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第26話_初めての死

 翌朝、昨日の三人組が戻ってきた。


 ただし今日は三人ではなかった。六人だ。昨日の三人に、新しい顔が三人加わっている。装備の質がまちまちで、急いで集めてきた、という印象の構成だ。


 入口の前で止まった。しばらく話し合っている。声は聞こえないが、気配でわかる。昨日リスポーンした男が何かを説明している。残りの五人が半信半疑で聞いている。


 来るかどうか迷っている。


 俺は待った。


 五分ほどして、六人が入口に踏み込んできた。


────────────────────────────────────


 一層の戦闘は早かった。


 昨日来た三人はすでに配置を把握している。落とし穴の位置も、ゴブリンが出てくる角度も。その情報を他の三人と共有している。連携が取れた動きで、一層は十分もかからず抜けられた。


 二層に入ってきた。


 新顔の一人が前に出た。短剣使いで、動きが速い。強化オークとの正面衝突を避けながら、側面から削ろうとする立ち回りだ。上手い。


 だが二層の合流地点で足が止まった。


 落とし穴に落ちた。完全に落ちた。深さ三メートル。底に鉄の杭はない——殺すための罠ではなく、止めるための罠だ。ただし今の残高では回収手段が乏しい。這い出せなければ、そのまま力尽きる。


 短剣使いが底で暴れていた。壁を引っ掻いて、足場を作ろうとしている。三分ほどして、動きが止まった。


 俺は感知を絞った。


 魔力の網が動いた。


 短剣使いの気配が、穴の底から消えた。一瞬の間があって——入口付近に現れた。装備なし、魔力なし。だが息をしている。


────────────────────────────────────


 入口の外にいた残りの五人が騒いだ。


 声が届いた。「なんだ」「どこから来た」「お前、さっきまで中にいたよな」「何が起きた」。次々と言葉が重なる。短剣使いの声も混じった。「わからない。気づいたらここにいた。装備が全部なくなってる」。


