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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
白黒つけるぜ武闘祭!
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第八十話 へ、変な奴っ ~勝負はやるまで分からない?~

 舌についていた毒も治まったか、頬を綻ばせながら肉にかぶりついていた少女が係員に呼ばれたのは大会開始目前だった。

 選手紹介も終わり、次は開始だとしている間は自由時間だったのだが、他の参加プレイヤーが準備運動をしたり瞑想したりと集中力を高めている間、シード枠に選ばれた四人、そしてモーデルとエンジー、フューらは気にするでもなく呆けていたり、食事を進めていたのだ。

「ようやく始まるんだねー、武闘祭!」

「そうね。今回はバハムート杯だから、見られるわよ、バハムートの滝登り!」

 フューの言葉にどういう事かと目を丸くしていると、各ブロックに分かれて対盤上に上った参加プレイヤーの脇で、楽器を構えた者らによる壮大な演奏が始まった。同時にその頭上に突如として大きな滝が現れる。

 現実世界にもあるような立体映像で、トバリは驚くばかりで知る由も無かったが大河シロップストレッチの上流にある滝周辺に集まる複数の魔術師による視界を合成したもので、淡い光で形成される映像はそれだけで芸術的だった。

 その滝を、巨体たる沈黙の獣バハムートが群れを成して上っていく。まるでそれすらも小さく感じられる程に、その滝は巨大であった。黄色の肌に赤い光を纏わせて、霧を引き連れる様は圧巻だ。滝を埋め尽くさんばかりの数に少女は思わず見惚れて口も半開きになっていた。

『レディース、ア~ンド、ジェントルメン! 遂に始まります武闘祭、バハムート杯が!』

 以前のテイマーズバトルでも聞き覚えのある声が場内にマジックアイテムにより拡散されていく。係員によって各ブロック一試合目の選手を残して退場するトバリらは、選手用に特設された席に着いた。

 第一試合ではフューやモーデルの試合が見られると興奮している様子だ。

『各選手、紹介は終わっておりますね? 勇壮かつ壮大なバハムートの滝登りを合図に始めましょう、我等がキャンディロードを舞台に、最強のプレイヤーは誰なのか!

 論より証拠、語るは一見にしかず、言葉よりもまず先に! 各ブロック第一試合、開始ぃーっ!』



 銅鑼の音が響き渡り、四つの対盤上で八人のプレイヤーが動きを見せた。

「へっへっへ、会いたかったぜえ、クソアマ」

「は? 誰?」

「て、てめえ人の頭に鉄板叩きつけといて覚えてねえのかっ!?」

 首を傾げるフューに男が吼える。Aブロック第一試合となるフューの対戦相手の名はチルベル・アブレルノ。ここ橋の町を拠点に活動するプレイヤーの一人であり、そこそこ名は通っているようだ。

 とは言え所詮一つの町での話、フューは完全に忘れてしまっていたのだがこの男、以前、カンナに夜食を奢って貰った際に邪魔をした者で、彼女らの席を仲間と共に奪った為にフューが撃退したのだった。

(まー、なんかよくわかんないけど怒ってる分は楽だわね)

 恨み辛みをぶちまけながら曲刀を構える男に、フューは指を一つ鳴らして手元に槍を発生させる。

 応戦するか。ちんぴらの顔から戦士の顔へと変わった切り替わりの早さにそこそこらしく場数は踏んでいるようだとフューは分析しつつ、その指先に赤の魔法陣を灯した。

「――馬鹿めッ」

 放たれた力波を跳躍してかわす。フューはそれを見て自らの手にある槍を空に固定し、その前方に物体を加速させる魔法陣を形成する。

 だから馬鹿と言うのだ。

 にやりと笑うと、青い光を体に纏い、槍の線上から逃れるようにして空から高速で接近する男に対し、フューは詰まらなさそうな目を向けた。

「ほい、ほいっと」

 両手で指を鳴らし、現れた魔法陣の一つが男の進路上に出現する。チルベルが驚き反応するよりも早く、魔法陣に捕らわれた体が高速で射出され、続く魔法陣に触れると同時に進路を変更し更に加速する。

 フューが固定した槍に向かって。

「はー、こりゃ、覚えてないワケだわ」

 四度目の指鳴らしを披露すると、射出された槍が前方の魔法陣を受けて加速し、チルベルの胴体を貫いた。

 あっさりと腹部を貫かれ、しかし大穴が開く訳でもなく墜落して対盤上から転がり落ちるそれを見送り、とりあえずとばかりにフューは軽く片手を上げた。

『は、早い! あっと言う間の攻防でチルベル選手リングアウト!

