。出て行くなら出て行けばいい。だが——感知の外に出た瞬間、何もわからなくなる。無事かどうかも、どこにいるかも。


 十分ほどして、エルフの子が戻ってきた。手に木の実を数粒、葉っぱを束にして持っていた。森で採ってきたらしい。


 自分で何とかできる子だ、と俺は思った。一晩洞穴に籠もって、追手の様子を確認して、食料を集めに行った。状況判断は悪くない。


 食べ終えて、エルフの子がぽつりと言った。


「……不思議な洞穴だ」


 俺への言葉ではない。でも俺は聞いていた。


「追手を追い払ってくれた。わたしを傷つけなかった。水まで湧いてる。……精霊でもいるのかな」


 エルフの子は壁を軽く叩いた。こつ、こつ、と。


「もしいるなら、ありがとう」


 俺は何も答えられなかった。声を出す術がない。


 ただ、せめて何かできないかと思ったとき、水場の水がかすかに揺れた。意図したわけではなかった。でもエルフの子はそれを見て目を見張った。


「……いる、の?」


 また水が揺れた。


「……わたし、ここに、いてもいい?」


 三度、水が揺れた。


 エルフの子は長い耳をぴんと立てて、それからゆっくりと頷いた。確信を持った様子で、「うん」と小さく言った。


────────────────────────────────────


 夕方になって、ゴブリンたちが騒ぎ始めた。


 二人。武器の音がする。金属が擦れる鎧の音だ。昨夜の四人ではなく、別の二人だ。装備が違う。片方は弓を持っている。もう片方は短剣を両手に持った軽装の男だ。どちらも昨夜より手慣れた動きをしている。


 昨夜の男たちが、仲間を連れてきたのか。


 あるいは——あの子を本気で追っている組織がいる、ということか。


 俺はゴブリンたちを展開した。落とし穴を起動状態にする。


 もつれ合ううちに弓持ちが二番の落とし穴に踏み込んだ。どぼり。短剣の男が引き上げようとしたところへゴブリン三体が追いすがった。二人は走って出て行った。


 DP獲得:50P×2、100P入った。残高10,090P。


 戦闘の間、エルフの子は奥の空間で息を殺して固まっていた。終わってから、ゆっくりと壁に背を戻した。


「……また撃退した」


 感心したような声だった。


 俺は水場の水を揺らした。そうだ、の代わりに。


「すごいな」と言った。


────────────────────────────────────


 夜になった。


 エルフの子は今夜もまた、壁際で膝を抱えて眠りについていた。


 俺はゆっくりと光を絞った。眠りやすいよう、明かりを最小限にする。


 気になることがある。


 昼間の二人は昨夜の連中の仲間かもしれないし、別の組織かもしれない。どちらにしても、あの子を探している者が複数いる。そして今日よりも明日、手強い連中が来る可能性がある。


 落とし穴は今のままでは足りないかもしれない。コボルトやオーク相手に、同じ設計が通用するとは限らない。


 俺は整理した。今できること、今できないこと。そして、今のうちに備えておくべきこと。


 考えることは尽きない。


 洞穴の外で風が鳴った。遠くで梟が一声鳴いた。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:10,090P

配備戦力:ゴブリン×5体(うち2体軽傷・回復中) 落とし穴×3か所 宝箱×1

現在のダンジョン規模:1層 推定ランク:E以下

本日の収支:+100P(侵入者×2撃退)


────────────────────────────────────

続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


最初は3話同時に投稿します。

その後は基本1日1話の投稿を予定しています。


よろしくお願いいたします。

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