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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
白黒つけるぜ武闘祭!
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第五十六話 もしかしてだけどさあ、仲悪い? ~悪名高きは神父かフューか!~

 人ごみの喧騒から離れて。

 フューとトバリは飯屋の裏でカンナとの交信を試みる。少女が手に持つ腕輪に息を注ぐと、物は輝き、そこから発生した光球が二人の顔を照らし出した。

「そう言えばさ、この指輪、なんかもう全然光らないね?」

 フューに向けて赤銅色の指輪を掲げる。彼女と言えばそれはそうだと頷いて、四六時中光れば鬱陶しいものだから、その光量を抑えているのだとした。それに第一として、黒服集団に狙われているとあらば尚更だ、目立つ訳にもいくまい。

 そんなことも出来るのかとトバリは目を瞬かせるが、そもそもはこの指輪はフューの内から生成されたものだ。そういった特性の発現は彼女にしか出来ない。

 フューはそんなことよりもと少女を急かし、少女は慌ててカンナの名を呼んだ。

 しばし後に光球から返事が響く。

「はい、トバリさん? どうかされましたか」

「あ、カンナさん。あたしって言うより、フューから用事だよ」

 嬉しそうな声であったが、女の名を聞いて幾分か声のトーンが落ちる。僅かながらの差にトバリは気づいていないようであったが、フューもその様子の違いは承知の上だ。

 少女から渡された腕輪を持って、ご機嫌はいかがかと問えば、上々だとカンナも答える。

「それは良かった。所でだけど、カンナさんたちはヘイズって人と一緒なんだよね?

 突然で悪いんだけど、その人と代わって貰えるかな?」

「……ヘイズを……ですか?」

 フューの言葉を受けて、カンナは声を潜めた。

 彼は今、近くにおらず、伝言ならば引き受けようとするカンナに対して、フューはどうするかと悩んでいるようだった。

 何か、自分には言えないことなのか。それほど事は重大か。

 問うカンナへ、そうではないがとフューは小さく息を吐いた。

「オーケイ、話すわ。簡単なことなんだけど、太陽教のヴァーダン神父。アレの目撃情報があってね。

 未確認情報だからなんとも言えないけど、情報を持ってきた奴も、私やヘイズさんには関係あることだから伝えておいて欲しいの」

「ヴァーダン神父? …………、分かりました。伝えておきます」

 カンナは驚いたようだが、未確認情報とのことだ。それほど信用できるものではないと判断しているようにフューには感じられた。

 とりあえずも、伝えてくれさえすれば良い。

 応対を受けたカンナに感謝し、通信を終了する。フューは腰に両手を当てて、低く唸った。

「……もしかして……もしかしてだけどさあ、仲悪い? フューとカンナさんって?」

「うーん。どうかな。少なくともカンナは私を不信しているようだし、私もあの女を信用する気にはなれないね」

「えっ、どうして?」

 対象の肉体に爆弾を植えつけるような魔法を使う人間を、信用など出来るものか。

 目を見開いた少女に言ってのける。あのような悪質な魔法はそうそう見るものではないとフューは語り、特殊な環境化であったとしても例外ではないのだとした。

 ダンジョン内に魔法の影響を与えないよう、最小限の範囲での攻撃。これだけの情報を抜き取れば理に適って見える代物。だが彼女は、自ら接触することでこの魔法を相手に付加したのだ。

「爆発系の魔法使いで自分から近づく? そんな危ない芸当して、危ない魔法使うようなの、私は真人間だなんて思えないって」

「ええ? そうかなぁ。…………?