 いや、一撃で胴体を貫かれその時点で意識を失っていたかも知れません! 恐るべし飛び入り参加、これはダークホース現るかー!』

 あれだけのことで何を興奮する事があるのか。

 肩を回しつつちらと別の対盤を見れば、モーデルの視線が絡みついた。余裕の笑みを見せた男は、己が背よりも高い巨剣持つ女の一撃を、真っ向から打ち落として胴体に両刃の斧を叩き込み、そのままの勢いで振り抜く。

 地面を転がる事すらなく吹き飛ばされた女が、対盤からそのまま会場を覆う壁へと激突する。壁からずり落ちる女を観客席から見下ろして、ギャラリーが熱狂するのを受け付けるように斧を掲げるモーデル。

「一撃必殺か。いい響きだが、俺は鉄を打ち合う方が好きなんだよなぁ」

 女から何事か吹き込まれたのか、力無いその者へ言葉を投げて、フューへ視線を向けてにやりと笑う。

『す、素晴らしい! 予選と同じく吹っ飛ばしケイオー! 謙虚な言葉と違って豪快な一撃、優勝候補に待ったをかける逸材ではないでしょうか!』

 対盤から飛び降りて、武器を係員に渡し、選手用の特設席へ向かうモーデルをトバリが拍手で迎え入れる。

 見た目通りにして予想以上のパワープレイに感動しているようであったが、注目すべき点はそこではない。

(同じデッカイ獲物とは言え、明らかに見劣りする武器で打ち落としねぇ。ただでさえ速度の乗ったものを完全に無力化させたんだから、力も勿論だけど技も目も、相当なモンね、あいつ)

 認めたくは無いが、正面から挑んで勝てる相手では無い。

 フューはライネンの言葉を思い起こして頬を掻く。言われるだけの実力がある。この男、未だに底が知れないのだから、〝虐殺者〟を相手にしたように細心の注意を払って挑むべきだろう。

 そんな彼女の懸念を他所に、モーデルを隣に座らせていたトバリはフューに向けて勝利を祝福しながら手を振っている。

 行く訳無かろうが。

 能天気な少女に舌打ちして離れるフューに、思わず起因となったトバリは首を傾げる。

「何で勝ったのに機嫌悪いの?」

「くっくっく、さあてねえ」

 愉快そうなモーデルに僅かながら不快な色を示すトバリ。そんな折、対盤上に動きがあった。

 ファーストコンタクトで終わったAブロック、Cブロックに対し、接戦を繰り広げていたDブロック。同じく戦闘らしき様相と思われたBブロックで突然、選手が負けを宣言したのだ。

 降参したのはレマースルという巨漢で、モーデルと同じく力を主体とする戦い方であった。それが手を押さえて蹲る。対するはエンジー、ただ佇むそれの勝利を対盤上から避難していた審判が受け入れてBブロックの勝敗は決したのだった。

「え、あれっ? いつの間に攻撃したんだろう」

「……いやあ……攻撃を受けただけじゃあねえかな?」

 面白がるモーデルに対してトバリは目を白黒させている。司会者も同じくで何が起こったのか分からずとしながらも彼女の勝利を祝している。

 少女は予選通過のモーデルへ、エンジーの戦い方がどのようなものなのか問う。男はその様子に、対戦相手の情報収集に余念が無いなと肩を組み、少女の耳元に顔を寄せた。

「俺と一緒さ、全員リングアウトだ。俺と唯一違うのは素手で、あいつは何を打ち込まれてもへっちゃらだった、て所だな」

「近いよ! うーん、という事はあの人は格闘の強い人なんだね」

 押しのけたモーデルを横目に、魔法による強化を施してあるのかとその体を見るが、露出の多い腹部を含めてそれらしき光や魔法陣は見当たらない。

 とは言え魔力適正の無い戦士である少女、自らが分からないだけかと納得しつつ自らの名づけた短剣を思い浮かべる。

 強化魔法がどのようなものかは知らないが、この毒ならば破れるかも知れないと。

「お前は第三試合で出場だったか」

「うん。フューを倒して、モーデルも倒して、あたしが優勝するからね!」

「ははははは、うるせーよクソガキ」

 拳を掲げると耳を引っ張られて悲鳴を上げる少女。

 彼らがじゃれ合う内にもCブロックの試合が終わり、最終試合から十分後に各ブロックの試合開始が放送される。

「しばらくは出番もねえし、クサカの所に顔でも出すか」

 席を立つ男にそう言えばと、少女は女の顔を思い浮かべた。いつも一緒に居るようだったがとするトバリへ、モーデルは今回の大会へ二人とも参加を申請し、予選で最初に戦ったと言うのだ。

