第八十一話 ムッカつく~! ~VSヒロコ!~
「考えていたよりはレベル低いわねー、正直なハナシ」
席の一つから試合を見下ろしてフューは嘯く。片手にはソウベお手製のジュースを入れたグラスがあった。
彼女が言っているのは全体的な話ではあるのだが、実際の所、シード枠に入っているプレイヤーやその他予選で好成績を残した者は高い熟練度を誇っている。
(あのデンジロウって奴は突破口があるからいいんだけど、Bで上がるのはエンジーかケイジかって所よねー。こいつらに関しては対抗策が浮かばないなぁ)
あのケイジという男、金か物で釣れば試合でわざと負けることはせずとも棄権はしてくれそうだ。だが、エンジーという女に関しては現時点で手のつけるべき部分が見当たらない。
どうすべきか。
ぼんやりと考えていると、客席から歓声が上がった。試合を見れば第二試合、各対盤上で参加プレイヤーが戦っている。歓声の中心となったのはBブロックで試合を行うノインとロジー・イッキなるプレイヤーだろう。
派手な魔法で対盤上を氷付けにしてしまったロジーに対し、ノインも地に叩き付けた剣に炎を灯して突撃している。お互いに得手とする魔法が違い、大衆好みの試合だ。
Cブロックではグスクマ、スーパーマスクという名のプレイヤーが戦っているが、こちらは一転して非常に地味な攻防で、相手の関節を極めることを狙うグラウンド技術での攻防が中心だ。
(トバリちゃんの登場は第三試合、こっちはまだ長引くかなぁ)
などと考えていた矢先、Dブロックにて決着の声がかかる。続いてBブロックでの試合が終了した事で、案外と早く終わりそうだと身を乗り出すフュー。
(……トバリちゃんは……いない、もう準備してんのかな?)
次試合の参加者は係員に連れられて会場出入口にまで後退させられる。第一試合と違い、他のメンバーは名前を呼ばれて登場する形となるのだ。
また緊張してやいないかと少女に思いを馳せつつ、フューはグラスを傾けた。
そのフューの心配も必要なく、件の少女は自分の出番を今か今かと待ち構えていた。既に他の参加者も並んでおり、対戦相手と共に二組で列を成す。
トバリは自分の隣で静かに正面を見つめる少女に視線を向けた。トバリと同じく短髪で、年の頃も近いかというその風貌に友好的な笑みを浮かべて手を差し出す。
「初めまして、ヒロコさん、だったよね? トバリ・レンジョウです!」
よろしくお願いします。そう、言葉を続けようとした少女を睨み付けたヒロコは、差し出された手を弾く。
笑顔のまま固まるトバリに、武術を競う場で、自分達の技術を軽んじる輩と仲良くするつもりはないと言い放った。
それは少女の紹介において、優勝候補など目もくれずに個人的な目的を臆面もなく語った発言からだったのだろう。端的に言えば〝嘗めた態度〟であるトバリに怒っていたのだ。
「そ、そんなつもりは」
「言い訳なんて聞く気は無いから。あんたみたいな雑魚、とっととノして、あたしがストライカー・ケイジと戦う」
「……あっ……そう……ですか……」
弾かれた手を下ろし、正面へ向き直る。ぼんやりした顔であったがそれも長くは持たず、徐々に朱を差してその顔は怒りが滲んだ。
(ムッカつく~! なにさ、そんな意地悪言わなくてもいーじゃん!)
一人で悶々としている間に試合が終わり、休憩時間も終えてお呼びがかかる。
前のプレイヤーに倣い、対盤に上がりながら観客へアピールするトバリ。
『さあ、始まります第三試合! やはり注目すべきはDブロックのイース・ベクター選手とギノー・ユン選手でしょうか。お二人はギルド〝スマイリー〟に所属するライバル同士! 前大会でも上位に食い込む活躍を見せております。
また、Bブロックのトバリ・レンジョウ選手は今テイマーズバトル優勝者! 付き人のフュー選手の実力を考えれば期待せずにはおれません!』
呼ばれると考えてもいなかったトバリはその紹介に慌てて手を振った。
「フレーッ、フレーッ、トーバーリッ、様!
