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ワンダーティース!  作者: 梢田 了
白黒つけるぜ武闘祭!
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第五十五話 しみじみ言うの、止めてくれない? ~再会には安心を!~

「やっぱり、フューなのね! 良かった、元気そうで」

「……リズィー……」

 自らの名を口にする女に、フューは驚きの顔を浮かべた。

 リズィーと呼ばれた女はこちらの様子に安堵したようで、目に涙すら浮かべている。黒縁の眼鏡を外し、瞼を擦るリズィーに、それは大袈裟だとフューは苦笑した。

「大袈裟なもんですか。私たちのギルドがバラバラになってからの貴方の噂、知らないとでも思ってるの?」

「いやぁ、その節はちょいと、誇大妄想にハマっておりまして」

 舌を出す彼女へ、ふざけているのかと溜息を吐く。しかし、それも僅かな間で、リズィーの知るフューと違わぬ態度が彼女を安心させた。

 リズィーはふと、彼女の被る鉄帽に目を向けた。正面に走る赤い線に思わず顔を歪め、同じ笑みを浮かべるフューのその裏に、未だ冷めぬ執念を感じ取ったのだ。

 それに気づいたフューは笑みをそのまま、リズィーから顔をそらして手摺にもたれた。

 もう、五年になるか。

 フューの言葉にリズィーは頷く。

「私らのギルドが崩壊して、色んなギルドに枝分かれして、私が暴れて。

 リズィーは? なにか、変わったことあった?」

「…………、色々、あったわよ。私、今は店を持ってるしね」

 ここには仕入れに来たのだ。

 そう言って笑うリズィーは表にある荷車を指差した。荷車には大柄な男が欠伸をしながら、リズィーの戻りを待っているようだ。その手に持つ手綱は、人型の巨像へ繋がっている。

 おそらくはそれがこの荷車を引く者なのだろう。不動のそれに、おそらくは資金もかかる労働力を持つリズィーの経営は、上手くいっているようだと結論付けた。

 落ち着いているようで安心したと笑うフュー。ふと思い出した中で、彼女がなにがしかの店を持ちたいと語っていたのを思い出す。

 一番目の客として、今は無きギルドの面々を招待するという話であったが、それは叶わなかったようだ。

「ああ、そうだ。貴方に会う前に、ダイテツとトレインにも会ったのよ」

「え、ダイテっつぁん? 今も変わらず厨二してた? ……トレイン……って誰だっけ?」

「いや、なんか男口調になってたけれど。トレインは、あの禿、もとい、スキンヘッドの。

覚えてない? 会合で顔合わせたぐらいだっけ、フューは」

 相変わらずのキャラ作りだ。

 ダイテツとやらの素行に思わず笑い、続いてトレインと呼ばれる人物には見覚えがあるような、と小首を傾げる。

 リズィーは、偶々ダイテツとは出会わなかったようだが、として、フューがちょっかいを出していた初心者支援ギルドに現在は籍を置いており、そこでの彼女の騒動に対して相も変わらず食い意地の張った奴だと笑っていたのだとした。

