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第21話 再挑戦

 来た。


 朝の気配を確認した瞬間に、俺はすぐわかった。


 入り口に四つの気配。動き方のパターンが、あの四人組と同じだ。盾役が先頭、エルフが後方左、小柄な人物が後方右、若い男が最後尾。隊列の間隔まで一致している。


 前回から十日が経っていた。


 傷を癒して、作戦を練り直して、戻ってきた。予想はしていた。だが実際に来ると、俺の中で何かが静かに引き締まった。


『来たね』


 シアの声が念話越しに届いた。今日のシアは四層の奥にいる。昨日のうちに、いざというときのために移動しておくよう伝えておいた。


『ああ。始まる』


『新しい配置、通じるかな』


『やってみなければわからない』


 四人が入り口に踏み込んでくる。


 一層。


 前回と同じように、盾役が壁に背をつけながら慎重に進んでいる。前回の地図を持ってきているはずだ。エルフが地図を広げて確認している動作が感覚でわかった。


 だがここで最初の変化が起きた。


 一層の入り口から三方向に分岐している。前回は一本道だった。エルフが地図と現実の食い違いに気づき、盾役に何かを告げた。四人が立ち止まって相談している。


 いい兆候だ。


 想定外の状況に直面したとき、人間は少し判断が遅れる。


 四人が左のルートを選んだ。


 左ルートの落とし穴を通過する手前で、俺はゴブリン三体を壁の影から出した。奇襲の角度は前回と全く違う位置からだ。


 エルフが即座に矢を番えたが、狭い通路で三方向からゴブリンが来る形になり、一体は弾かれたが二体が前衛に絡みついた。盾役が対処する間に、合流地点の広間へ誘導する形でじわじわ後退させる。


 広間にゴブリン残り六体が待ち構えていた。


 合計九体。前回一層で相手にしたゴブリンの数より多い。


 さすがに盾役の顔が険しくなった。


 それでも四人の連携は崩れなかった。エルフが後方から矢を放ち続け、若い男が機動力で側面を潰す。小柄な人物が消耗品を惜しまず使い、盾役が正面の圧力を受け続ける。


 十五分かかった。前回の一層突破が七分だったことを考えると、倍以上の時間を使わせた。消耗品の消費量も前回より明らかに多いはずだ。


『一層、突破された』


 シアが静かに言った。


『わかってる。想定内だ』


 二層。


 ここが今日の最初の本番だ。


 四人が二層に入ってきた瞬間、エルフがまた地図と見比べて立ち止まった。増やした曲がり角と、合流地点の構造が前回と違う。前回のマップが役に立たない部分が出てきた。


 四人がゆっくりと慎重に進み始めた。


 最初の分岐でコボルト四体を解き放った。前回と違い、分岐の手前ではなく手前と奥の両方から挟む形だ。


 エルフが後方の二体に対応するため振り返った。その瞬間、前方のコボルト二体が一気に詰めた。盾役が対応するが、今度は後方支援がない。若い男が素早くフォローに入ったが、その間に退路側の火炎トラップを起動した。


 炎が退路の通路に広がった。


 四人が前方に押し込まれる。コボルトとの乱戦が続く中で、後退の選択肢が消えた。


 前に進むしかない状況を作った。


 コボルト四体の全滅まで十二分。前回より三分長い。小柄な人物の消耗品が相当減っているはずだ。


 合流地点の関所に、強化オークが待ち構えていた。


 盾役が一瞬、足を止めた。前回は挟み込みで来た強化オークが、今回は正面から仁王立ちしている。通路の幅いっぱいに体を張り、後ろへは通さないという布陣だ。


 十八分の戦闘だった。


 盾役と若い男の全力攻撃、エルフの精確な矢、小柄な人物の支援薬。それだけの戦力を集中させてようやく強化オークが膝をついた。四人全員が無傷ではない。盾役の足に深い切り傷。若い男の右腕に打ち傷。エルフも消耗が見えた。


 二層突破まで合計四十五分。


 前回の二層突破に比べて、三倍近い時間と消耗を引き出した。


 三層。


 四人が入ってきたとき、盾役がシアの居住空間の痕跡を目にした。先日と同じ反応をした。だが今回は立ち止まらず、そのまま進んだ。慣れたのか、割り切ったのかはわからない。