フレッ、フレッ、トバリ様ヴィクトリー!」
司会者の声すら上回る程の大声量。響き渡る応援歌に仰ぎ見れば、数日前に出会ったメイド姿の面々が在る。
赤面して控え目に手を上げるトバリであったが、小馬鹿にした笑い声にその主を睨み付けた。
「アイドル気取り」
「うるへー! ぎったんぎったんにしてやるから、覚悟してよ!」
舌を出して頬を膨らませる。そこで少女は視線の先にフューの姿を認めて、僅かに笑みを浮かべ拳を向ける。
彼女も小さく笑って拳を返した。勝ってやる、その心意気を彼女はかっている。しかし、対戦相手のヒロコを見ると簡単に勝てる相手とは感じなかった。
革を中心とする少女の鎧はどちらかと言えばフューに近いもので速度を重視した構成だ。落ち着き払い手袋の留め具を締め直す様はトバリと違い、実戦慣れしているであろうことが窺い知れる。
(こりゃー、厳しいかな?)
『それでは三試合目、レディイイ、ゴォオーウ!』
張り上げられた声に気合を入れ直すトバリ。左手に持つ盾裏の鞘、そこから剣を抜こうと手を差し込んだ意識のずれ、その隙にヒロコの姿が消える。
慌てたトバリは剣も抜くことが出来ずに辺りを見回した。
(えっ、消え、魔法?)
殺気。
唐突に感じ取ったそれは、天からやって来た。
「――うえぁ!?」
「ちぃっ!」
即座に構えた盾に短剣を弾かれて、ヒロコはトバリの勘の良さに舌打ちする。
目前の相手から注意をそらして奇襲を受けるなど、実戦慣れしてないのは確かだが、生死を賭けた場で格上の殺気に晒された少女は相手の殺意を感じ取れる鋭敏さを養っていたのだ。
本人に自覚は無いが、目で見た反応で無いその動きにフューを含む幾人かは感嘆の声を上げる程。
「こんにゃろう!」
鞘から剣を抜き、降り下ろす。
しかし上段で繰り出されたそれはあっさりと見切られ、体を反らすだけでかわしたヒロコは動きをそのままにトバリの右腕を切りつける。
するりと抜けるような鉄の感触に鳥肌を立たせ、慌てて後退するトバリに、そうはさせじと肉薄するヒロコ。
「くのっ」
右前方から死角へ回り込もうとするヒロコに対し、剣を薙ぎ払うもこれまたあっさりと屈んでかわされ、脇腹を短剣で切りつけられた。
その様にフューは、やはりヒロコの技術は実戦レベルだと評価する。トバリは最初こそ慌てふためき上段振り下ろしなどやってしまったが、距離を離そうとしているのはフューから受けた教え通りの攻撃、構えを行う為だろう。
しかし接近し、回り込む動きのヒロコに有効な攻撃手段を持たず、隙の大きな薙ぎ払いという選択肢を取っている。否、取らされていると言うべきか。
(スピードは見立てではぶっちゃけ互角だと思うけど、追いすがる相手への対処が慣れてないから、相手のスピードについていけてないのね。だから、ヒロコを捕まえる為に横切りするけど、それが向こうの誘導。進行方向に置くでもなく、ただ追うような、誘われた攻撃を避けるのは易いのよねー。
トバリちゃん、君の攻撃の後に君の体が傷ついてるって気づかないと、勝ち目は無いわよ?)
「……ぐっ……ぐうう……!」
手を出す度に傷を受け、こちらの攻撃は当たらずともなれば闘志も折れるだろう。必殺の一撃よりも確実性を求めて相手を削ぐ作戦を選んだヒロコの考えは間違ってはいない。
が、相手はトバリ・レンジョウだ。大型モンスターと戦い、真正面からぶつかり合って成長している少女の頑丈さは並みのものではない。勝機としてあるならば、耐えて耐えて耐え抜いた先の、相手が疲弊してからの反撃か。
フューがそのようなことを考えている間にも、トバリはヒロコへ攻撃を敢行し反撃の一撃を受けた。
ここで、トバリは止まらずに自らの体を回転させる。先の一撃とは逆回転、回り込むヒロコの前方に斬撃を繰り出すのだ。
(アホかっ!)