 口元を引きつらせたフューに、トレインからは彼女へ伝言があると声を静める。

「ヴァーダン神父を見たって。だから、なにか情報が欲しいって言っていたわ」

「…………、はあ?」

 リズィーの言葉に不快さを顕わに、まるで威嚇するような声を出す。リズィーはその仕種に嘆息し、自分に当たるなと腕を組む。

 見たと言うのだから仕方ないし、情報が欲しいとされたから伝えただけだ、と。

「有り得ないわ。あの下衆野郎がどうなったか。知ってるでしょ?」

「ええ、知ってるわ。でも、私が見た訳じゃあない」

「だから、直接見た私が、有り得ないって言ってんでしょ!」

「――なにが?」

 思わず声を張り上げたフュー、その二人の間にひょっこりと顔を出した少女の問いにリズィーも仰け反った。

 口出しするなと言いたげなフューの視線を意にも介さず、何の話をしているのかと物怖じもせずに問うトバリに、目を瞬かせるリズィー。

「……はぁ……、あそこから良く抜け出せたわね。

紹介するわね、リズィー。私のツレで、旅のお供。トバリって言うの」

「旅のお供じゃなくて旅の友! お供って言うんならフューの方でしょ」

 アゼルの契約を行ったのか。

 頬を膨らませて赤銅色の指輪を掲げてみせるトバリに、リズィーは驚きを隠せずに少女と旧友とを交互に見比べていた。

 フューと言えば再びの溜息の後に、それを認めたようだった。

「……まさか……フューがねぇ……」

「しみじみ言うの、止めてくれない?」

 こめかみを指先で押さえる彼女に対して、これは喜ばしいことなのだとリズィーは笑みを見せる。

 それから少女に向き直って自らの名を名乗り、旧友であるフューとはかつての旅仲間の一人であったのだと告げた。

 トバリと言えば顔見知りということは雰囲気で分かっているのだから、先程の話の続きをと催促する。

「この娘、割と失礼じゃない?」

「いや、かなり失礼な部類でね」

「本人目の前にして言うのも、無礼ってんじゃないですか?」

 二人の言葉に半眼で呟くトバリ。リズィーは冗談だとその頭を撫でた。

 さらりとした手触りが心地よく、思わず必要以上に撫で回そうとするリズィーの手から逃れる少女。リズィーは少し残念そうにしながらも、フューに一度目を向けて、少女へと向き直った。

「〝太陽教〟と、如何にも神父って出で立ちの人に会ったら、気をつけてね」

「タイヨーキョー? 神父? ……太陽教……?」

 小首を傾げたトバリへ笑みを送り、フューに人を待たせているからとリズィーは別れを告げる。

 フューもまた、縁があればと明るい笑顔で手を振るう。

「この先、〝パインリバー〟を越えて更に山岳地帯を越えた所に、私たちがお店を構えている始まりの町があるの。

 今は大都市〝メタルグレイプス〟に出張中よ。フューは知っているでしょうけど、有名な温泉とかもあるから、近くに寄ったら訪ねてみてね。〝トルム・クラシック〟って名前を聞けば、すぐわかると思うわ」

 河を渡るのか。

 パインリバーの名前から目を輝かせたトバリに対して、河とは名ばかりの砂漠地帯だとフューは頬をかいた。

 シート荒野に点在する町の内、現在地であるキャンディーロードを抜けると砂漠地帯となるパインリバーが広がる。

 現実世界よりも鮮やかな黄を見せる砂の海原は広大に広がるシート荒野に対して細長く展開し、まるで荒野を跨ぐ河のようだとしてこの名が付けられたのだと言われているのだ。

 砂漠。その言葉にも嬉しそうにする少女に、あんな場所に近づきたくもないとフューは溜息を零す。

 また、大都市こと工業都市群メタルグレイプスには、少女が驚き喜ぶものが溢れているだろうとして、これ以上に騒がしくならないようあえて語らずにいた。

「まあ、そう言わずに。何か、用があったときでいいから、たまには顔を見せなさいよね?」

 荷車へ向かうリズィーの言葉にそっぽを向くフュー。

 パインリバーを越えた先にある山岳地帯。メタルグレイプスならばいざ知らず、帝都により戒厳令さえ敷かれるその場所は、フューにとって最も近づきたくない場所であったのだ。

