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第6章 Ep3:元カレ連合

1. 地獄の同窓会


 花壇を挟んで、5人の男たちが対峙していた。


 彼らはかつて、各章でレティシア(あるいはマリエル)と敵対し、あるいは協力した者たちだ。


 第一王子・ユリウスは、彼女を『王妃』として支配下に置くことを夢見ていた。

 近衛騎士団長・グレンは、彼女を『護衛対象』として生涯守護することを誓っていた。

 宮廷魔導長官・サイラスは、彼女を『秘密の愛人』として秘匿することを望んでいた。

 宰相・ルシウスは、彼女を『国政の道具』として操作することを計画していた。

 スラム出身のギルバートは、彼女を『逃亡相手』として自由を約束していた。


 これまでの周回では、彼らはいずれも『敵対するルート』か『協力するルート』のいずれかの立場にあった。


 だが、6周目は違う。


 全員の瞳が「濁ったハート色」に染まっていた。


 そして、その『ハート色』は、互いに『違う周波数』で脈動している。つまり、彼らは『同じゲーム』を『違うNGワード基準』で実行しているのだ。


「退きなさい」


 ユリウス王太子が、淡い銀色の王剣を、ゆっくりと抜刀する。その動作には『儀式的な優雅さ』がある。


「レティシアは第一王子である私のものです。国法により、彼女は『王妃候補』として保護される身。したがって、他の誰が何を言おうと、彼女の将来は私が決定する。彼女を私の宮殿に閉じ込め、一生手錠をかけて飼うのです」


 その言葉の『重さ』は、単なる表現ではなく、物理的な『重力場の歪み』を生み出している。


「ふふ、素敵でしょう? 私たち二人だけの、永遠の……」


「甘いですね、殿下」


 宰相ルシウスが、冷たく笑う。その笑顔には『上位捕食者の安定感』がある。


「彼女は、単なる『王妃候補』ではない。彼女は『このゲームシステムそのもの』の中核を成す存在だ。したがって、彼女は『人間』として扱うべきではなく、『管理対象』として構成し直すべきだ」


 ルシウスが、魔法の杖を一振りする。その瞬間、周囲の空気が『情報管理システム』の形態に変質し始める。


「彼女の食事、睡眠、排泄、思考の全てを、私が記録し、コントロールする。1秒たりとも自由にはさせない。そうすることが、真の『愛情』というものではないですか」


「いや、間違っている」


 近衛騎士団長グレンが、大剣を地面に立てる。その音は『金属音』というより『心臓音』のように響いた。


「彼女は、何より『危険』だ。このゲームの『バグの塊』であり、システムの『裂け目』そのものである。だからこそ、保護ではなく『拘束』が必要なのだ」


 彼は、その大剣を反転させる。刃先が、自分の『心臓』の方向を向く。


「俺が彼女を……手足を切り落としてでも俺が守る。動けなければ、もう危険な目には遭わないだろう。外部との接触も、逃亡も不可能だ。そして、俺だけが彼女を世話できる。完全に依存させられる。そうすれば、彼女は永遠に俺のそばにいる」


「野蛮だねぇ」


 宮廷魔導長官サイラスが、虚空に『氷の結晶』を浮かべる。その結晶は、淡い青白い光を放ち、周囲の温度を急速に低下させ始める。


「もっと美しく。彼女を『永遠の氷の結晶』の中に封入してあげるべきだ。そうすれば、老いることもなく、劣化することもなく、ずっと僕のそばにいられる。完璧な姿のままで。彼女は『保存すべき芸術作品』なのです」


 氷は、段階的に周囲へと膨張し始める。


「あんたらの愛は重すぎるんだよ」


 スラム出身のギルバートが、暗い色の短剣を舐める。その動作は『捕食動物の本能』そのものだ。


「俺は違う。俺なら、誰にも見つからない地下室で、二人きりで暮らしてやるよ。外の世界なんて見なくていい。太陽なんて見なくていい。お前が光だ。お前がお前自身であり続ければ、それでいい。俺がお前の『全て』になる」


 その言葉は、一見すると『最も誠実な愛情告白』に聞こえる。


 だが、その本質は『最も完全な監禁宣言』なのだ。


## 2. バトルロイヤル


 議論は平行線だった。


 彼らの『愛』(執着)は、互いに相容れない「独占欲」だったからだ。


 ユリウスは『王権による支配』を求めている。

 ルシウスは『情報管理による操作』を求めている。

 グレンは『肉体的拘束による保護』を求めている。

 サイラスは『永遠化による封印』を求めている。

 ギルバートは『世界からの隔離による独占』を求めている。


 この五人の『愛』が同時に実現することは、物理的・論理的・概念的に不可能なのだ。


「……交渉決裂ですね」


 ルシウスが、静かに呟く。


「では、ここは『力関係』で決着をつけるしかない」


「同意だ」


 グレンが、大剣を構え直す。


「俺たちが争う間に、彼女たちは逃げるだろう。だが、それでいい。力関係で上回る者が、最終的に彼女を手に入れる。それが『適正な秩序』だ」


「死んでもらいましょう」


 ユリウスが、王剣を天に向ける。


 ドォォォォォォン!!


