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第1章 Ep7:レイヤー1(物理層)をこじ開けろ


 領主館の前庭に、数百人の男たちが集まっていた。

 彼らは皆、着古した服を着た領民たちだ。その手にはスコップやツルハシが握られている。


「よく集まったわね、ワーカー(作業員)たち!」


 私は屋敷のバルコニーから声を張り上げた。

 アイリーンが拡声魔法を使ってくれているおかげで、隅々まで声が届く。


「本日より、ノクターン領の『大規模バージョンアップ』を開始する! 最初のターゲットは『道』よ! この泥沼のクソ回線を、光の速さで物流が流れるスーパーハイウェイに変えるの!」


 領民たちはポカンとしている。

 無理もない。「回線」とか「ハイウェイ」とか言われても意味不明だろう。

 だが、次の言葉で彼らの目の色が変わった。


「日当は銀貨5枚! 飯付き! 残業代は割り増しで出すわ!」


 おおおおおおっ!!

 野太い歓声が上がった。

 現金キャッシュこそ最強のモチベーション。これは前世でも今世でも変わらない真理だ。


「ジェム、設計図ブループリントを展開!」

『了解! ARガイド、表示するよ!』


 空中に青白い光のラインが走った。

 領主館から城門まで続くメインストリートの上に、完成形の道路イメージが投影される。

 領民たちには見えていないが、私と四重奏にはハッキリと見えている。


「工期は3日! 死ぬ気で掘りなさい!」


## 2. 魔法という名の3Dプリンタ


 工事が始まった。

 本来なら数ヶ月かかる土木工事だが、私にはチートがある。

 それは「魔法」だ。この世界の貴族は魔力を持っている。

 だが、私は火の玉を飛ばしたり、水を出すような使い方はしない。


「土魔法・硬化ハーデニング形状固定フィックス。……よし」


 私は現場の最前線で、泥濘んだ地面に杖を突き立てていた。

 イメージするのは「アスファルト」と「コンクリート」。

 泥の水分を抜き、土壌粒子を結合させ、石畳よりも滑らかで強固な一枚板に変えていく。


「お、お嬢様が……魔法で土を固めている……」

「すげえ、一瞬で道ができちまったぞ……」


 領民たちが驚愕の声を漏らす。

 彼らにとって魔法とは「戦闘用」か「貴族の遊び道具」でしかない。

 だが私にとって魔法とは「現地施工用3Dプリンタ」だ。


「はいそこ! 傾斜が足りないわよ! 水捌けを考えなさい!」

排水溝ドレインの深さが設計図と1ミリずれてる! やり直し!」


 私は鬼現場監督として怒号を飛ばし続けた。

 道路だけではない。地下には「下水道」という名の巨大なメモリ領域(ゴミ捨て場)も同時並行で作っている。

 汚水を垂れ流しにするから、町が臭くなり、病気が流行る(ウイルス感染する)のだ。

 汚水と雨水を分離し、浄化槽へ送る。

 これは「ガベージコレクション(不要メモリの回収)」の実装だ。


「お嬢様、休憩を……」

「いらない! カフェイン持ってきて!」


 私の目は血走っていた。

 楽しい。

 最高に楽しい。

 汚かったコード(道)が綺麗にリファクタリングされていく快感。

 目に見えて成果が出る土木工事は、終わりの見えないデバッグ作業に比べて精神衛生上とても良い。


 三日三晩、私は不眠不休で魔法を使い続けた。

 魔力切れ? 関係ない。魔力回復ポーションをガブ飲みして強引に回す。

 心拍数が上がろうが、肌が荒れようが、道が完成するなら安いものだ。


 そして。


「……できた」


 朝日の中、一本の道が輝いていた。

 領主館から城門までを一直線に貫く、幅広で平坦なグレーの道。

 泥ひとつなく、馬車が滑るように走れる「舗装道路」だ。


「すげえ……本当にできちまった……」

「俺たちの町じゃねえみたいだ……」


 泥だらけの作業員たちが、呆然と立ち尽くしている。

 私はよろめきながら、アイリーンに支えられた。


「見たか……これが……文明インフラよ……」


 私は満足げに呟き、そのまま気絶した(スリープモード移行)。

 後世の歴史書に『ノワールの奇跡』と記される爆速工事の、記念すべき第一歩だった。


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