 さしものリズィーもそんな理由がわかるはずもなくトバリに叱責されるその姿に苦笑するだけだ。

 その少女に手招きし、素直に走り寄る姿が犬に見えて思わず和む。傍らに何の用だろうかと小首を傾げるその耳元で、リズィーは声を潜めた。

「トバリ、フューがああして笑ってくれているのは、多分、貴方のお陰だと思うの」

「えっ?」

「だからどうか、これからも、フューをよろしくね」

 離れた女の笑みに、トバリは目を瞬かせた。振り返った先で、また要らぬことを話しているなと腕を組むフューを見て、再びリズィーを見上げる。

 任せておけ。

 そう、無い胸を張る少女に女は歯を見せると、頭を撫でた。

 彼女が見るに、旧友を預けるには余りにも小さな身体であったが、その心は柔らかな陽射しが如く人を照らすように感じられる。

 だからこそ、きっと、フューも少女と共に居るのだ。荷車へと乗り込んで、眠りこける大男の頭を軽く叩いて目覚めさせる。

 フューの元へと戻る少女と、そして友であるフューとに手を振って、大男の引く手綱によって動き始めた巨像により、町を後にした。

 トバリはしばらくそれを眺め、ゴーレムだとはしゃいでいたが、フューはと言えば無感動に室内へ戻ろうとするだけだ。

「待ってよ、フュー」

「うるさいなー、お腹空いてるの。とっとと戻って、とっとと食って、とっとと寝て。

 明日はなにか依頼がないか探してくるわよ」

 だから、明日は大会だと言うのに。

 トバリが非難するように口を尖らせ、そう言えばそんなことも言っていたかと手を叩く。

 が、知ったことではない。参加費用も取られては居ないのだ、諦めろとするフューに食い下がる少女。

 そこで、ふと思い出したように、金酒の代金は幾らだったのかと問えば、少女はぎこちない笑みを浮かべた。

「……まさか……」

「いあ、お金は足りたんだよ! 足りたんだけど……明日のテイマーズバトルの参加費用……間に合わなくて」

 そこで、同じく明日の大会に参加する予定だった店主により、支払いの一部を待って貰ったのだと少女は項垂れた。

 つまりはこの大会、何としても優勝しなければならないと言うことか。

 少女の言わんとしていることに、ふむと頷くフュー。しかし、正直に言えばどうでも良いことだと切って捨てて、明日は依頼探しだと断言する。

「そんなあ、だってだって、支払い遅れたら恥ずかしいカッコでウェイトレスやれって言うんだよ?」

「別にどうでもいいじゃん、私関係ないし。お店も夜にしか開かないから昼の行動に問題はないでしょ?」

 酒でも飲みながらその様を笑ってやるとフューであったが。

 顔を真っ赤にする少女の眼に浮かんだ涙に、ばつの悪そうな顔をして視線をそらす。そこまで思い悩むならば仕方が無いと、明日の大会への出場を許可したのだ。

 途端に弾ける笑顔へ、勝ててもいないのに景気の良いことだと肩を竦める。借金を払う為に賭博をするなど、どうしようもない大人の見本とも言えるその姿。

 これで賞金を手に入れられなければ、それこそ笑いものだ。

(大人しく参加費用を支払いに入れりゃーいいのに)

 考えつつも、フューへ頼ろうとしない姿勢にくすりと笑う。

 本人は宣言通りに、金の面で彼女を頼る気など元から無いのだろう、こちらが奢る分にはあやかるようだが。

 ならば少々は、これからも従者らしく面倒をみねばなるまいとフューは心の底で思うのだ。

(力だけなんてルールに加えなかったけど、単なる腕力比べって言ってたトバリちゃんには、負けちゃってるしね)

 決してそれを明かすつもりはないが。

 最早、悩み事なしとばかりにヤモりんを頭上に掲げてスキップする少女を眺め、フューは表情を険しくした。

 これらのことは問題ではないのだ。問題は、再会した旧友が持ってきてしまった。

「ねえ、トバリちゃん」

「んー?」

 上機嫌にトカゲの類の横顔に頬ずりする少女の名を呼ぶ。

 それに対してフューは、熱情の魔術師ことカンナとの連絡は可能か問う。少女は問題無いはずだと、後生大事に腰の鞄へとしまっていた腕輪を取り出した。

戦力調整のため、リズィーの所在地をパインリバーを越えてメロンソード近郊からメタルグレイプスへ出張中という形に変更させていただきました。

2017/11/14


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