 あれっ、そういえばフューって、あの場に居たっけ?」

 少女の素朴な疑問に思わず咳き込む。

 まさか、危機に瀕していた場面を面白がって覗いていたなどと言えるはずがない。その日の夜に、トバリ自身から聞いたのだと無理やり丸め込もうとする女へ、少女は疑いの目を向けていた。

 そんなことより、とフューが話題を変える。

「早くご飯だよ、ご飯! 精力つけて、明日に備える。これ大事!」

「……まあ、フューの奢りだからいいけどさ……」

 ぼそりと呟いた言葉に口元を引きつらせ、口にしないまでも感づいている様子の少女に、了解したと愛想笑いを浮かべた。



   ◇ ◇ ◆ ◇ ◇



 始まりの町、ドリームホップ。

 黒の集団による襲撃で半壊したその町の整備にも目処がついた頃、初心者支援ギルド世界の剣と盾の第一グループ第三番隊、ヘイズをリーダーとする分隊の彼らは今もなお町に滞在し、復興作業に精を出していた。

 午前の作業も終わり、食べ物をとキャンプ地に戻る帝都からの労働力と共に、ヘイズも自らのキャンプ地に憔悴した様子で戻ってきたノノムラを見て笑っていた。

 それより先に戻っていたカンナに目を向けて、あまり見かけない表情にヘイズは眉を潜める。

「どうした。揉め事か?」

「いえ、トバリさんとフューさんから、連絡です」

 背後からの言葉に、カンナは笑顔で返した。その笑顔を受けて、何事でもないならば良いとヘイズは背伸びをする。

 何事でもないとはいかないが、そうカンナは難しい顔だ。普段は見せない表情に眉を潜める男へ、とりあえずは飯が出来てから話そうと苦笑する。

 デフォルメされた花柄の前掛けをするこの屈強な男は、事があるのならば飯の用意などとは言っていられないと釜の番をノノムラに投げつけた。

「リーダー、焦がしてしまっても?」

「俺は構わんが、ダイテツに尻を射られるぞ」

「うへえ」

 渡された前掛けを同じく腰に巻くノノムラ。傍目に見ても必要性は皆無であるが、ヘイズの妙な拘りに文句もなく付き合う彼に親指を立てるカンナ。

 ノノムラは溜息しながらそれに返した。

「それで何があったんだ?」

「ヘイズ、確か貴方はギルド・ワンダーティースに所属していた、というお話でしたか?」

「…………、まあな。それが?」

 嫌な予感しかしない。表情で語るヘイズにカンナも低く唸る。

 太陽教のヴァーダン神父。倒された瞬間を見たことがあるのかと。

 女の問いにヘイズは表情を険しくして、それを否定した。

「まあ、信用の置ける相手から、その最期は聞いている」

「その相手と言うのは、どなたですか?」

 言わんとしていることを悟ったか、彼は大きな声で女の名を呼んだ。

 ダイテツ。彼女は、彼らのグループに所属し、大型ギルド世界の剣と盾の前身となったギルド、〝ワンダーティース〟にもヘイズと同じく身を置いていたのだ。

 ヘイズの大声に転寝していた彼女の体はびくりと震えたが、すぐに何事かと駆けつけた。鎧のままであるも重さを感じさせない俊敏さだ。

「ダイテツ、確かにお前は見たんだろう。太陽教のヴァーダン神父の最期を」

「……なんだってそんな事……、まあ、いいが。確かに見たさ。俺の仲間と引き換えに、あの糞野郎はぶっ殺された。

 身代わりの護符(タリスマン)が使用されたはずはないぜ、それも想定して、きちんと見張っていた訳だからな」

 だ、そうだ。

 ヘイズは腕を組んでカンナを見る。ダイテツもそれに倣って視線を向けた。

 説明を求める二人に対して、先程、受けた連絡の内容をとカンナが説明する。トバリと行動を共にするフューが、知人からヴァーダン神父の目撃情報を受けたのだと。

 彼女自身、それは未確認の情報であると伝えていたが、実際にそれが有り得るのならば。カンナの言葉に、ヘイズは顔を青ざめた。

「ヴァーダン神父が生きていたとしても、他人の空似かなにかじゃあ無いのか?