 そこへ俺は次の戦闘に意識を戻した。


 残り五人が二層に入ってくるかと思ったが、違った。四人が引き返してきた。一人だけ残って、穴の底を覗き込んでいる。何かを確かめようとしている。


 その一人——昨日リスポーンした、最初の男だ。


 男は長い間、穴を見ていた。それから顔を上げて、洞穴の天井を見た。何も見えないはずだが、視線がコアのある方向に向いた。


「……本当に、死なないんだな」


 ひとり言だった。誰に向けた言葉でもなかった。


 だが俺は確かに受け取った。


────────────────────────────────────


 男が外に出た後、俺はシアに声をかけた。


『見ていたか』


 三層の奥からシアが念話を返してきた。


『うん。さっきのリスポーン……ちゃんと戻ってきた』


『二度目だ。機能に問題はない』


『よかった』


 短い返事だった。だが昨夜の「よかった」と同じ温度があった。


 俺は少しの間、今起きたことを整理した。


 不死の権能を取得して二日で、二人がリスポーンした。昨日の一人は仲間六人を連れて戻ってきた。今日その内の一人が穴の底から戻ってきた。外で騒ぎが起きた。


 情報は広まる。


 今日の六人は今夜どこかに泊まって、この出来事を話す。明日には十人が知る。来週には百人が知るかもしれない。それがどこに向かうかは、今の段階ではわからない。


 ただ一つわかることがある。


 昨日まで噂だった「死なないダンジョン」が、今日から事実になった。


────────────────────────────────────


 昼過ぎに、また別のパーティが来た。


 今度は二人組だ。Dランク相当。動きが洗練されていて、迷いがない。地図を持っている。一層を慎重に進み、二層に入って、三層手前で引き返した。戦闘はほとんどなかった。


 確認しに来た、という動きだった。


 噂を聞いて、実際に見た。引き返すとき、二人が入口付近で立ち止まった。何かを確認している。一人が小さなノートに何か書いている。記録している。


 ギルドの調査か、あるいはギルドに報告するための予備調査か。


 どちらにしても、外に情報が出ていく。


『シア』


『何?』


『今日来た二人、見たか』


『うん。なんか違う動きだった。偵察みたいな』


『そうだ。おそらく、この後ギルドに何かが伝わる』


 シアが少し間を置いた。


『調査員、来るの早まるかもね』


『そう思う』


『……準備できてるかな、わたし』


 俺は少し考えてから答えた。


『できている。昨日今日で起きたことを見ろ。お前は落ち着いていた』


「それは、ケンジがいるから」とシアが声に出して言った。念話ではなく、声だった。


 俺はその言葉を、少しの間そのままにしておいた。


────────────────────────────────────


 夕方、入口付近の気配が賑やかになった。


 三組が同時に来ていた。それぞれ別々のパーティで、面識はなさそうだ。入口前で鉢合わせて、互いに様子を見ている。


 一組が入っていった。残り二組が外で待っている。


 これが今後の日常になるのかもしれない、と俺は思った。


 複数のパーティが来て、順番を待って、挑戦して、戻ってくる。生きて戻ってくる。それを繰り返す場所。死なないから、失敗しても続けられる。そういう場所として、このダンジョンが機能し始めている。


 シアが念話で言った。


『ねえ、ケンジ。入口の外、なんかざわざわしてる』


『三組来ている。初めての渋滞だ』


『渋滞』シアが少し笑った気配があった。『そんな日が来るとは思わなかった』


『俺もだ』


 正直な返事だった。転生してから今日まで、ここは奴隷狩りを撃退するための場所だった。冒険者が来るようになってからも、「倒す相手」として来るものを処理していた。


 今日初めて——待つ列が生まれた。


────────────────────────────────────


 夜になって、全員が外に出た。


 俺はDP収支を確認した。


 今日の収入はこれまでで最高だった。複数のパーティが来た分、撃退した数が増えた。残高は昨日の2,850Pから7,100Pまで回復した。まだ安全圏とは言えないが、回復の兆しは確かにある。


 シアが眠りにつく前に言った。


「ねえ、ケンジ。今日さ、穴の底から戻ってきた人が、天井の方を見て『本当に死なないんだな』って言ってたじゃない」


『聞こえていたか』


「うん。なんか……嬉しかった」


 俺は少し考えた。


 嬉しかった、という言葉が正確かどうか、シア自身もわかっていないかもしれない。安堵でも達成感でもなく、もっと単純な——よかった、という感覚。それに近いものを、俺も感じていた。


『俺も、悪くなかった』


「珍しい」


『何が』


「ケンジが素直に言ったから」


 俺は返事をしなかった。


 シアが笑いを噛み殺す気配があった。それから静かになって、鼓動がゆっくり落ち着いていく。眠りに入っていく。


 洞穴の外では、まだ何組かが入口付近でざわついていた。


 明日も来るだろう。明後日も来るだろう。そしてそのたびに、誰かが穴から戻ってきて、目を覚まして、「死ななかった」という事実と向き合う。


 その事実が、どこまで広がっていくのか。


 俺にはまだ、見えていなかった。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:7,100P

配備戦力:ゴブリン×9体(強化2含む) 強化オーク×1体(2層関所) 強化オーク【ガルム】×1体(5層番人) コボルト×6体

落とし穴×10か所 毒ガストラップ×2 火炎トラップ×2 宝箱×1

本日の収支:+4,250P(複数パーティ撃退・詳細略)

現在のダンジョン規模:5層 推定ランク:E

確定事項:不死の権能が二度機能を確認。リスポーン事実が複数の冒険者・偵察者に目撃された。「死なないダンジョン」が噂から事実へ移行。

課題:DP残高は回復軌道に入ったが安全圏未満。ギルド調査員の来訪が早まる可能性あり。来訪者増加に伴う防衛負荷の増大に注意。


────────────────────────────────────


続きを楽しんでいただけたら、ブックマーク・評価いただけると励みになります。


次話は明日の17:00に投稿します。

1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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