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第15話_自称Eランク達成

 三層目が完成した翌日から、俺はすぐに四層目の計画に入った。


 Eランクの最低条件は三層以上だが、実際に冒険者ギルドに認定されるには「Dランクパーティが攻略を試みられる水準」が必要だとシアから聞いていた。三層では心もとない。四層まで仕上げて、各層に相応の戦力を揃えてから認定を受けに行く方が確実だ。


 問題は費用だった。


 四層目の追加コスト:4,000P。


 今のDP残高:9,900P。使えないことはないが、使った後の余裕がほとんどない。戦力の補充や予備の確保を考えると、収入をある程度積み上げてから動くべきか。


 それをシアに話すと、短い沈黙の後で言った。


「今すぐ増やした方がいい。三層のままでいる期間が長いほど、同じ話が続く」


『どういう意味だ』


「奴隷狩りが来る。野生の魔物が来る。同じことが繰り返されるだけ。四層になれば冒険者が来るようになるかもしれない。来る人間の種類が変われば、状況が変わる」


 シアが外の世界の視点から言っていることは、俺の計算より先を見ていた。


『収入を積み増してからという考えもある』


「どのくらいで積み増せる?」


『二週間あれば1,000Pは増える。ただし同じ種類の侵入者と同じ戦いを続けるだけだ』


「だったら今やった方がいい。二週間後より今の方が傷が浅い」


 俺はその判断を採用した。


────────────────────────────────────


 四層目の拡張を開始した。4,000P消費。DP残高:5,900P。


 数字を見ると少し焦る感覚があった。転生直後の10,000Pという初期資本からすれば、今の方が少ない。だがそれは投資した結果であって、手元の価値が下がったわけではない。層が増え、戦力が増え、二人の権能の練度が上がった。数字以外の部分で積み重なっているものがある。


 そう理解していても、残高が5,000P台というのは落ち着かなかった。


 シアが四層目の設計に入りながら言った。


「一層目とは全然違う形にしたい」


『どんな形だ』


「天井が高いところと低いところを混ぜたい。背が高い人間や大きいモンスターが動きにくい場所を作る。オークみたいな相手には有効じゃないかと思って」


 これも実戦から来た発想だった。この前のオーク戦を俺と同様に分析していたということだ。


『採用する。ただし一部だけだ。天井を全部低くすると今度はこちらのゴブリンも動きにくくなる』


「そっか。バランスが必要か」


『お前が考えて提案してくれるなら助かる。俺の感知では天井の高低より広さや通路の形に意識が向く。お前の視点とは少し違う』


「わたしは体があるから、そっちの方がよくわかる」


 それは確かだった。体を持って空間の中を動いた経験は、俺には一切ない。シアが補っている部分だ。


────────────────────────────────────


 四層目の構築と並行して、戦力の増強も進めた。


 まずコボルトを生成することにした。ゴブリンとは違う機動力を持つ種で、野生コボルトとの交戦で特性は把握していた。速く、回避能力が高い。ゴブリンの集団戦に組み合わせると、相互補完が期待できる。


 八体を順次生成した。15P×8=120P消費。DP残高:5,780P。


 ゴブリンも一体追加した。合計十二体。10P消費。DP残高:5,770P。


 新たな落とし穴を三層目と四層目に合計六か所追加した。20P×6=120P消費。DP残高:5,650P。


 この時点で俺の中で一度整理をした。


 四層。ゴブリン十二体。コボルト八体。落とし穴合計十二か所(各層三か所)。宝箱一つ。


 シアがダンジョンマスターとして権能を行使できる。念話で俺と常時接続されている。コボルトとゴブリンの混成防衛が機能し始めている。


 Eランクの基準に届いた、という感触があった。


────────────────────────────────────


 四層目の完成が見えてきた夕方、シアが三層目と四層目の通路を歩き回りながら言った。


「ここ、けっこう複雑になってきたね」


『意図してそうしている』


「迷子になりそう」


『お前はならないだろう。感知が使える』


「あ、そっか」シアが立ち止まった。「わたしって今、目をつぶっても歩けるんだ」


『試すな』


「試さないよ」笑い声が聞こえた。「でも、一ヶ月前とは全然違うね。最初は全部暗くて怖かったのに」


 俺は最初の夜を思い出した。追手から逃げ込んできた子が、壁際で膝を抱えていた。洞穴の暗さが怖かった。水の揺れでしか話せなかった。落とし穴の一つも自分では動かせなかった。


