↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダーティース!  作者: 梢田 了
白黒つけるぜ武闘祭!
72/117

第七十二話 ご主人様となって下さいませんか? ~メイド部隊参上、イン橋の町!~

「これ、幾ら?」

「三千メダルです。こちらも同じ値段ですよ」

「……へえ……いいねえ、そっちも一緒に買うわ」

 邪な笑みを浮かべて商品を受け取るフュー。それからふと、いつもは人で溢れる表通りの一角に、明らかに人が避けている部分を見つける。

 疑問に思い、今しがた買った環状の物で覗く。その後にやってきたトバリが何をしているのかと声をかけ、振り向いたフューは未だに外套が完成していない事に気づきお前こそ何をしているのだと質問で返す。

「ありゃ、なんであそこだけ人が避けてるんだろ?」

「無視ー! ま、いいけどね。あれに気づくとは流石だねトバリどん」

「何がドンなの、フューべぇさんや」

 言い返すトバリにフューは悪戯っぽく笑うと、あそこへ行ってみようか、そう言うのだ。

 トバリも満面の笑顔で頷き、二人で人の避ける場所へ走り出す。以前は人を掻き分けたせいで注意を受けた為に無理に進むような事はしない。

 やがて人混みを抜けた時、トバリは目を輝かせた。朝日を受けて並ぶ五つの後ろ姿、それらは全て少女の思うメイドの姿をしていたのだ。

 ふっくらとしたスカートに黒でまとめられた衣装、アップでまとめられた髪、それらを認めたトバリとフューは思わず顔を見合わせて五人の元へ駆け出す。

 しかしそれも、その姿が近づくに従い力無いものとなり、やがて止まる。

 筋骨隆々のその後ろ姿。手元は前にあるのか見えないが、肩から二の腕にかけての見事な造形は、あのヘイズを超える。

 腕を前に回したことで張り出した背のはち切れんばかりの筋肉が、その服を押し上げている。

「ぬ?」

 気配に気付いたか、野太い声を漏らし振り向こうとしたそれに、トバリは慌てて踵を返す。しかし、それよりも先に背を向けたフューの足に躓いた少女は転んでしまう。

 見捨てないでとばかりに彼女の名を叫ぶトバリは上手く立てないのか四つん這いだ。それに振り向くでも気にする様子も見せず、あっという間にフューは人混みに消えてしまった。

 その小さな背を覆わんばかりの巨大な影がひとつ、地面に落ちる。びくりと体を震わせ、顔さえあげられなくなったトバリへかけられたその声は。

「少年、どうした。迷子かな?」

 聞いたこともないような低い声に答えられずに居ると、不意にその体が抱えあげられた。驚いて目を丸くすれば、視界一杯に岩から削りだしたような大きな顔が広がっている。

「あああああ、い、いいいいやや、大丈夫、大丈夫なんです!」

「そうか。では」

 優しく地に降ろされ、何とかお礼を述べて離れようとするも、トバリは足を縺れさせて転倒してしまう。

 大丈夫ではないではないか。

 頭上で雷のように響く大声にトバリは身を竦ませてただ謝罪を繰り返した。完全に腰が抜けて立ち上がれなくなっていると、騒ぎを気にしたのだろう、他のメイド姿も集まってくる。

「どうしたのだ、ミズ・コーポラル」

「はっ、ミズ・メイジャー。この少年、足を挫いたようで」

「なんだと!? 状況を説明しろ!」

 ずずん、と腹に響くような重低音に最早、膝が笑って動けない。

 少女を取り囲むようにして聳えるそれらは髪や肌の色は違っても、その肉体の造形がどれも似通っていて判別すらつかなかった。ミズ・メイジャーと呼ばれた女は顔を裂かれたような傷跡があり、それだけに他との見分けは容易かったが。

 少年と、いつもならばすぐに訂正する勇気さえわかずに目の前の光景に圧倒される少女をミズ・コーポラルが再び抱き上げる。

「転んだこの子の呼びかけに気づかず、離れる者の姿がありました! 恐らくは迷子ではないかと!」

「なるほど、……ではまずその子の具合を……」

「何をしている、ミズ・メイジャー。やるべき事は決まっているだろう」

 凛として響くその言葉。周囲の低音故か涼風のように駆け抜けた涼やかな声に、思わずトバリも視線を向けた。

 周囲の四人と違い明らかにサイズの違うその者は細く、端正な顔立ちで腕を組んでいる。腰ですらトバリを抱くミズ・コーポラルの腕より細いだろう。

 女だ。思わずトバリは呟き、集った視線に下を向く。

「ミズ・メイジャー。まずその少年は不安である。お連れ様とはぐれたせいだ。故に転び、ミズ・コーポラルに抱かれていても落ち着かず挙動不審なのだ。だからまず何にも増して優先すべきは、そのお連れ様と合流させる事にある」