 あいつはギルド戦争を引き起こした張本人だぞ、まだ事件が完全に風化した訳じゃない。帝都にだって追われているだろう、人前に出られるものか」

「待て待て、待てよ。フューだと? 確かに、〝あの〟フューがそう言ったのか?」

 ダイテツの反応に驚いたのはカンナだ。例の少女、トバリと一緒に居るのかと問うダイテツに、そちらこそ顔見知りなのかとヘイズ、カンナも問う。

 すれ違いでフューと顔を合わせることのなかった彼女だが、件の食料泥棒に仲間内で笑っていた。だが、このグループの中で彼女の人間性を最も知るのはダイテツ本人である。

「知ってるも何も、俺はワンダーティースでフューと同じグループ、〝ロロン・チョッパーズ〟に居たんだ。

 それにな。ヴァーダン神父を殺したのは、フュー本人だぞ」

「……実戦慣れしている印象はあったが……彼女が、あのヴァーダン神父を殺せるとは思えないな」

「一人で戦った訳じゃないからな。言っただろう、仲間と引き換えにしたって」

 なるほど。

 ダイテツの言葉にも、未だ信じられずとするヘイズに対し、カンナはあっさりと受け入れた。仲間を犠牲に出来る精神性は、確かに彼女からは感じられたからだ。

「まあ、それがフュー本人かは分からんが、鉄帽を被っていたっていうのなら、本当かも知れないな。

 だけどな、あのフューが足手まといになる人間と一緒に居るなんて、考えられん。なあ、ヘイズ、あのトバリというガキは、本当にあのまま行かせて良かったのか?」

「またそれか。ノノムラもお前も、一体何をそこまで警戒しているんだ」

「あんたの警戒心が、あのガキにだけやたらと働いていないから、俺らが警戒しているんだろうが。

 あのガキ単体ならまだ良かったがな、フューはあの〝亜人殺し(デミ・ハンター)〟だ。ギルド戦争の時に誰彼構わず亜人共をぶっ殺して、〝獣の魔王〟にも挑んだなんて噂さえ流れた気違いだ」

 おい。

 ダイテツの言葉にその口を塞ぐヘイズ。辺りを見回して、誰もこちらに気など留めず、飯の準備に汗していることに安堵する。

「忘れるな、ダイテツ。ここにいる作業員は全て帝都から遣わされている。〝あいつ〟には触れるな」

 了解した。

 苛立ち、その手を引き剥がすダイテツ。カンナはそんな彼女を見て、昔の仲間であったろうに、何か確執でもあったのかと問う。

 仲間ごと、ヴァーダン神父を倒したというならば、そこに問題でもあったのだろうか。しかしダイテツは彼女の問いに対しても、確かに、それが原因で蟠りはあったが、と思わず息吹く。

「それだけじゃねえ。あいつは、他の仲間も殺してる。亜人だった俺たちの仲間を、殺したんだ。躊躇いなくな。だから今回のガキとつるんでるって言うのも、俺には裏があるように感じられて仕方ねえ。