 5つの『殺意』が、同時に衝突した。


 結界魔法と剣技と暗器と杖による呪い。


 この国最高峰の戦力が、一人の少女を巡って『殺し合い(バトルロイヤル)』を始めたのだ。


 校舎が吹き飛ぶ。


 地面がえぐれる。


 中庭の『愛のゾンビ』たちすら、その『圧倒的な破壊力』に飲み込まれ、吹き飛ばされていく。


 戦闘の規模は、既に『個人間の決闘』ではなく『国家規模の紛争』へと膨張していた。


 空気が震える。

 重力が歪む。

 時間の流れすら、段階的に変質していく。


 これは、もはや『学園の敷地内』では収まらない。街全体が、この『ヤンデレバトル』の巻き添えを食らうだろう。


 騎士団長グレンの大剣の一撃は、直径十メートルの『クレーター』を地面に刻み込む。

 王太子ユリウスの王剣は、『空間ごと』を切断する光を放つ。

 宰相ルシウスの呪いは、時間軸そのものを『遅延』させる。

 魔導長官サイラスの氷は、『絶対零度』に近い温度で周囲を冷凍化させる。

 ギルバートの短剣は、『次元を超える』かのような軌跡を描く。


 五人が出力する『殺傷力』の合計は、もはや単なる『武力衝突』の域を超えている。


 それは『世界そのものの破壊』へと繋がっていく。


## 3. 逃走


「ひぃぃぃぃ!?」


 レティシアが、その光景を目の当たりにして、悲鳴を上げた。


「なにあれ怪獣大戦争!? 五人で同時に全力出してんの!?」


 マリエルも、呆然として、爆発の炎を見つめている。


 彼女たちの『攻略対象』だった五人の男たちは、こんなに『強かった』のか?


 これまでの周回では、彼らはいずれも『敵対ルート』において『最終ボス級』の強さを発揮していた。しかし同時に、『協力ルート』においては『プレイヤーの指示に従う同盟者』に過ぎなかった。


 だが、6周目の彼らは違う。


 全員が『完全な狂気に支配された独立した敵』なのだ。


 そして、その狂気が生み出す『破壊力』は、彼ら自身の『本来の力』をはるかに超えている。


「マリエル、今よ!」


 レティシアが、マリエルの腕を掴む。その瞬間、彼女の『SE時代の本能』が、最後の防衛線として起動する。


「奴らが潰し合っている間に逃げるわよ! その方向! 北西!」


 二人は、花壇から飛び出し、爆発と炎を避けながら、校舎の裏門へと駆け抜ける。


 その速度は『本気の逃亡速度』。SE時代にシステムトラブルで追われた時よりも、さらに高速だ。


 後ろを見るな。

 振り返るな。

 ただ、前に進め。


 その呪文を自分たちに唱えかけながら、二人は街の外へ向かう。


 目指すは「国境」。


 この『狂った国』を脱出し、隣国へ亡命するしかない。


「隣国のフレデリック皇太子……!」


 レティシアが、走りながら叫ぶ。


 フレデリック皇太子。


 隣国の統治者。


 『乙女ゲーム』の全シナリオには登場しない『ナップサック外の人物』。


 だが、各章の『フレーバーテキスト』には、彼についての記述がある。


『高潔なる聖人』

『道徳心に溢れた統治者』

『女性に優しく、けれど厳格なる判断力を備えた理想的な君主』


「彼ならきっとまともなはず!」


 レティシアが、その『フレーバーテキスト』を頼りに、亡命を決断する。


 別の国のシステムなら、このゲームの『バグの連鎖』から逃げ切れるかもしれない。


「そうだよ!」


 マリエルが、聖女としての『一縷の希望』を胸に秘めて続く。


「彼は設定資料集でも『高潔な聖人』って書いてあったもん!」


 背後で爆発音が響く。


 その音は、段階的に大きくなっていく。


 まるで『世界そのもの』が『ヤンデレバトル』の影響で、崩壊しようとしているかのように。


 モザイク姿の二人は、『疾走・急ぎの術(ダッシュ:走力ブースト)』を発動させるかのような勢いで、街の縁へと向かっていく。


 一縷の望みをかけた逃亡劇。


 隣国への亡命。


 『新しいゲームルート』への希望。


 しかし、彼女たちは、致命的な事実を忘れていた。


 この世界の「設定」など、とっくに『根本的に崩壊』していることを。


 『乙女ゲーム』だと思っていたものは、実は『システム全体が狂気に支配されたパンデミック・ホラー』なのだ。


 隣国も、その『感染圏域』の内側なのではないだろうか……?


 そして、フレデリック皇太子という『NPC』も、既に『同じ狂気』に支配されているのではないだろうか……?


 その『恐怖』は、彼女たちの脳裏をかすめるが、しかし『立ち止まる理由』にはならない。


 だが、今のレティシアとマリエルにとって、それを確認する手段はない。


 ただ、『希望を信じて走る』しかないのだ。


 たとえそれが『絶望への跳躍』だったとしても。


 国境の先にあるのは、果たして『救い』なのか『陥阱』なのか。


 その『真実』は、次の周回で明かされるのである。


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