 今は四層を感知しながら歩いている。


『変わった』


「ケンジもでしょ」


『俺は石だ。変わらない』


「そんなことないと思うけど」シアが通路の壁を軽く叩いた。「前より話が長くなってる」


 俺は反論しようとして、できなかった。


 確かにそうかもしれなかった。


────────────────────────────────────


 四層目が完成した日の夜、俺は今の状態を総合的に確認した。


 DP残高:7,580P。


 四層目完成後も断続的に侵入者が来ていたおかげで、消費を補う収入が入っていた。各層のコボルトとゴブリンの混成防衛が機能し始め、一体あたりの損耗が減った。効率が上がっている。


 Eランク基準:達成。


 そこまで確認して、俺はシアに伝えた。


『一段落だ』


 シアが顔を上げた。


「Eランクになった?」


『正式な認定はまだだ。ギルドによる確認と承認が必要になる。ただ、基準は満たした』


「やったじゃん!」


 シアの声が洞穴に響いた。嬉しいというより、弾けたような声だった。


「ここまで来たね。一ヶ月前は一層しかなかったのに」


『一ヶ月と少しだ』


「まだまだこれからだよ!」


 元気のいい声だった。俺は少しの間、その声の残響を感知した。


『そうだな』


「D、C、Bって上があるんでしょ。目指すんでしょ」


『順番にやる』


「一番上は何ランクだっけ」


『特Sランク。七十層超、Sランク以上が必須の伝説級だ』


 シアが少し黙った。


「……気が遠くなる」


『俺も同じことを思った』


「でも、一ヶ月前も同じ感じだったかもしれない。Eランクなんて届かないんじゃないかって思ってたかも」


『届いた』


「届いた」シアが繰り返した。「じゃあその先も届くよ、きっと」


 根拠のない楽観だ、と俺は思った。だがこの一ヶ月を振り返ると、根拠がゼロとも言い切れなかった。


────────────────────────────────────


 シアが眠りについてから、俺はひとり、今の洞穴を感知した。


 四層。ゴブリン十二体。コボルト八体。十二か所の落とし穴。念話が通じるシア。


 転生直後の、一層・ゴブリン五体・落とし穴三か所と比べれば、別物だ。


 一段落、と言った。本心だった。


 ただしシアが言った通り、先はある。Dランク、Cランク、Bランク、Aランク、Sランク、特Sランク。上を見れば際限がない。最終的な目標を考えれば、今の達成はほんの入り口だ。


 それでも、今日は一段落だ。


 明日からまた動けばいい。


 そのとき、シアの声が念話越しに届いた。


『ねえ、ケンジ。外に……人が来てる』


 俺は一層目の感知を向けた。

 森の方から、こちらをうかがう気配があった。野盗でも野生の魔物でもない。装備を持った人間が、複数。

 ゆっくりと、しかし目的を持って近づいてくる。


 これは——冒険者だ。


────────────────────────────────────


             *


DP残高:7,580P

配備戦力:ゴブリン×12体 コボルト×8体 落とし穴×12か所(各層3か所) 宝箱×1

本フェーズの総投資:4層追加(1,000+2,000+4,000=7,000P) コボルト×8(120P) ゴブリン×1(10P) 落とし穴×6(120P)

現在のダンジョン規模:4層 推定ランク:E(基準達成・正式認定にはギルドの承認が必要)

次のフェーズへ:正式なEランク認定・冒険者ギルドとの接触が近い課題に


────────────────────────────────────

第一章完結しました。

次回からは第二章に入ります。

これまで以上に様々な侵入者を撃退しながら力をつけていき、ギルドによるEランク正式認定とさらなるランクアップを目指していきます。

また、シアの過去とこの世界の常識が明らかになっていきます。


次話は明日の17:00に投稿します。


1日1話投稿の予定になります。


よろしくお願いいたします。

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