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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
白黒つけるぜ武闘祭!
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第七十三話 いつからこんなに弱くなったのかねえ、私は ~別れを胸に、彼女は笑う!~

 突如、少女トバリに仕えることを宣言したメイド部隊と名乗るそれらは、フューの拒絶の言葉にも顔色ひとつ変えること無く、貴方に聞いている訳ではないのだと真っ向から言い返した。

 作り笑いを浮かべているものの、不機嫌さを増していくフューに慌ててトバリが前に出る。何故、わざわざ自分に仕えようと思ったのか、メイド長の意見を聞き入れるように取り合えずそれだけでもはっきりさせて断る腹積もりだろう。

 フューとしては無視でよかろうとばかりの態度であるが、メイド長は立ち上がり、まずはとばかりにテイマーズバトルの優勝を祝した。そして少年と間違っていたことにも謝罪する。

「我ら、仕えるべきご主人様を捜し求め幾年月。理想のご主人様と巡り会う事なく今日もまたこの町で偵察を行っていたのですが」

 あれが偵察か。

 思わず鼻を鳴らすフューを注意するトバリ。メイド長は一瞬だけ彼女に目を向けたが、続く言葉がないと知ると再び少女へ目を戻した。

「昨日のテイマーズバトル、優勝にも関わらず憂いげな表情を浮かべていたトバリ様。勝者でありながら敗者を気遣う高潔な精神と、どんな逆境でも下の者を信頼するその姿勢、心配はされども下と共に戦うお姿を拝見し、これこそ我らメイド部隊が仕えるべきお方ではないかと考えておりました」

「あ、ああ、それで。でもあたし、もうヤモりんが居るし、フューも居るし。メイドさんは、要らないかなぁ、なんて……あははは、はは……」

 並ぶ顔の圧力に負けて弱腰な少女に対して、メイド長はご安心下さいと自信満々の笑みを浮かべた。

 炊事洗濯料理は勿論のこと、見ての通りの強固な肉体、メイド長は自分たちを高い戦闘能力とメイドとしての奉仕能力に富む存在だと語り、例えどんな敵があっても主人を守る盾とならんことを豪語したのだ。

 それは兵力としての誇示でもあり、トバリの兵隊となることさえ示していた。が、この言葉にいち早く反応したのはフューだった。

「うぐうわあああああっ! うるっさいっつーの~っ! だぁあれがあんたらみたいな目立つ女装軍団と行動したいってのよボケェ!

 主人を守る盾ぇ? 無理だわ脳みそまで筋肉で出来たようなツラ並べて何が出来んのよ! あんたら簡単に盾だ守るだ言いますけどねえ、そんな簡単な言葉如きで体言できるもんが世の中にあるならこの世界のどこを見渡しても不幸なんてありゃしないわよ! 自分らの力を過信するような馬鹿どもに救いようのある薬なんざないっての! どーせ自分より強い奴が出たら命張って時間を稼いでやるとかそんなことでも考えてるんでしょ、甘いわアホタレ! 盾が割れりゃ持ってる人は死ぬのよ、即死! 盾が五枚あろうが百枚あろうが変わらんわ! そんな甘い言葉を当然のように出してくる奴がぬわぁにをしたり顔で語ってんのよ! そんな生温い世界で生きてるようなあんたらにゃ剣盾ギルドで初心者プレイヤーに付き添って悦に浸ってるのがお似合いだっつーの!

 何、あんたのその顔の傷、落書きなの!? お遊びでやってるんなら顔の皮剥いで豚にでも食わせてなさいよ、弱肉強食が基本でしょうがこの世界はさ~! どんなに強がろうが上には上がいて、抵抗すらやれないような奴らがわんさか居るのに女装した筋肉バカが幸せそうな面して盾になる、だとかほざくんじゃないわよ虫唾が走る! こっちはガキのお守りに我侭聞いて、それでも目立たないようにってそんな奴らから逃げようとしてんのに驚天動地のド変態どもが、この私の前でいっちょまえの台詞叩くんじゃあないわよ、ぶわぁあーかっ!」

 余りの剣幕にトバリが止めることも出来ず、捲くし立てた言葉に通行人すら驚き立ち止まるその声量。眼前で大口を開けての罵声に大量の唾を浴びても顔色ひとつ変えないメイド長は、肩で息するフューに、言うべきはそれだけかと静かに問う。

 睨み付ける視線すら意に介さず、それでも我らは守るのだと、その決意を口にするメイド長。おそらくはフューの言葉、受け取っていない訳ではないのだろう。ただの罵倒ではない、この世界の厳しさを知り、生き延びているからこその言葉だと。

 だからこそ、自分たちはこう在りたいと、理想を口にする。それはトバリと似通った思念を伴い、フューには不快でならなかった。

「ああ、そう。もう良いわ、言うの疲れた」

 交換だとばかりに少女の肩に手を置いて、どっかと天下の往来に腰を下ろす。どこかすっきりしたような顔にトバリは、今日まで抱えていた何かの捌け口となったのだろうかと彼女の様子を盗み見る。

 が、問題は眼前の者らであろう。最早言葉無く見つめる彼らに、やはり出来ぬとトバリは頭を下げた。

「ご、ごめんなさい。やっぱりあたし、その……女装とか……良く分からなくて、一緒に行くのは嫌と言うか」

「そうですか。いえ、お気になさらず。この格好は彼女たちの美しさを際立たせる為に、率先して着込んだものですので、私の趣味を理解して欲しいなどとは言いません」

「…………、えっ?」

「はいぃ?」

 二人して間抜けた声を上げる。メイド長は四人に振り返り、女装という過ちを謝罪した。それを受けとらず、涙を見せ始めた彼女らの姿に周囲がどよめく。

 そう、男であるのはメイド長の一人だけで、後ろに控える四人は全て女性だ。少女が出会った中でもバランス良く、極めて良質と感じたヘイズの肉体美を更に上回る筋肉を備え、洞穴から響くような低い声を発する四人こそ、正真正銘の女性と言うのだ。