 三層は今回、前半と後半に分けた防衛ラインを設けてある。前半に強化ゴブリン二体と落とし穴三か所。後半に通常ゴブリン四体と毒ガストラップ。


 前半の強化ゴブリンが前回より粘った。二体で二十分近く足を止めた。ただし消耗品を多く使わせた代わりに、こちらの損耗も大きかった。強化ゴブリン二体とも倒された。


 後半の毒ガストラップが直撃した。


 盾役が毒を受けた。動きが鈍くなる。小柄な人物が解毒薬を使ったが、完全回復ではないようで、盾役の動きが少し重くなった。


 ゴブリン四体との戦闘中、盾役の連携が崩れる場面があった。それでも四人は立て直し、三層後半を突破した。


 三層突破まで、二層からさらに五十分。


 累計二時間近い戦闘だ。


 四層。


 ここまで来た四人の状態を確認した。盾役は毒の影響が残っている。若い男は右腕をまだかばっている。エルフは矢を相当使い果たしている。小柄な人物の消耗品の袋が明らかに軽くなっていた。


 四層の入口に差し掛かったとき、四人が立ち止まった。


 盾役が仲間たちに何かを言った。全員がうなずく。そのまま先へ進もうとした。


 そこで俺は四層の守りを展開した。


 四層には今日のために、通常ゴブリン三体を追加配置してあった。加えて、階段の踊り場に魔法陣トラップではなく、昨日設置した追加の落とし穴を二か所。四層はまだ整備途中だが、消耗しきった相手には十分な壁になる。


 ゴブリン三体が出た瞬間、若い男がよろけた。かばっていた右腕を無理に使ったらしい。エルフが矢を番えたが、残弾が少ないのか一本だけ放って腰のナイフに切り替えた。


 盾役が踏ん張った。毒が残っていても、それでも前に出た。


 だが小柄な人物が立ち止まった。


 仲間たちを見回して、首を振った。


 盾役が振り返った。小柄な人物がもう一度、静かに首を振った。


 盾役が数秒間、四層の奥を見つめた。


 それから、剣を収めた。


 撤退だ。


 俺はゴブリンを追わせなかった。四人が四層から三層へ、三層から二層へ、一層を抜けて外に出るまで、静かに見送った。


 入り口が静かになった。


 シアが四層の奥から戻ってきた。


『終わった?』


『終わった。四層手前で撤退させた』


 少し間があった。


『……やったじゃない』


 シアの声に、ほっとしたような色がにじんでいた。


『ああ』


 俺は今日の戦闘を整理した。


 一層から四層の入口手前まで、約二時間。前回は三層まで突破されて、シアを四層に追いやって、魔法陣トラップを一基使い切って、ようやく追い返した。


 今回は四層の手前で止めた。消耗品の大量消費を引き出した。魔法陣トラップは温存できた。


 これが「勝った」ということだと思った。


 派手な勝ち方ではない。相手を圧倒したわけでもない。だが前回の反省を活かした設計が機能した。シアのアイデアが機能した。消耗戦で上回った。


 それで十分だ。


『ケンジ』


『何だ』


『今日、強かったよね。ダンジョン』


『設計を直した結果だ』


『でもそれって、ケンジが考えたんじゃない』


『お前のアイデアも入ってる』


 シアが少し黙った。


『……そっか。私たちが勝ったんだ』


『そうだ』


 俺は短く返してから、今日のDP収支を確認し始めた。


 Dランク冒険者四人撃退で600P。一層・二層・三層・四層の戦闘での積み上げ分を合わせると、今日の獲得は相当な額になる。


 計算しながら、俺はそれとなく五層の奥を確認した。


 ガルムが定位置に立っている。今日は出番がなかった。


 それでいい。


 四層まで来させない。それが今後の目標だ。


---


DP残高:8,405P

配備戦力:ゴブリン×4体(強化2を含む6体が今日の戦闘で喪失・再生成なし) 強化オーク×0体(2層関所で喪失) 強化オーク【ガルム】×1体(5層番人・温存) コボルト×2体(4体喪失)

落とし穴×10か所 毒ガストラップ×1(使用) 火炎トラップ×2 宝箸×1

本日の収支:+1,830P(Dランク冒険者×4撃退600P・各層戦闘消耗引き出し分含む) 消耗品による損耗補正なし 純増:+1,230P

現在のダンジョン規模:5層 推定ランク:E

課題:2層の関所役・強化オークが喪失。戦闘後の戦力再建が急務。ただし設計の有効性は実証済み。DP蓄積ペースが上向きに転じた。


次話は明日の17:00に投稿します。


1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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