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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
白黒つけるぜ武闘祭!
91/117

第九十一話 フューを支えられる人間になりたいんだよ! ~立ち上がれトバリ、決着の準決勝!~

 心を折る。

 それは彼女が一番、取りたくない選択だった。だからこそ結果の分かりきっていた手段に頼ってしまった。

「自分の甘さにヘドが出るよ、ねえ?」

 トバリに同意を求めてうっすらと笑い、自らの頭上でぶらりと揺れる足を指す。

 少女の足だ。紫色の魔法陣によって転移され、踏みつけるべき地面が無くなったことで先程、トバリは体勢を崩したのだ。

 その真下で掲げた掌から生み出された新たな紫色の魔法陣から、槍が射出され少女の爪先をあっさりと貫く。起き上がろうともがく少女は新たな痛みに悲鳴を上げた。

「うっはー、すんごい威力! こんなん私に投げたのね」

 天井となる高さ十メートルは有ろうかという結界に達し、落下する槍を受け止める。魔法陣が掻き消えて転移されていた少女の足は元の位置へと収まった。

 彼女が手に持つ槍、それは間違いなく、トバリがフューへ向けて放った槍だった。少女が知る由も無かろうが、転移魔法の出口を生成させず入口である魔法陣へ入り込んだ物体、その運動能力をそのままに保存する高等技術だ。

 常に魔法を制御する集中力と取り込んだ物体を目視、もしくは魔法にて解析し認識する知識と技術が必要となる。知見の浅い者が見ればただの出し入れに過ぎないが、魔術師として技術を高めた者はその複雑さに驚くだろう。

 戦士であるにも関わらず、これ程までの魔術師としての技量を持つのかと。

「……うぅ……う……」

「直ぐには動けない? そんならこっちからね」

 穂先の血を払い、荒く呼吸する獣の頭部に狙いを定める。

 その光景に、トバリは悲鳴に近い声をあげた。

「や、やめ、止めてっ!」

「はあ? 何でさ。敵を無力化すんのが普通――」

「――降参するからッ!」

 思わず叫ぶ。胸が押し潰される様な熱い焦燥感から出た言葉は、それでも少女に後悔という念を与えることは無かった。

 心臓だろうと頭だろうと、この対盤上で受けた傷は治癒する。しかし、実際に受けたダメージが消える訳ではない。その様な大きな攻撃を受けては少女の従者は死亡する恐れも有ったのだ。

 散々と指摘され続けたことを、自分では無く他人の為に行う。フューは懇願する少女の姿に目を丸くしていたが、やがて苦笑すると頭を掻いた。

 馬鹿な娘も居たものだ、と、そう哂って、槍をヤモりんの頭部に突き立てたのだ。

 貫通したそれは対盤を傷つけることはできずに澄んだ音が鳴り響く。彼の呼吸音が消えて、心臓が縮み上がった感覚を覚えながら、少女の目から光が消えて行く。

「だからさ。ンな戯言を聞く気は無いんだって」

 昏倒したヤモりんの体を踏みつけて、槍を捻り抜き取る。

「あ、あ、…………っ! ああぁあああああっ!」

「黙れ」

 咆哮し噴出す血を物ともせずに突き進もうとしたトバリの膝に、赤い光が着弾する。

 指先から生じた力波に穿たれて、膝を折る少女を見下ろす。

 不甲斐無い姿だ。呻くトバリにフューは顔を歪めた。

「私と戦う? あんたの実力? 同じ条件!? 寝ぼけてんじゃねーわよこのすっとこどっこいが。

 分際を弁えなさいよスカタン。あんたは私と並ぶことなんかできないし、私に認められることも無いわよ、分かってる?」

 トバリの頭を踏みつけると、顔を横にして必死の形相を浮かべていた。彼女の言葉を否定しているのだろう。

 その表情が、フューの溜飲を僅かながら下らせる。余裕を取り戻した笑みを浮かべ、彼女は周囲を見回した。

 見よ、この光景を。

「あんたのそのザマで見れるモノは何? 私の足の下で見れるのは、好奇の目? それとも歓声? でもそれはあんたなんかに向けられてるワケないよねー、ぜーんぶ、私のモンだもんね~」