心中で罵倒し、回転が変わっただけの一撃など取るに足らぬとその切っ先をかわして懐に潜り込むヒロコ。その眼前で、トバリはにやりと笑って見せた。
「!?」
右手に持っていた武器は回転の間に行ったのだろう、左手に持ち変えられている。その一撃をかわした上での反撃は、確かにトバリの懐に潜り込んでいるのだ。だがそれは同時に、両の腕の間に居る事を意味する。
空いた手で短剣の一撃ごと抱きすくめたトバリは、腹に走る鋭い痛みに顔を歪め、思わず仰け反る。
「――う、ぐ……ッ、でぇえい!」
「んぎっ!」
それを勢いに変えて大きく打ち付けた頭部は、逃げ場を失ったヒロコの鼻っ面に直撃した。
悲鳴を上げて仰け反ったヒロコへ、もう一撃と体を後方へ反らすと、その隙間を縫うように繰り出されたヒロコの膝が抉られた腹へ突き刺さる。
悲鳴を上げて離れた少女、その面へ仕返しとばかりにヒロコが蹴りを見舞う。
後転しつつも何とか立ち上がったトバリに対し、ふらついたヒロコは尻餅をつくなど、ダメージの差が顕著となった。頑丈さだけではなく一撃の威力の違いだろう。それにしてもヒロコは脆い。弱点が浮き彫になったと言っても良いほどだ。
(実戦訓練は積んでも、実際にこういったしばき合いは経験しなかったのか。それだとタフネス上がらないんだよね~)
当たらなければ良いという言葉は、格下にしか使えない言葉だ。現に技術ではトバリを圧倒していたはずのヒロコが、小手先騙しの攻撃でダメージを受け形勢を逆転されている。
トバリは腹を抉られ、実戦での傷ならばこの制約は大きいが、痛みが軽減する対盤上でこの少女が止まるはずはないだろう。即座に立ち上がったとは言え、弱るヒロコを目の当たりに追い風を感じたか益々と闘志が漲る有様だ。
『少女と思えぬ攻撃的な試合! Bブロックも白熱の大試合だ~!』
自らの有利を感じたからか、集中が途切れ司会者の言葉に意識が反れた直後、ヒロコは身も低く疾走する。
先程と違い最短距離を抜く目標にとっては点の動き。しかしトバリはこれに慌てながらも後退する事で対処し、練習を重ねた構えを披露する。
左手の盾を出し、左半身を前にする事で自らの体を相手から離すその構え。右手の剣は盾に添え、ヒロコも舌打ちして動きを止めた。容易な接近は危険と見たのだろう。
しかし。
(トバリちゃんは完全にあのヒロコってコの動きに対応出来てない。付け焼刃の構えも簡単に突破されちゃうわよ)
口角を意地悪く引き上げる。トバリもそれを承知だからか、無理に攻めず、じわり、じわりと静かに間合いを詰める。一方、ヒロコは両手に短剣を持ち出して体の前に交差させ、腰を低く落とす構えを取った。
トバリの注意を集中させないようにか、その前進に合わせて右へ左へと体を流している。
機動戦ではトバリに勝ち目は無い。後の先を取るには厳しい。ならばいっそ先手を打つか。
(…………、よーし!)
今にも動くかと構えたヒロコに対してトバリは両腕を開くと、威嚇するように声を張り上げた。
これには驚いたヒロコだったが、魔法を行う為の予備動作と踏んだか大きく後退する。それに合わせてトバリは剣を一撫でし、その刃に炎を灯した。
「いっけぇー! 必殺煉獄剣・びっくり地獄玉!」
「――長いわっ!?」
必殺技とばかりに叫んで放たれたそれも、身構える猶予を与えてしまっては意味が無い。が、これは囮だ。飛来する炎の塊を避けたヒロコに対し、即座に跳躍したトバリが刃を向ける。
その身体能力、ひとつ跳びで肉薄されたヒロコは言葉もなく、体を回転させた。
振り下ろされる刃の回避と反撃を同時に狙ったその動きに対し、トバリは剣を地に叩き付けるでなく、薙ぎ払う。元からこれを意識していたのだろう、ヒロコの避ける方向を窺っていたことで動作に遅れが生じ威力は無いが、それでも少女の動きを止めるには十分だ。
不完全な体制で防御に回ったヒロコは剣の一撃に弾かれて、即座に振り返るトバリによる振り下ろしを辛くもかわす。
これにより体勢を崩したヒロコが地に倒れ込み、トバリはチャンスとばかりに突きを放った。
それは、ヒロコが今まで見た少女の雑な攻撃ではない、確かな技術を感じられる点の一撃。
「うぐぅう!」
狙われた腹部へ重ねた短剣、鉄を受けて沈む刃は腹部を圧迫し、ヒロコの口から苦鳴が漏れる。
もう一撃。
刃を引き、続く攻撃をと構えたトバリの膝を蹴りつけて動きを止め、転がるように少女の切っ先から逃れたヒロコは咳き込み、立ち上がる。
口元に吹き出た唾液を拭い、動きを止めるトバリを睨みつけた。それは、攻撃から逃れたヒロコに対する仕切り直しと言うよりも。
(…………、あ。これ膝やっちゃってない?)
