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第22話 シア、権能開花

 再挑戦の翌日、俺は戦力の再建に取りかかった。


 強化オーク一体(200P)、コボルト四体(60P)、ゴブリン五体(50P)を再生成する。合計310P消費。毒ガストラップも補充した(80P)。これで主要な穴は塞がった。


 DP残高は7,955P。


 戦闘があれば増える。今日のところは静かだった。野盗の二人組が入り口を覗いて引き返したくらいだ。


 そういう日もある。


 午後に入って、俺はシアの気配が三層の前半をうろついているのに気づいた。荷物を移してがらんとした空間を、何か確かめるように歩き回っている。


 特に声をかけなかった。


 しばらくして、シアが念話を寄越してきた。


『ねえ、ケンジ。一個聞いていい?』


『何だ』


『ダンジョンの権能って、モンスターを動かしたりトラップを設置したりするだけじゃなくて、もっと細かいこともできるよね』


 俺は少し考えた。


『できる。洞穴の形を変えたり、水を引いたりするのも権能だ。ただDPを消費するものとしないものがある』


『じゃあ、植物を生やすのは?』


 俺は一瞬、返答を止めた。


『……ダンジョン内で植物を育てることに、防衛上の意味はない』


『そういうことを聞いてるんじゃなくて、できるかどうかを聞いてるの』


 言い返された。


 俺は正直に答えた。


『シアが生命魔法の適性を持っている。ダンジョンマスターの権能と組み合わせれば、おそらくできる。DP消費はほぼないはずだ』


『やっていい?』


『権能の無駄遣いだ』


『DP使わないって言ったじゃない』


 確かに言った。


 俺は少し間を置いた。


『……好きにしろ』


 シアが「やった」と言う声が念話越しに弾んだ。


 それから、三層の前半でシアが何かを始めた。


 気配が一か所に集中して、微妙に何かが変化していく感覚がある。具体的に何が起きているかは、ダンジョンの空間認識としてはわかりにくい部分だったが、しばらくして変化が感じられるようになった。


 壁際の石の隙間から、細い緑の芽が出ていた。


 ダンジョンの内部に。植物が。


 俺は少し黙った。


 シアが得意そうな気配を出していた。


『どう?』


『……洞穴の中で植物が育つのか』


『魔法で補助してるから大丈夫。光がなくても育つやつを選んだ』


 光の届かないダンジョンの内部で育つ植物。シアの生命魔法が介在しているらしい。権能の使い方として想定外だったが、確かにDP消費はなかった。


 俺は防衛上の価値を考えようとして、途中でやめた。


 ない。明らかにない。


 だが害もない。


『他にも生やしてもいい?』


『どこにだ』


『水場の近くと、あと通路の壁ぞいに少し。殺風景だから』


 殺風景。


 俺はダンジョンの内部が殺風景であることを問題だと思ったことがなかった。洞穴は洞穴だ。薄暗くて石造りで、それが普通だ。


 だが言われてみると、シアが日々過ごす場所として考えれば、確かに味気ない。


『防衛の邪魔にならない場所にしろ』


『わかった!』


 シアが動き始めた。


 水場の周辺に、小さな草が数本。通路の壁ぞいに、つる性の何かが石の凹凸に沿って伸び始めた。光のない洞穴の中で、生命魔法に補助された植物たちが静かに根を張っていく。


 俺はその変化をぼんやりと感じながら、今日のDP収支を整理していた。


 しばらくして、シアがまた言った。


『ねえ、ケンジ。これって権能の使い方として変かな』


『防衛に使わないという意味では変だ』


『でも、ケンジは止めなかった』


『言っただろ。害がないなら好きにしろと』


 シアが少し笑った気配があった。


『ケンジって、たまにやさしいよね』


 俺は少し考えて答えた。


『効率の悪いことに文句を言うのも効率が悪い』


『それ、やさしいって言わない気がする』


 言い方の問題だと思ったが、口には出さなかった。


 夕方近くになって、三層の前半の様子がだいぶ変わっていた。石の壁ぞいに緑がある。水場の周りに草が根付いている。洞穴の空気が少しだけ、変わった気がした。


 気のせいかもしれない。


 シアが水場のそばに座って、育ち始めた草を指先でそっと触れている気配があった。


 俺はそれを感じながら、明日以降の防衛計画を考え続けた。


 Dランクのパーティがまた来るかもしれない。あるいは別の冒険者が来るかもしれない。いずれにしても備えは続く。


 ただ今日は静かな一日で、シアが新しいことを覚えて、洞穴の中に緑が増えた。


 それだけのことだが、悪くない一日だったとは思った。


 思っただけで、口には出さなかった。


---


DP残高:8,105P

配備戦力:ゴブリン×9体(強化2含む) 強化オーク×1体(2層関所・再生成) 強化オーク【ガルム】×1体(5層番人) コボルト×6体(再生成)

落とし穴×10か所 毒ガストラップ×2(補充) 火炎トラップ×2 宝箱×1

本日の収支:+460P(野盗・野生モンスター小規模撃退) 戦力再建:-390P 純増:+70P

現在のダンジョン規模:5層 推定ランク:E

課題:戦力再建完了。DP蓄積ペースを維持しながら中間層の追加強化を進める。シアの生命魔法とダンジョン権能の組み合わせによる新たな権能活用の可能性を確認。防衛への転用は現状なし。


次話は明日の17:00に投稿します。


1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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