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第27話_様々な挑戦者

 死なないダンジョンの噂は、思ったより速く広まった。


 翌日から来訪者の質が変わり始めた。目的も、装備も、動き方も、これまでとは違う種類の人間が混ざるようになった。


 最初に来たのは盗賊団だった。


────────────────────────────────────


 七人組。


 冒険者と違うのは、動きの統率の取り方だ。前後左右に散らばって、互いの間隔を常に一定に保ちながら進んでくる。街道で旅人を囲む動きに慣れた者特有の陣形だ。盾も鎧も持っていない。その分だけ動きが速い。


 リーダーらしき男が最後尾で指示を出している。


「宝箱を狙え。コアは触るな。死なないダンジョンなら最悪戻れる。速攻で抜いて出ろ」


 合理的な判断だ。死なないなら特攻できる。俺のダンジョンが来訪者に与えた最初の誤算がここで出た。


 一層を駆け抜けてくる。落とし穴を二か所踏み抜いた。二人が落ちたが残り五人が止まらない。ゴブリンを振り払いながら奥へ向かってくる。


 速い。


 俺はコボルト四体を前に出した。追い越すように二層の入口で待ち構える形にした。


 五人が二層に飛び込んできた瞬間、四方からコボルトが絡みついた。一人が壁に叩きつけられる。別の一人が足首を噛まれて転倒する。


 それでも二人が抜けた。


 宝箱のある奥の空間まで来た。宝箱を見つけた。蓋を開けようとした。


 その瞬間、魔法陣トラップを起動した。


 500P消費。痛い出費だ。だが宝箱の中身を奪われるよりはましだ。閃光と衝撃波が狭い空間に炸裂した。二人が吹き飛んで壁に激突する。魔力が尽きて、リスポーンが発動した。


 二人が入口に戻った。装備なし、魔力なし。


 外で待っていた仲間と合流する声が聞こえた。しばらく言い合う声があって、やがて足音が遠ざかった。


『ケンジ、宝箱は大丈夫だった?』


『無事だ。中身は触られていない』


『よかった。でも500P、痛かったね』


『痛かった』


 シアが少し笑った気配があった。


────────────────────────────────────


 三日後、魔法使いパーティが来た。


 四人。全員がローブを纏っている。前衛がいない構成だ。


 一層に踏み込んできた瞬間、詠唱が始まった。炎の魔法だ。ゴブリン一体が直撃して動かなくなった。


 魔法使いは通路の罠が効きにくい。足元を見ながら進む冒険者と違って、視線が前方の敵に向く。落とし穴を踏みにくい。ゴブリンの突撃より先に遠距離から焼かれる。


 一層で三体のゴブリンを失った。


 まずい展開だ。俺は方針を切り替えた。ゴブリンとコボルトを後退させて、通路の両壁を高速で削り始めた。DP消費なしの地形改造だ。壁に細かい凹凸を作る。魔法の炎は直進する。障害物があれば拡散する、散逸する。完全には防げないが、命中率が下がる。


 それと同時に、毒ガストラップを一層の後半で起動した。


 魔法使い四人が煙に巻かれた。詠唱が乱れる。魔法は発動直前に術者の集中が必要だ。咳き込みながら詠唱を続けることはできない。


 乱れた隙にコボルト六体を一斉投入した。


 近接戦に持ち込まれた魔法使いは脆い。装備が軽く、体力もない。三人が次々とリスポーンで戻された。最後の一人が走って入口から逃げ出した。


 DP収支を確認した。ゴブリン三体の損失が痛いが、魔法使いパーティ四人分の収入がある。差し引きでプラスだ。


『魔法使いは地形で対処する、ということがわかった』


 シアへの報告半分、自分への整理半分で念話を送った。


『炎、怖かった。三層まで熱い気がした』


『気のせいだ』


『気のせいかなあ』


────────────────────────────────────


 その翌々日、これまでとは種類の違う来訪者が現れた。


 野生のモンスターの集団だ。


 オーク五体、コボルト十二匹。統率はない。ただ数が多い。縄張りを求めて移動しているらしく、洞穴の入口を「空の巣」と判断して押し込んできた気配だ。


 シアに念話を送った。


『野生の集団が来た。数が多い。五層まで下がっていろ』


『わかった』


 一層で防ぎ切る選択はしなかった。オーク五体を相手に今の戦力を消耗させれば、その後の冒険者への対応が苦しくなる。俺は各層に戦力を分散させて、消耗戦に引き込む作戦を取った。