「え、えぇーっ! メイド長さんが女の人じゃないの?」

「何をおっしゃいます、彼女たちの美しさに比べれば私など」

「メイド長、何をおっしゃいますか! 貴方の勧めであればこそ! 我らはメイド服を纏い、女としての誇りを取り戻すことが出来たのです!」

 いつの間にやら避けて通るべきだった彼らの姿に、野次馬も増えて涙の語り合いに合いの手すら入る。明らかに状況を読めてはいないのだろうが、感動する雰囲気を感じ取るのだろう、祭り好きな町民らののりの良さに脱力しつつ、自分たちの世界にこもったメイドらから離れるようフューは少女の手を引いた。

 しばし呆けていたトバリであったが、凄まじい光景であったと腕を組む。フューはただ疲れて、どうでも良いと一言だけ残した。



 刺繍屋に戻ると、きちんと製作の完了した外套を被って椅子に鎮座するヤモりんと、厚い皮の手袋で手先を防護する男とが居た。戻ってきた少女をじろりと睨みつける様子に全てを察したフューは、頭を下げてトバリに追加で金を払うように命じる。

「……いえ、そこまでは不要ですが……次回から同じようなことをすれば、途中であっても仕事は取り止めとさせて頂きますからね?」

「す、すみません」

 素直に頭を下げると、男は済んだことだと笑った。続いてヤモりんに被さる外套の端を持って広げると、仕上がりの確認を願う。

 トバリはそれを見て、思わず声を上げて喜び、フューもまた想像以上の出来だと唸った。

 黒の生地に大きく描かれた深い緑の月桂冠。その輪の中に佇む、明る過ぎない白でまとめられた鳩の姿。尾と同じく右を向いたその顔はどことなく誇らしげで、何がしかの枝を咥えている。それはトバリの予想を遥かに超えて雄々しくさえも映った。

「月桂冠は、ローマ帝国の闘技会でも優れた技術を持つ者に贈られたと聞きます。なので少し、鳩にも誇らしげにしてもらいました」

 お連れ様の要望とは異なりますが、そちらにも応えるべくオリーブの枝も咥えさせております。

 苦笑する男へ、良き判断だとトバリは頷き、フューもまた仰々しいが落ち着いた色合いならば構わないかと頷いている。

 月桂冠の意味を説明された所でトバリは気づくことはなかったが、フューはこの紋章には意味を持って作成していた。それを酌んでくれたような店の男の計らいに思わず頬を掻く。

 早速友から外套を剥がし、ついでとばかりに乱暴を叱りつつ腰の鞄へ収める。符となったそれをフューに願い背に貼れば、見事な外套がそこに現れた。

「…………、にひひひっ」

 頬を染めて嬉しそうに笑う少女を、もう少し小気味良く笑えないのかとフューは笑う。

 互いに笑い顔をつき合わせていた二人だったがそれも終えると、刺繍屋の男へ礼を言って代金を支払う。別れを告げて歩き出した二人、目的としては今後の予定をはっきりさせることであろう、当初の通りに別行動を示すフューに、トバリは力強く頷いた。

 少女の心根に残っていた不安と寂しさは、もう消えていた。



「食料つっても簡単な携帯食料だし、日が暮れる前には戻って来ること」

「了解っ」

 フューの言葉にびしりと敬礼を見せ、町の門で順番を待つ少女。町から出る時は入る時程ではないが検査がなされるのだ。滞在目的を終えて町から離れる場合はその検査も複雑になるが、今回は温いものだ。安全面の軽視とも取れる状況であるが、多くの人が常に出入りする橋の町の実情を考えれば止む無しとも思える。

 少女が衛兵と軽く言葉を交わしている間もこちらを気にしているように目を向けるので、苦笑しながらも片手を挙げれば笑顔を見せる。まるで子供のお使いを見守っているようで微笑ましい。

 以前の自分なら疎ましさすら感じていただろうが。

(まあ、見張らせてもらうんだけどね)

 実の所、少女を信頼している訳ではない。トバリの行動を見て、効率が悪ければ指導を入れる予定なのだ。

 何故ならば、単にそれは、彼女が少女との決別を意識しているからこそだった。手取り足取り、全てが出来るようになるまでその成長を見守る気のないフューは、今回でトバリの行動を見定め、直すべき点、すべきことを告げて、この旅に終止符を打とうと考えていた。

 そんなこと、露ほども知らないのであろう少女が明るい顔をこちらに向けて手を振る様は、滑稽なようでいて、その実、フューの胸に刺さるものだった。

「……はぁ~……、いつからこんなに弱くなったのかねえ、私は」

 夢の世界で他人の顔色を窺うようになるとは。それも、自身の不利益などとは関係のない場所でだ。

 さきほど罵倒したメイド一団に宛てた言葉の幾つかは、自分にも返ってくるものだった。だからこそ我慢が出来なかったのか、今までの不満と怒りが一気に爆発してしまった。

 まあ、良い。過ぎたことだ。

 少女の姿が見えなくなったのを見計らって、フューは欠伸をする。トバリの個人修行がどんなものか、面白おかしなことをやっているのだろうと様々な少女の間抜けな姿を思って笑う。

「ほんじゃま、いきまっか!」

 手を叩いて気合を入れるフュー。その目は彼女が笑う少女と同じ輝きがあった。

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