「……いあ、そんなことは……」

「な、なるほど、盲点でした! 緊張状態とリラックスした状態とでは治療にしても効果の差は歴然! さすがはメイド長、ご慧眼、感服致します!」

 轟音とも呼ぶべき声量に続く言葉を蹴散らされ、顔を俯けたトバリは怒涛の如く流れる状況に口を噤み、ただ終わる事だけを願って目をつぶる。

 その様子に気づいたミズ・コーポラルは緊張も限界かとミズ・メイジャーに発言を求めた。

「発言を許可する!」

「少年のお連れ様の走った方向ならば分かります。急ぎ確認し、早急に合流させるべきかと!」

「……うむ、致し方あるまい……。メイド長、跳人(チョウジン)の許可を!」

「了承する。時は一刻を争うだろう。ミズ・キャプテン、ミズ・サージェント、発射台用意!」

『イエス、メイド!』

 謎の掛け声と共に、腕を組むだけで微動だにしていなかった二つの巨壁が身を屈める。みりみりと服が今にも避けそうな音をたてるのを恐怖しつつ、トバリはその二人が互いに組んだ手に上るミズ・メイジャーに驚愕する。

 人間投擲。

 体を緊張させる二人にすべき事を瞬時に理解したトバリは、肉の塊の迫撃を受けて磨り潰されるフューの姿を容易に想像してしまう。

「ま、ままま待って待って! いくらなんでもそんなされる程、フューは悪い事してないよ!」

「安心なさい、少年。我らのメイド力にノットはない」

「したり顔で何の話してんの!?」

 友人の危機に本気で暴れるも、がっちりと押さえ込まれて上手く力を出しえない。それでなくとも少女の怪力は驚くべきものがあるのだが、このミズ・コーポラル、それを遥かに上回る筋力を持っている。

 少女の動きなど意に介さず、メイド長と呼ばれた女はミズ・コーポラルの前に立ち、方位を確認する。

 ゼロ、エイト、セブンの言葉を復唱するメイド長。それに合わせて人間発射台も可動する。自らの指で風を確認し、ミズ・コーポラルの言葉により発射高度を調整。完了だと、満面の笑みで頷くミズ・コーポラルを注意しつつ、メイド長は着弾地点は良好かと問い質す。

「着弾地点確保、秒数十! カウントダウン開始します! スリー、ツー、ワン」

「ファイア!」

『フゥー、アァアアッ!』

 号令と同時に左右フルスイングで振り回される腕を足場に、高々と跳躍するミズ・メイジャー。あの巨大な影が一瞬で豆粒のような大きさへと変じた事に衝撃を受けるトバリを、どこか誇らしげな顔でミズ・コーポラルは見下ろしている。

 一方、その様子など分かるはずもなく、はぐれた少女が囮になっているだろうと満足げなフューは肩を回していた。

「なぁーんか、一気に疲れたなー。刺繍も気になるし、まずそっちに回ってからトバリちゃんを回収――」

 直後。

 黒い塊が目前に突如出現し、烈風と地響きを轟かせて静止する。壁にも見えたそれが空から降ってきたものだと気づくに、彼女は幾らかの時間を要した。

 着陸時すら揺れぬ鉄壁のスカートにその存在以上の異様を感じ取りながら、乾いた喉に無理やり唾を通して声を発する。

「いや、あの、えと……何……?」

「はっ! 私の名はミズ・メイジャー。お連れ様が貴方様をお待ちです、とても不安がっておられるので、どうぞ!」

 出鱈目に顔を裂かれたような傷跡の巨顔に、大の男の頭のひとつやふたつ、あっさりと砕きそうな手が差し出される。

 周囲が何も言わずに離れる中、フューは愛想笑いを浮かべて人違いだと、素早くその場を離れようとした。

 それから、トバリと同じく抱えられたフューが合流するまで、彼女が落下したミズ・メイジャーを認識するのにかかったほど、時間は要しなかった。



「お初お目にかかります、フュー様。私はメイド長と申します。我ら流浪の旅を続ける私設メイド部隊、決して怪しい立場ではありません。本日は、こちらの少年がはぐれたようで一刻を争う場面と我ら、ご勝手をさせて頂きました」

「いや、いいんだけど」

 巨木を思わせる体に締め付けられた全身を解すフュー。トバリなどはすっかり怖がっているのか彼女の後ろから顔だけを覗かせている。

 頭を垂れるメイド長に続く四人も頭を下げる。今すぐにでも離れたいという顔を崩さぬフューは、それではと愛想笑いなど浮かべて踵を返す。

 その肩へ、お待ちをと柔らかな手が置かれて先程の巨体との差にぞくりとした。

「そちらの少年、どこかで見覚えがあるのですが」

「…………、トバリちゃん、また君絡みなの?」

「えっ、知らないよ!」

 ふむ、と思案するメイド長に対し、ミズ・コーポラルが唐突に挙手を行い発言を求める。メイド長からの許可を得て姿勢を正し、顔を上向ける姿は服装さえ除けば軍人そのものだ。

「メイド長、こちらの少年、昨日テイマーズバトルに優勝したトバリ・レンジョウ様と見受けられます!」

「何、トバリ・レンジョウ?」

 その言葉に目を見開き、失礼、と一言入れて少女の顔をまじまじと覗きこむ。すっかりおじけるトバリはフューの背に完全に隠れてしまった。

 メイド長はなるほどとひとつ、ふたつ頷くと突然に傅いた。残りの四人もこれに倣う。

「トバリ・レンジョウ様、我らメイド部隊のご主人様となって下さいませんか?」

「要らんわ消えろ」

 礼を尽くさんとばかりに輝く目で見上げたそれらに、フューはとびきりに不機嫌な様子の笑みを見せて即答した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。