 一層で少し削る。二層で削る。三層で削る。各層でダメージを与えながら下がっていく。


 問題は、野生のモンスターにはリスポーンが適用されないことだ。死んだオークは戻ってこない。倒せばDPが入るが、こちらの損耗も積み重なる。


 三層まで引き付けたところで、シアが動いた。


 俺の指示ではなかった。


 三層の壁際に植えていた草木が、一斉に伸び始めた。つる植物が通路に広がって、オークの足に絡みつく。生命魔法と土の魔法を組み合わせたシア独自の権能行使だ。完全に止めることはできないが、動きが鈍る。


 その隙にゴブリンとコボルトを集中投入した。


 オーク三体とコボルト八匹を仕留めた。残りが逃げ出した。


『シア、今の』


『ごめん、勝手にやった』


『謝る必要はない。よかった』


 少し間があった。


『……本当に?』


『本当だ。植物は思ったより使える』


 シアが静かに笑った気配があった。


────────────────────────────────────


 この一週間で、俺はいくつかのことを学んだ。


 来訪者の種類によって、有効な対処が根本的に変わる。盗賊団には宝箱を狙わせない配置。魔法使いには煙と地形で詠唱を妨害する。野生の集団には消耗戦で引き付けてシアの権能で追い打ちをかける。


 同じ罠・同じ配置では通用しない相手がいる。


 それと——シアの権能は、俺が思っている以上に伸びている。


 植物を戦闘に活用するという発想は俺にはなかった。今日の場面で、シアは俺の指示なしに判断して、実際に機能させた。


 誇らしいという感情が正確かどうかはわからない。だが近い何かが、あった。


 DP残高を確認した。この一週間の積み上げで、残高は24,600Pまで回復していた。


 まだ魔法陣トラップを失った穴は埋まっていないが、そこそこの水準には戻ってきた。追加のゴブリン生成に200P使っておいた。微々たる補充だが、ないよりはましだ。


 シアが夕食を食べながら念話を入れてきた。


『ねえ、ケンジ。この一週間、なんか色々来たね』


『そうだな』


『盗賊団は何が目的だったんだろ。宝箱?』


『そうだ。死なないなら特攻できると判断した。合理的な思考だ』


『なんか、死なないのが逆に利用されかけた感じ』シアが少し考える様子があった。『そういう来方をする人が増えるかも』


 俺も同じことを考えていた。


 不死の権能は修行目的の来訪者を呼ぶ。だが同時に、「死なないなら何をしてもいい」という動機で来る者も引き寄せる。コアを壊しに来る者、宝箱を狙う者、ダンジョンマスターを捕まえようとする者。


 そういう相手への備えは、まだ十分ではない。


『備えを整える必要がある』


『どんな備え?』


『それを今夜考える』


 シアが「うん」と言って、食事を再開した。


 洞穴の外では今夜も何組かが来ている気配がある。明日も来るだろう。来るたびに何かを学ぶ。そして俺たちは、少しずつ強くなっていく。


 その先に何があるのかは、まだ見えていない。


 だが今夜、DP残高は24,600Pだ。


 確かに、積み重なっている。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:24,600P

配備戦力:ゴブリン×9体(強化2含む) 強化オーク×1体(2層関所) 強化オーク【ガルム】×1体(5層番人) コボルト×6体

落とし穴×10か所 毒ガストラップ×2 火炎トラップ×1(魔法陣トラップ×1消費済み・未補充) 宝箱×1

本日の収支:今週合計 +17,500P(盗賊団×7・魔法使いパーティ×4・野生モンスター集団撃退等)

現在のダンジョン規模:5層 推定ランク:E

今週の学び:来訪者の種類別対処法の確立(盗賊団・魔法使い・野生モンスター)。シアの植物権能が戦闘補助として機能することを確認。

課題:魔法陣トラップの補充(500P)。「死なないを悪用しようとする」来訪者への備え強化。ギルド調査員の来訪がいつあってもおかしくない状況。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
死なない。となると、無謀なことするのが出ますからね。 死刑に出来ないまでも、一線を越えた冒険者は捕まえて懲役、程度によっては終身刑。という仕組みでもあれば良いのですが。
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