 生き残った他の二名は、多分、まだあいつを好きでいると思う。話を合わせたりもしたが俺は、あんな冷酷な、危ない奴とは金輪際、出会いたくはねえな」

「…………。亜人殺しは、ギルド戦争の時にも名が挙がって、俺の部下にも犠牲となった者が何人か居る。

 あれがそうなのか。仲間ですら殺せる人間が、ああも気楽に笑えるのか」

 ダイテツの言葉に、ヘイズは項垂れた。昔の話、部下の仇としてその亜人殺しを考えたことは無いとするが、実際に目の当たりにしても実感が湧かないのも確かだろう。

 どちらにせよ、ヘイズは行動するべきだと唸った。

「キャンディ・ロードに向かう。フューに真相を問い質す。こちらを何らかの策に巻き込もうと言うのならば、トバリが利用されているならば、行くしかあるまい」

「待てよ、会合前にあそこへ戻るって、何日かかると思ってんだよ」

「カンナのマジックアイテムはどうだ?」

「……残念ですが……ひとつの場所を記憶すると、別の場所を記憶するのに時間がかかるようで……それもいつまでかかるかは、わかりません」

 ならば、やはり直接行くしかあるまい。

 荷物をまとめ始めるヘイズ。その彼の手荷物を奪い取って、ふざけた真似を晒すなとダイテツは指を突きつける。

 何らかの謀略に巻き込まれているのだと知れれば、それを救うのが当然のこと。初心者支援ギルドの名折れになる。そう口にするヘイズの厚い胸板に拳を打ち込む。

「ふざけた真似を晒すなと言ったぞ、ヘイズ。それは初心者支援ギルドの話であって、お前の話じゃねえ。

 こういうのはな、俺やカンナや、ノノムラだったりレイニーだったりが行くもんだ。リーダーのお前はどっしり構えているか、会合に出て行ってギルドマスターと口喧嘩をおっ始めるのが仕事なんだよ」

「……しかし……」

「そういう所だよ、リーダー! 俺やノノムラが不安になってるのはよう。なんであのガキにそこまで固執する? なんでそうまでしてあのガキに正当性を持たせたり、関わろうとするんだ!

 惚れた腫れたの話ならぶち切れるぞ、こっちはよ」

 ダイテツの言葉に、アレはないだろうとげんなりするヘイズ。その様子に、やや肩透かしを食らったような表情を見せた彼女だったが、すぐに気を引き締めて、どちらにせよ、と言葉を続ける。

 ヘイズは残る、自分が行く。

 それをヘイズに叩き付けて、自らのテントへと肩を怒らせて戻って行った。その背中を見送って、多少は気まずそうにノノムラの視線がヘイズに向く。

 それを気にしてはいない、とばかりに手を振って、彼はカンナに視線を移した。

「カンナ、お前の心象はどうだ?」

「フューさん、ですか? 陰口みたいになってしまいますけど、正直に言えば、油断の出来ない人、信用の置けない人、ですね。

 例のダンジョン探索の時には、多分、わかっていてトバリさんをモンスターの囮にしている節が見受けられました」

 勿論、自分も。

 指し示す彼女に、そうか、と溜息を吐く。

 フューという人物を自分たちよりは知っているであろうダイテツに任せるべきかとヘイズは肩を回し、カンナにも休むよう命じた。それを受けて下がる彼女を見送って、一人、考える。

(何故、俺はトバリに関わろうとするんだろうか。答えは、分かっているつもりだが)

 虐殺者(ジェノサイダー)との繋がり。

 虐殺者にとっての特別。

 虐殺者の、唯一心を許せる存在。

(……有り得ない……、いや、有り得ないことが有り得ない、か。

 ヴァーダン神父に関しても、死んだから蘇らないとは、限らない)

 日々、この世界は形を変えている。

 ワンダーランド。その謎の鍵が、あの少女にあるような気さえするほどに、ヘイズは自らの思っている以上に、少女へ強い想いを抱いていた。

 それは恐らく、嫉妬もあるだろう。ヘイズは自らの内にある、清いと思えぬ感情を挙げる。

 手も届かぬ場所の認めて欲しい相手に、認めて貰うこともなく、なのに認められた存在が近くに在る。それは苦痛にも近い。だからこそ、自分は少女に近づき、あの男の残滓を感じようとしているのか。

(認める訳にはいかないな。俺はあいつとは道を違えたんだ。……それを……まるで……後悔しているとでも言うような、この感情は……。

 仲間に、申し訳が立たん)

 組んだ腕に痛みが走る。

 見ると、よほど強く握っていたのか、爪すら立てたようで出血していた。指先の血を舌で拭うと、何をやっているのかと怪訝な顔のレイニーが食べ物を求めてやって来た所であった。

 ヘイズは苦笑し、大丈夫だと言って彼女を釜へ行かせて、傷の手当をと自らの鞄を漁った。

神父関連にようやく筆を入れることが出来ました。

物語自体はまだまだで、当初の予定よりも進められていませんが、ぼちぼち頑張っていきます。

書けない間はヘイズ・キバルトとギルドウォーなど過去編の構想にも肉付けできたので、無駄にならなかったのは良かったです。

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