只ならぬ気配にフューが眉根を寄せる。微かに震える足と横一文字に引き結ばれた唇。滴り始める脂汗。その様子、対戦相手であるヒロコなら真っ先に把握しているだろう。
機動力を奪われたトバリを相手に動きを止めているのは、自らの呼吸を正す為か。
「ふうっ、ふうっ、ふううっ、はぁーっ。
……よし……、ぼちぼち行くぞ、アイドル気取り」
勝利を確信する笑みを見せたヒロコ。対してトバリもまた大きく深呼吸を行うと、手に持つ盾と剣とを石畳の上に転がした。
何の真似だと警戒を強めるヒロコに対し、トバリは不適な笑みを見せた。痛む足をゆっくりと開き、背負う大剣の柄へ手を伸ばす。
引くと同時に翻る外套は左右に別れ、現れた巨大な刃を対盤上に叩き付ける。地響きを鳴らし、威嚇の如く睨みを利かせた少女は腰をゆっくりと下ろして剣を引き上げた。順手を回して剣を逆さに、まるで刃の陰に隠れるようなその姿勢。
(あ、トバリちゃんの十八番じゃん)
稀に繰り出すその構えに、何故ここでこれを選ぶのかとフューは小首を傾げた。確率は低いだろうが遠距離にも対応でき近距離でも取り回し易い煉獄剣とやらが有効ではないのかと。
「な、きっ、……それは……っ」
「?」
しかしこの構え。それを見たヒロコは動揺を隠し切れないようだった。トバリすらも目を丸くする中で呼吸を繰り返して自らを落ち着かせる。だがその目には、明らかな怒りの感情が宿っていた。
殺す。
言葉に出さずとも伝わる感情に、トバリは思わず喉を鳴らす。体の前で両の手を交差させ、ヒロコは短剣を逆手にトバリに向かって跳躍。同時に虚空に現れた青い魔法陣へその身を晒し、光を纏って加速する。
ヒロコの速度に対応するならば引き上げるようにして切りつけ、正面からの攻撃に対応するしかない。構えからそれを考えたフューであったが、ここに来て魔法の使用だ、正面ばかりとは限らない。
そして彼女の予測通り、弧を描いてトバリの側面へと回るヒロコ。繰り出された双刃に対し、トバリは切っ先を向けるでなく、その大剣を回転させた。
「……チィ――」
回転に巻き込むようにヒロコの短剣を捕らえて弾き、同時にその刃をがら空きとなった少女の脇腹に肉薄させる。
「――ェエイストオォオリャッ!」
裂帛。
力任せに振り抜かれた大剣はヒロコを対盤から弾き飛ばした。対盤から落ちて地を転がり、無様にも埃塗れになったヒロコは呆然としている。
『リ、リングアウトォーッ! トバリ選手、追い込まれた様子で、しかしカウンターの一閃! 片手剣のみならず、大剣までも使用し巧みな攻防の末に勝利を掴んだぁー!』
「だーっ!」
勝利に吼えるトバリ。観客席でも熱狂するメイド軍団に、特設席ではフューやソウベが手を叩いている。
だがその勝利に異を唱える者が居た。対盤上から弾き飛ばされたヒロコである。
「ふざけるな、あたしはまだ戦えるぞ!」
「えっ」
地に落ちた短剣を拾い直し、必死の形相で対盤に登るヒロコ。当然だがそんなことをしても負けが覆るりはしない。係員として待機していた衛兵が武器を構えて対盤へと急ぐ中、彼らより一足先に降り立つ者が居た。
ストライカー・ケイジだ。
「言いたいこと、気持ち、どっちも分かるんだけどなぁ」
「…………!」
トバリとの間に立つ男に武器を構える。ケイジは哀れむような視線を向けて、無造作に踏み込むとその腹へ拳を突き出した。