 女は予選敗退し、男は本選まで勝ち進んだ。

「クサカさんも強いの?」

「勿論さ、この大会でだってそう負ける腕じゃねえよ」

 だが、自分はその何倍も強い。

 絶大な自信をそのままに唇から犬歯を覗かせる。思わずぞくりとする程に野性を見せたその笑みに、少女は言葉が続かずモーデルの背を見送った。

 フューは何処へ行ったのだろうか。

 男を見送って辺りを見回すが、その姿は見えない。一抹の寂しさを感じたトバリは参加者でもないのに特設席に座る紫輪のソウベの元へ向かった。

 盃を煽る彼の隣にはストライカー・ケイジが並び、退屈そうに欠伸をしている。

「おはようございます」

「おう、トバリか。もうおはようって時間じゃあないぞ。知人の方は楽々、二回戦進出のようだな」

「でへへへ」

 自分が誉められたかのようにだらしない笑みを浮かべる様に、ソウベは大口を開けて笑った。

 それから傍らで迷惑そうな顔をしている男を指差して紹介を行う。

「お前は興味無さそうだったがな、今回はこいつが優勝だ。お前が勝ち進めば、二回戦の相手になるストライカー・ケイジだ」

「どうだかな」

「そうだよ、勝負はやるまで分かんないよ!」

 ソウベの言葉に口を尖らせるトバリ。ケイジはそれを否定し、予測は付くものだと皮肉な笑みを浮かべる。

 少女を敵とすら思っていない男は、ただ一人、エンジーだけを別格だと語った。

「勝てんね、アレは。今回は準決勝にも行けやしないさ」

「全力でもか?」

「無理だな」

 ケイジの断言にソウベは赤い顔のままに目を細めて、席について寝ている様子の女を睨み付ける。

 そうか、奴か。

 納得したような言葉にトバリは大きな疑問符を浮かべながら、女とソウベとを交互に見やった。

「うーん。よく分かんないけど、そんなに強いの? あの人」

 改めてよろしくと片手を差し出されて、ケイジは所作無くその手を握る。

 それからと男はエンジーへ視線を向け、話してみれば分かるかもしれないと鼻で笑った。

 その言葉を真に受けて、なるほどそうかと頷き小走りに去るその姿。ソウベはじろりとケイジを睨み付ける。彼は小さく肩を竦めて、祭りに暴れるつもりで来る者などそうはいないさと語った。



 見れば見る程、その女は〝浮いている〟ように感じられた。

 結局はつまみ食いなどして時間をかけて駆け寄ったトバリであったが、現実世界の服装に近いエンジーの格好はファッションとしてだけでなく、この武闘祭の参加者としても似つかわしくない格好に思える。

 それはケイジにも言えたことであるのだが。

「…………、うっ」

 項垂れるようにしていた女の前に回ると、エンジーはすでに目を開いて仄暗い視線をこちらに向けていたのだ。

 少女は萎縮した後、ケイジにしたのと同じく握手を求めて片手を差し出す。

「は、初めまして。大会前も会いましたよね? トバリ・レンジョウです」

「…………」

 エンジーは暫く無言でその手を見つめていたが、特に何かを言うでもなくその手を握った。否、握るというよりも包み込むような、優しく、絡み付くような動きだった。

 手の甲を撫でるような親指の動きに驚いて手を引くと、名残惜しげに、その手は少女の温もりを確かめるように空で握られる。

 ややあって下がった手に、変な人だ、と少女はエンジーを評した。

(同じ格闘家の人みたいだし、ケイジさんの対策とか教えて欲しかったけど……止めといた方が良いかな……)

 などと考えていると、その頭上に影が差す。エンジーが立ち上がったのだ。

 きょとんとして見上げていると、長身の女は何も言わずにトバリを抱き締めた。第一印象よりも、やはりがっちりとして感じられるその体躯に驚き慌てて口を開閉させる。

 うなじに顔を近づけた女に、体臭を嗅がれているとはっきり意識した少女はエンジーを突き飛ばした。あっさりと離れたそれを真っ赤な顔で睨みつけるが、エンジーの顔色は変わらず、あの目で見つめ返すだけだ。

「へ、変な奴っ。試合にあたったら絶対、負けないから!」

 肩を怒らせるトバリの所作に、エンジーの中で揺れ動く感情がその瞳に表れた。

 それを感じ取った少女は背筋を走る怖気にぶるりと震える。怒りを感じた訳でもない、その〝何か〟の感情が、少女に影響を与えたのだ。エンジーから目を離さず後退すると、十分に離れてから踵を返し、脱兎の如く駆け出す。

 それを見つめて、エンジーはようやく席に着く。それから彼女は、腹に抱える空腹を無視するように瞼を下げた。

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