「う、う。な、何が、言いたいの、フュー」

 力無い言葉に笑みを浮かべて、彼女は言う。

 もう決めていたことだと。この試合を最後に、彼女は少女と決別する、そう決断していたのだと。

 彼女の影になっていてもわかる程に、トバリは大きく目を見開いていた。信じられないものを見ている、そんな様子に思わず苦く笑う。

 現状を把握しているのかと。この仕打ちを受けて、まだフューへ信頼を寄せている、その心に呆れてしまう。

「……な、なんっ、で……っ、……どうして……!」

「どうしてってあぁた、メリットが無いからでしょー、君弱っちいしさぁ。言うことも聞いてくれないし、私の邪魔までしてくれちゃったでしょ? 忘れてないよね、あの森でさ?

 だからさ、トバリちゃん。足枷でしか無いあんたのことは、とっとと切り捨てた方がケンメイじゃん?」

「――嫌だよッ!」

 悲痛な叫び。駄々を捏ねる子供を思い起こしたフューは、それこそ言い聞かせる姉か母親と同じく優しく笑う。

 トバリの顎を蹴り上げて無理やり仰向けにすると、胸元を掴んで引き起こす。

「トバリちゃん。君が何で私に固執するのか、どうして私と対等に成りたいのか、知ってるよ? 何でヒーローに成りたいのかもね。言ってあげようか?」

「……え……?」

 トバリとフューと。二人以外無音の世界で、日の光を背にするフューの顔が影となり、真っ黒に潰れていく。

 しかし、その中で鋭く点る眼光が。射竦められる少女を前に、見えぬ顔で彼女は言う。

 正義の味方など、誰も求めては居ないのだと。フューの言葉がトバリの胸に突き刺さる。

「君がヒーローに成りたいのは、ヒーローで在りたいのは、成れなかったからでしょ? 現実の世界で。

 私刑か刑罰か、それにいじめられる人を助けたかったんだよね? そうして助けて来たんでしょう?

 だけど、それは認められなかった。だから折れたんだ。中途半端な正義を振りかざして、〝皆〟の反感を買って。

 そんなモノは周りから求められたモノじゃない、人から求められない正義は悪にしか成らない。君はヒーローなんかじゃない、唯の悪者にしか成れなかった。だから、ヒーローで在ることを諦めたんでしょう。見ない振りをすることに決めたんでしょう」

「……ち、違う、あたしは……」

「違わない。だから目指すんでしょ? この場所で、もう一度ヒーローを。変わると思ったんでしょ、ここで戦えば、ここで退くことさえ無ければ、現実の世界でも変われるんじゃないかって。

 ――私みたいに、〝皆〟に恐れること無く、戦える人間に成れるんだって」

「――……!」

 正義に固執すること。自らが正しかったのだと自己を肯定すること。

 それを同義と呼べるトバリの行動。他者の思念を省みず自己犠牲という安直とも呼べる考えに帰結する少女の行動は博愛の精神というよりも、自己愛に満ちたものと言えるだろう。

 それを感じ取った者は全て、少女に対して否定の色を見せた。それは事実だ。だから少女は否定されても自らの正義を守る為の砦を必要とし、その形として無意識に選ばれ心に刻み込まれたのがフューの姿だったのだ。

 だからこそ、トバリはどれだけ否定され様と、フューを相手に退かなかった。何故ならそれは、自らその砦から逃げることに、フューという形を否定の形にしてしまうからだ。

 フューは。

 自らの言葉で、トバリの心から強さが崩れたことを感じ取った。少女の顔が悲痛に歪み、今にも泣きそうな様を見ると、それだけで心が満たされていくことを自覚する。

 言ってはいけない言葉がある。今の少女へ言ってはいけない言葉。だからこそ、言う。

 トバリの耳元に顔を寄せて、フューはひっそりと囁いた。

「無理だよ、トバリちゃん。君がこの世界で何をしたって、どうにも成らないよ。だって君は変わろうとしてないじゃない。ただ、自分の気持ちの良い夢を追いかけていたいだけなんだもの。そうでしょう、トバリちゃん。

