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第20話 番人の誕生

 再設計から五日が経った。


 あの四人組はまだ来ていない。ほかに野盗が二組と、周辺をうろついていたオーク三体が一層に踏み込んできたが、いずれも新しい配置で問題なく撃退できた。退路側の火炎トラップは野盗の一組に有効だった。撤退を始めた瞬間に起動したら、二人がまとめて転んで残りの戦力で仕留めた。シアの提案は正しかった。


 DP残高は少しずつ回復している。


 そろそろ次の手を打つ時期だと思っていた。


 問題は五層だ。


 今の五層には何もない。階層を追加したときに枠だけ作ったが、中身を整備する余裕がなかった。通路と空洞があるだけで、モンスターも罠も配置していない。コアはこの五層の最奥に存在している。


 五層が空のまま四層まで突破されたら、次はコアへの一本道だ。


 それは困る。


 俺は今日の朝から、五層の整備方針を考えていた。DP収支と睨めっこしながら、どこに何を置くか。


 そこにシアが口を挟んできた。


『ねえ、ケンジ』


『何だ』


『五層って、まだ何もないんだよね』


『そうだ。今日から整備する』


『じゃあ、強い番人を置こうよ』


 番人、という言葉を使ったのが少し引っかかった。


『番人?』


『うん。一層から四層はいろんな罠とか小さいモンスターがいっぱいいるじゃない。でも五層は最後の砦でしょ。だったら、一番強いのを一体どーんと置いたほうがいいと思う』


 俺は少し考えた。


 方向性は悪くない。今の防衛設計は「消耗させながら押し返す」構造だ。各層で少しずつ削って、最終的に疲弊した状態で突き当たらせる。その突き当たりに強力な壁を一枚置く。理にかなっている。


 問題は戦力の質だ。


 今いる強化オークは一体だけで、二層の関所に配備している。五層用に別途、上位のモンスターを用意する必要がある。


 選択肢を整理した。


 オークをさらに強化する場合、まず新たに一体生成して(50P)、そこから二段階の強化をかける。一段階目で100P、二段階目で200P。合計350P。通常の強化オークより明らかに上の個体ができる。


 あるいはトロルを生成する手もある。200Pで生成できるが、五層専用に置くには少し費用が重い。今の残高から出せないわけではないが、そのあとの余裕が減る。


 俺が頭の中で計算していると、シアがまた口を開いた。


『強いオークを作るんだよね、きっと』


『二段階強化する。五層の番人にする』


『なら名前をつけよう』


 俺は少し止まった。


『……名前』


『そう。番人なんだから、名前があったほうがいいと思う』


 名前か。


 モンスターを生成して以来、俺は個々のモンスターに名前をつけたことはなかった。ゴブリンはゴブリン、オークはオーク、コボルトはコボルトだ。機能として配置して、倒されたら再生成する。それだけの存在として扱ってきた。


 ただ、今回は少し違う。五層に一体だけ置く最強の番人だ。他と同じ扱いをするのが適切かというと、少し考えてしまった。


『何にするつもりだ』


『ガルム』


 即答だった。


『……何だそれは』


『番人っぽくない? なんか強そうで、でも名前として呼びやすいじゃない』


 ガルム。


 俺は少しの間、その名前を頭の中で転がした。


 確かに悪くはない。音の硬さがある。番人という役割にも合っている。ただ俺は命名のセンスを評価できる立場にないので、可もなく不可もなくという判断しかできない。


『好きにしろ』


『やった。ガルムね』


 シアが少し弾んだ声を出した。


 俺は黙って強化オークの生成に取りかかった。


 まず新規に一体生成する。50P消費。


 生成されたオークは通常サイズだ。体高2メートル弱、分厚い筋肉、鈍重だが力は強い。一層の連中とは格が違うが、まだボスと呼べる水準ではない。


 一段階目の強化をかける。100P消費。


 体格がひと回り大きくなった。皮膚が厚くなり、矢程度では止まらなくなる。動きも心なしか機敏になった気がする。


 二段階目の強化をかける。200P消費。


 変化が明確になった。体高は2.5メートルを超えた。筋肉の密度が上がり、体表に薄い鱗のような硬化が始まっている。目の色が赤みを帯びた。これは通常の強化オークとは別物だ。


 合計350P消費。残高は現時点で7,645Pから350P引いた7,295Pになる計算だ。


 俺は新たな個体を五層の最奥寄り、コアへの通路が一本に絞られる地点へ誘導した。そこに立たせる。


 五層はまだ整備途中だが、この個体がいるだけで様相が変わった。


 通路の突き当たりに、巨大な影がある。


 それだけで「ここから先は違う」という圧力が生まれる。


 シアが気配を探るように少し沈黙した後で言った。


『……でかいね』


『強化二段階かけた。今いる強化オークとは別物だ』


『ガルムって呼んでいい?』


『俺に聞くな。お前がつけた名前だろ』


 シアがくすっと笑った気配があった。


『ガルム、よろしくね』


 当然、ガルムから反応はない。意志を持つモンスターではないからだ。ただ俺の制御に従って、そこに立っているだけだ。


 だがシアはそれでよかったようで、満足そうに気配を落ち着かせた。


 俺は五層の残りの整備に移った。


 ガルム一体だけでは心もとない。通路に落とし穴を二か所追加する(40P消費)。コアへの一本道の手前に毒ガストラップをもう一基設置する(80P消費)。


 これで五層は「強力な番人と複数の罠」という構成になった。四層まで突破してきた相手も、ここで相当消耗するはずだ。


 合計470P消費。


 一通り終わってから、俺はDP残高を確認した。


 7,645Pから470P引いて、7,175P。


 まだ心もとない数字だが、五層に番人が立ったという事実は大きい。これで「コアへの最後の壁」が一枚できた。


 シアが静かに言った。


『ねえ、ケンジ』


『何だ』


『ガルム、ちゃんと強い?』


『今の冒険者が来ても、簡単には抜けられない水準にはなった』


『じゃあ安心だね』


『安心はまだ早い。三層と四層の防衛がまだ薄い』


『……ケンジってほんとに、ちょっとも安心しないよね』


 俺は少し考えた。


『安心するのは百万P貯まったときでいい』


 百万という数字は口から出て初めて、随分と遠いなと思った。今の残高の百倍以上だ。


 シアが少し笑った。


『それまで待つの、長いなあ』


『そうだな』


 長い。


 だが目標があるのは悪いことではない。


 俺は五層の仕上がりをもう一度確認した。通路の奥、コアへの一本道の手前に、ガルムと名付けられた番人がいる。


 名前をつけることに、最初は意味を感じなかった。


 だが今、その個体がそこに立っているのを感じながら、少しだけ考え方が変わった気がした。


 ガルム。五層の番人。


 悪くない。


---


DP残高:7,175P

配備戦力:ゴブリン×9体(強化2含む) 強化オーク×1体(2層関所) 強化オーク【ガルム】×1体(5層番人・二段階強化) コボルト×6体

落とし穴×10か所 毒ガストラップ×2 火炎トラップ×2 宝箱×1

本日の収支:+650P(野盗・野生モンスター撃退) ガルム生成・強化:-350P 五層トラップ整備:-120P 純増:+180P

現在のダンジョン規模:5層 推定ランク:E

課題:三層・四層の防衛密度がまだ薄い。五層番人【ガルム】の配備により最終防衛ラインは確立。DP蓄積を継続しながら中間層の強化を進める。


次話は明日の17:00に投稿します。


1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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