度重なる腹部への強打に耐え切れず、武器を取り落とした少女を抱える。力を無くしたその体を衛兵に預けた。彼らはケイジの行動を非難するようであったが、勝敗が決した後ならば構わんだろうとどこ吹く風で、トバリへ顔を向ける。
「ドが付く素人だと思っていたんだがな、どうやらそうじゃないらしい。その両手剣が本命かい?」
「えっ、いあ、その、よく分かんないです」
「そうか。まあ、次は少し楽しめそうで良かったよ」
差し出された右手に、先程も握手はしたはずだがと少女はそれを握る。
司会者が現地のトラブルに右往左往する中でケイジにお礼を言い、連れて行かれるヒロコを見つめる。何かしらの処罰があるのだろうか、ならば出来るだけ無難にして欲しいと言いたいが。
兎にも角にも勝ち星を一つ得たトバリが対盤から降りて足を引きずりながら特設席に向かうと、急に全身から力が抜ける。まるで水泳後のような虚脱感が全身を襲い、立ち眩みを覚えて膝をつく。
「大丈夫? トバリちゃん。結構ヤられちゃったもんね~」
「あ、う、フュー」
側に立つ彼女は仕方ないなとばかりに少女を抱き寄せて立たせてやると、トバリは膝、腹やそこらから感じていた痛みが無くなっていることに気づく。
対盤から離れて時が経てば、傷は消える。引き換えに相応の体力を失うのだ。傷は治っても体力の消耗は試合中の集中力にも直結する大事な要素だ。一戦目でこれでは二戦目にどう響くか。
「ま、飯食べときなさい。どうにか体力回復させないと、次はきっついわよー」
「ううう、はーい」
ふらつきながらもテーブルへ向かうトバリを見送り、フューは笑みを見せる。
もう次は自分の番なのだ。こちらを探しに来た係員に合図を送り首を回す。
二回目の戦いだ。一戦目とは違い、それなりに戦う姿勢を見せねばならない。三戦目に向けて。
「…………、はへ?」
少女が目を覚ましたのは四試合目も半ばの頃だった。
絶叫と轟音。机から顔を上げた少女は涎のついた顔を拭い、対盤上へ目を向ける。
既に試合の終わった対盤がふたつ、そして、対盤上のプレイヤー全てが動きを止めて、Bブロックを見つめていた。
真っ二つに割れた対盤。その中央に、コートをはためかせ突き出した腕をゆっくりと下ろす女の影。
この異常事態に司会者すら押し黙る中、今一状況を理解できない少女は女、エンジーが何かしらの攻撃を行い対盤が真っ二つになったのだろうと見た情報を素直に受け止める。
「流石じゃねえか、レイトの魔法なんざものともしねえ」
「あ、モーデル」
「呼び捨てにしてんじゃねえぞ」
思わず名を呼んだトバリを見下ろす男だが、その顔に不快の色は無い。
事態収拾の為に第四試合後はしばらく大会を中断する形となった。
「ねえ、モーデルさん。何があったの?」
「何のつもりか知らねえが、あのエンジーがそれなりにやる気を出したのさ。お前、結局あいつらに当たる組み合わせになっちまったなぁ。
勝ち進んだら当たるんだぜ、あいつに。どうするんだよ、ミサイルの一発や二発じゃ傷もつかねえもんを踏み砕く化け物だ」
挑発する男に対して寝起きの頭を掻く少女。正直に言えば、やはり今一状況を掴めていないのではあるのだが。
トバリはただ一言、勝てば良いのだと強気に言う。その言葉、モーデルすら思わず呆れたようだが正論だ。要はどうやって勝つのかと言う話な訳だが。
「あ、そろそろだ。じゃあ行ってくるね!」
モーデルに手を振り駆け出す少女。回復力の高さには驚かされる。
まあ、勝てる相手ではないだろう。
その元気な後ろ姿を見てモーデルは鼻を鳴らした。