 現実の君は、何かを為して居るの? 諦めなよ。だってさ、現実の君は、とっくの昔に、ヒーローで在ることを諦めたんだから」

 昔の自分が、悪者で在る事を受け入れた。ならばこの世界の〝今の自分〟は、現実では悪者に過ぎないのだ。

 だから変わらないし変われない、変わろうとすることも無い。少女のちっぽけな心を見透かした余りにも大きな言葉の刃は、トバリの拠り所とする正義をあっさりと奪い取った。

 ぐずり、嗚咽を上げ、遂には涙を見せた少女の顔。フューはトバリの心が折れたことに、ようやくと満足を、そして安心を得た。

「言ったでしょ、トバリちゃん。分を弁えなよ。この言葉は君を責めてるワケじゃないの。だって、君には力が無いんだもん。力が無いから守ることも、攻め通すことも出来ない。ねえ?」

 トバリの顔をその従者へと無理やり向けた。夢の世界、現実の世界、どちらでも変わらないたったひとつの鉄則。

 それは姿形は違えど、〝力〟こそが支配の源となる根源的な法則だ。

「力に逆らう必要なんて無いんだよ。言ったじゃん、私だって勝てない相手とは喧嘩しないんだって。ね?

 だからさ、トバリちゃん。気負う必要なんて無いんだよ、気軽に楽しくやってこうよ、この世界で。身を滅ぼす生き方は止めにしなきゃさ、誰にも認められずに死ぬだけだって」

 優しい笑みを浮かべてその頭を撫でる。それは甘い毒だった。

 認められるはずが無いと少女の心を砕いたフューが、まるでいつかは認められる、報われるのだと取れる言葉を投げかける。救いの手でも有る様に。

 縋り付く少女に勝敗が決したことを確信したフューはトバリを抱き上げた。このまま場外へ、対盤の下へ投げ落とす。

 心の折れた少女は戦うことをしないだろう。最早、フューという存在を必要としない。例え〝黒の集団〟に捕縛されてもあの様子であれば、危害を加えられることも無い。彼らの一員となるも、見つからずに逃げ果せるも後はトバリ次第だ。

 少女にとっての唯一の危険、それは正義で在りたいと願う少女自身の心。危機に反抗し自らを窮地に追い込む危険な感情だ。それを取り除き、〝力〟というものを学ばせた、否、思い出させた今、トバリは安全を手にしたのだ。

 対盤の外に向けて歩を進めた時、足に響く痛みに彼女は思わず体勢を崩した。トバリを落とすことは無かったものの、抱え直して溜息を吐く。ふと、腕に抱える少女を見やれば、その視線は彼女の傷ついた足へと向けられていた。

 ヤモりんに噛まれ、負傷した足へと。

「……駄目だ……」

 トバリの唇から盛れた言葉に、フューの体がざわりと粟立つ。

 ここで退いたら、自分が自分で無くなってしまう。

 呆然としている様で、確固たる意志を秘めた言葉。フューの表情が険しくなり、瞳に輝きを取り戻しつつある少女を睨みつけた。

「そうだよ、私が成りたかったのは、フューと対等になりたかったのは、フューが堂々としてて、他の人を恐れないからなんて、それだけが……理由じゃない……!

 退かなかったからだ。フューの目には、案内人さんみたいな力があったんだ! 自分の意志を押し通そうとする力があったんだ!

 だけどそれは、いつも一人で、寂しくってさ、冷たくて……だ、だから……、だからあたしは、怖くっても、フューと、フューと一緒になりたかったの! フューを支えられる人間になりたいんだよ!」

 頼られる人間に成りたいと強く願う。

 あの森で、あの飯屋で、あの宿屋で、あの場所で、あの場所で。常に暗い感情を湛えて他者を拒絶していたフュー。だけどその言葉がいつも、いつも自分の深い所を抉る。

 求める程に近くに来てくれるから。願う程に離れてしまうから。だから、トバリは求めることも、願うことも必要なく、ただ隣に並ぶ為の実力が欲しかったのだ。どれだけ背伸びをしても、今ここでその姿を見せなければ、彼女が消えてしまいそうだったから。

「止めときなよ、トバリちゃん」

「……そうだよ、あたしは諦めちゃいけない……!」

「トバリちゃん!」

 声を張り上げたフューを睨みつけて、その腕から逃れる。

 対盤に再び降り立ち、戦う意志を体と心に満たす少女にフューは驚愕していた。

 自らの力で立ち直ったのか、この少女が。

(いや、きっかけは私のケガか。マズったなぁ、テイマーズバトルのクソトカゲに自分を重ねたってワケ?)

 不屈の精神。

 自分を信じろと行動で示したワイルドビーストの姿。自己犠牲の、少女の自己愛を薄れさせた彼への信頼がトバリの折れたはずの心に光を差したのだ。

 武器も無く、無事と言えば左腕の一本のみ。それでも震える体で構えを取る少女に対してフューはその顔から表情を消した。

「諦めなきゃ、何か出来ると思ってんの?」

「ふふん。そういうの、やってみなきゃ分からないじゃん?」

 挑発する。

 心に余裕を取り戻したトバリの姿がやたらと眩しく、そして腹立たしい。目元を引き攣らせ、右手の第二指を少女へ向ける。

 指を中心に幾つもの輝きが発生し、フューはその力を解放すべく口を開いた。

「うぅうおらあああっ!」

 気合一発。

 しかしそれはフューでは無くトバリの叫びだ。全力で対版へと叩き付けた左手は鈍い音を響かせた。が、それだけだ。

 しばらく動きを止めていた少女であったが痛みに涙を堪えながらも左手を押さえて蹲る。

 目元の次は口元を。引き攣らせる箇所を移動させたフューは自らの戦いへの意志が、別の感情に汚されていくのを自覚した。

「ち、……ちなみに……、今、何をやろうとしてたの?」

「え、えへへ、エンジーみたいに対盤を割って、バリアに出来ないかなー、って」

 頬を掻くトバリ。こめかみに青筋を浮かべたフューは肩を怒らせ頭を沈める。

 以前、メイド部隊を相手にした時と同じく抑えきれない怒りが彼女の中で爆発した。

「あ、あ、あ、…………っ!

 あぁああほっかアアァーッ!」

 差し出した両の掌に赤い魔法陣が収束し、巨大な環を作り上げる。身構える少女へ向けて、対盤の殆どを埋め尽くす巨光が炸裂した。

 自らの作り出した音を遮断する結界すらも吹き飛ばし、放たれた極大力波をしかし、トバリはスライディングしてその真下を通り抜けた。

 風に押されながらも接敵に成功した少女は、怒り睨むフューへ向けて左の拳をかち上げる。その瞬間、フューはトバリの足を払い、軌道をずらすことで避ける必要を無くし、逆にトバリへと鉄槌を振り下ろした。

「わっ、つちち!」

 続く蹴りを後転してかわすトバリ。殴られた顔を押さえているが、増える傷に対してその体に気力が充実していく。その様に、前にも増して怒りに歪むフューの顔は、嘆きの湖での表情が思い起こされて少女は怯んだ。

「トバリ様、信じています、勝利を!」

 突然、耳に飛び込んできた言葉に、はっとする。

 見回せば会場中から響き渡る声援だ。トバリを応援するものもあれば、フューを応援するものもある。その中に両手を拡声器の様に口元へと当てて声を張り上げるメイド姿を認めて、少女は片手を上げて応えた。

 今度は控え目なものでは無い。満身創痍のはずの体であるにも関わらず、力一杯の笑みを浮かべている。

 もはや、この会場はフューだけの場所ではなかったのだ。

「こっちを向きなさいよ、トバリちゃん」

 低く抑えた声に振り向けば、こちらも声援に応える様に右手を上げるフューの姿が有った。否、その右腕に纏う黒き魔法陣。

 行くぞ。

 一言述べて、青い魔法陣を通り抜けて加速したフューの右腕がトバリの腹に突き刺さる。この一撃、今までの蹴りの比では無い、ストライカー・ケイジの強打すら匹敵する。

 響く衝撃は肺に、背に伝わり、まるで異物を入れられたかと感じる程。せり上がる吐き気に内蔵が口から出てしまうかと少女は嘔吐く。

「降参しなよ、トバリちゃん。勝ち目が無いのは分かったでしょう、何したって変わることも無い、無意味な作業を重ねる必要なんか無いでしょうが」

 少女の髪を掴んで引き立たせる。

 が、トバリはそれでも笑って見せた。フューは激高し、強化された右腕でその顔面に拳を叩き込む。空で体を回転させて対盤へと倒れ込んだ少女に向けて、お次はと左腕を振り被った。

 青と紫の魔法陣を纏わせたそれに、会場からも少数のざわめきが起きる。

「うぅううるぁああああっ!」

 彼女にしては珍しく獣の如き雄叫びを。

 少女はその一撃に驚き慄きつつも、すんでの所で身を捻り回避に成功する。だがその打撃は同時に対盤上を駆け巡る幾つもの魔法陣を撒き散らした。

 溢れ出る光の渦に立ち上がるトバリは思わず顔を覆う。

 瞬間、各魔法陣から出現した槍がトバリの体目掛けて撃ち込まれたのだ。

「ぎいえっ!」

 走る痛みに顔を覆っていた腕を急所へ回し、足と共に防御を固めた。そこへ散々と撃ち込まれる槍の群れに悲鳴を上げる。

 それでも少女の体は頑強だ。針鼠の如く槍をそこかしこから生やすも、胴体へ受けた物は無い。

『凄まじい攻撃を受け切るトバリ・レンジョウ、執拗な追い込み・畳み掛けを凌いでいるぅー! これは再び、あの逆転撃が見られるのか!?

 それにしてもフュー選手、とんでもない荒業を見せました! 複数の種類の魔法を同時に操る腕前、とんでもありません!』

 司会の言葉が頭に響き、フューは鋭い視線を向ける。

 何処を見ているのだ。

 隙を見せたフューへ、槍を引き抜き飛び込み様の一撃。それは少女が思うよりもあっさりと彼女の頬へと減り込んで、その体を弾き飛ばした。

 思わず目を丸くするトバリの前で、対盤上を転がるフューは受身を取って立ち上がる。鉄帽が転がり落ちて少し痛んだ橙色の髪を覗かせた彼女は、唇の端を伝う血の筋を拭き取った。

「…………。やってくれたわね」

「あ、いやあ、当たるんだったら、もっと強くやっときゃ良かったかな」

 会場から、割れんばかりの喝采の雨霰。拳を構えつつも転がる剣へ目を向ける。

 左手だけで勝てる相手では無いからこその動きだろうが。それだけでは無い、怒りの感情が完全に消え去ったと見受けられるはずのフューから、圧倒される程の重圧を受けているのだ。

(……な、何だろう、この……エンジーとは、違うけど……何か、これ、何か……)

 気持ち悪い。

 向き直るフューに歯を食い縛るトバリ。しかし彼女は少女へ向かうでは無く、転がる鉄帽を拾うだけだ。大切そうにそれに着いた埃を払う。

 まだ油断しているのかと会場からも久しく無かった野次が飛ぶが、少女は動かない。と言うよりも動けないままだ。こちらを見向きもせずとも、受ける重圧は益々と大きくなるばかりで、少女に打ち込む暇を与えない。

 喉を鳴らす少女へ目を向けて、フューは唇の端を持ち上げた。

「トバリちゃん、力がどういうものか教えてあげる」

「え? ――うわっ!」

 ぱちんと指を鳴らすと、少女の足元に黒と青の魔法陣が生み出された。同時に宙へ浮かぶ体に慌てふためくトバリ。シャボン球を思わせる球体に閉じ込められて、立つことすらままならずにもがいている。

「私に勝つんでしょ? 何かしてみなさい、出来るモンならね」

「何だとぅ、……くっそ……、何だこんなの!」

 まともに無い足場に対し打撃に力が入るでも無く、ましてや高が腕力で結界を破れるはずも無い。

 もがく少女に笑みを送り、結界である球体ど移動させれば中のトバリもまた移動する。対盤の外へ。

「えっ、嘘! 止めてよフュー!」

「止める? 何で?」

「私は、まだ戦えるよ、まだ立てるもん! 勝って見せるよ、だからこんなのってさぁ!」

 阿呆め。

 懇願するトバリにその笑みが禍々しく歪む。

「だから〝力〟ってんでしょ、相手の都合なんかカンケー無いの。エンジーのことを思い出しなさいよ、あんたの存在が取るにも足らなかった様に、力の差って言うのはこういうことなの。

 言ったでしょ、無意味だってさ」

 もう一度、指を鳴らす。

「――あっ……」

 あっさりと。

 そう、あっさりと少女の体は抵抗も空しくただ落ちて、準決勝は幕切れとなった。

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